番外編1 ~2人目の魔法少女~
最近テレビから流れてくる音はいつも同じだ。
「魔物に世界を乗っ取られた」
「人類は今後どうなってしまうのか?」
毎日同じことを言っていてこの人達は飽きないのだろうか?
「アタシがこんな力を使えたらどうしたのかな?」
画面に映る、一瞬で街を荒野に変えた少女を見ながらぼやく。
でも、本当に小さな女の子なのかな?望遠すぎてよくわからない。
「気になるなら君も魔法少女になってみるかい?」
窓の外から聞こえてきた声に驚き、そちらに視線を向ける。
そこには、夜の闇にまぎれた狐のぬいぐるみの様な生き物が浮かんでいた。
「え?……あ……あの……」
あまりの現実味の無さに言葉につまる。お化け?
「驚かせてすまない。でも、あの魔法少女を止められるのはもう別の魔法少女でなければ不可能なんだ」
魔法少女?漫画やアニメの中ではよく聞くけれど……これって現実だよね?でも空飛ぶマスコットキャラはいまアタシの目の前に……え?アタシもしかしてスカウトされてるの?
「混乱させてしまっているね。重ねて申し訳ない。僕は君に魔法少女になってほしくてここに来たんだ。もちろん誰でもなれるわけじゃないんだ。魔力を扱う才能と変身に耐えられる魔力抵抗値がなければ魔法少女にはなれない。幸いにも僕にはその二つが備わった人間を感知する能力がある。お願いだ!魔法少女になって僕達を助けてくれ」
矢継ぎ早に説明される。
実際混乱しており、言っている事の意味もよく頭に入ってこない。
でも、この子が困っていて、アタシに助けを求めている事は理解できる。
「うん、いいよ。こんなアタシでも誰かの助けになるんなら」
そういうと空飛ぶ狐ちゃんは目を輝かせて喜びの表情を浮かべた。
「本当かい!もしかしたら命を懸ける戦いになるかもしれない。それでも大丈夫かい?」
たしかに命をかけるのは怖いし、まだ死にたくもない。……でも……
「泣きそうな顔で助けを求めにきた子の頼みは断れないよ。あ、でも……」
「でも?」
「もしアタシが死んじゃいそうになったら……その時はちょっとだけ助けてくれたら嬉しいな」
「もちろんだよ!ありがとう!」
そしてアタシは魔法少女になるための変身アイテムを手渡される。
それは、ビー玉以上水晶玉未満な手のひらサイズの球体だった。
「その玉を強く握り、頭の中で変身したいと強く願ってみてくれ」
空飛ぶ狐ちゃんに言われた通り、玉を両手でしっかり強く握り目を閉じて祈る。
一瞬目の前がまぶしく光る感じがあり、びっくりして目を開ける。
目の前にある窓に反射して映るアタシの姿はまるで別人のようになっていた。
ヒラヒラした純白の衣装を身にまとい、髪の色まで真っ白になっており長さも変わっていた。
「気のせいかな?普段よりも目元がクッキリしてるような?」
「変身の影響は、若干だけど容姿にもおよぶからね、変身の副作用みたいなものだけど、敵に素顔がバレ難いっていう利点にはなるかもね」
もう一度マジマジと自分の姿を眺める。
普段より可愛い格好をした、少し可愛くなった自分を見て嬉しくなり、その場で一周クルリと回る。
「どうかな?似合ってる?」
「もちろんさ。純白な衣装も、君の純粋で美しい内面を映し出しているようで、とてもよく似合っているよ」
お世辞でも嬉しかった。
それくらいテンションがあがっていた。
「次はどうすればいいの?」
「そうだね……自分の中にある魔力の流れを感じる事はできるかい?」
言われてみれば確かに、自分の内面を巡る力のようなモノを感じる事ができた。
それによってどんな事ができそうなのかも、何となく理解する事ができる。
「うん、わかるよ」
「そうか。やっぱり君には才能があるよ。それじゃあまずは外に出よう」
アタシは窓枠に足をかけ、二階にあるアタシの部屋から飛び降りる。
何故だろう?普通なら絶対にできない事なのに、これっぽっちも怖いと思わない。
『普通に空が飛べる』そんな思考があり、実際その通りに魔法が使えた。
「うん、順調だ。それじゃあさっそく実戦で魔法の使い方を覚えていこう」
「え!?いきなり?もう魔物と戦うの?」
さすがにいきなり実戦は無理じゃないかな?
「コツを掴むには実際に戦いながらの方がいいのさ。大丈夫、君のその魔力なら魔王軍幹部連中以外なら簡単に倒す事ができるよ」
本当かなぁ?
「まずはサーチ魔法を使ってみるんだ。そうすれば相手の魔力量もわかるから、一番近い位置にいる勝てそうな魔物を見つけて、そいつを退治してみよう」
サーチ魔法……聞いたこともないハズの単語なのに、やり方が何となくわかった。
アタシは言われた通りサーチ魔法をつかい、自分を中心とした半径数㎞の魔力反応を……
「っっ!!!!!!!???」
背筋が凍る。
とてつもなく大きな魔力反応がサーチにかかった瞬間に、見ていたハズが逆に睨み返されたような感覚……
「まずい!魔力反応を逆探知されてる!逃げるんだ!!早く!できるだけ遠くへ!!」
突然狐ちゃんが叫ぶ。
事態を把握できずにオロオロしていると、ものすごい勢いで何かが飛んできた。
「いやぁ~ゲームのパッシブスキルみたいに私に向けられた魔力に対して逆探知できるようにしとくと便利だね。不穏因子をすぐに炙り出せる」
そこにはアタシと同じような衣装を着たピンク色の髪をした女の子がいた。
「パッシブ!?そんな常時魔力を放出し続けるような魔法を使っていて平然としているなんて……君の魔力総量が想像できないよ」
「別に一日中使ってるわけじゃないわよ。襲撃される確率の多い夜間限定」
狐ちゃんが会話で足止めしてくれている間に逃げた方がいいのは頭ではわかってる。
でも、足がすくんで動けない。
むしろ少しでも動いた瞬間に、アタシの命はなくなる。そんな気がする。
「ってかなんで新しい魔法少女?私が魔王倒したんだし必要なくない?」
「君が新しく魔王として君臨してるじゃないか!魔王軍も魔王以外は全て健在だし、まったく状況が変わってないじゃないか!むしろより強大な魔王が増えた分状況が悪化しているよ」
魔王?じゃあこの子が、あのテレビに映っていた……?
「じゃあ何?この子って私を倒すための魔法少女?ったく浮気性なマスコットキャラねぇ、そんなだから浮遊狐って言われんのよ」
「だから僕にはキューブ・エルグラ・ヴァイスシュヴァル・ラグ・ファルブという名前があるって何度言えば……」
「だから長くて覚えられないって何度言えばわかるんだよ」
そう言いつつ、ピンク色の少女はアタシの方へと近づいて来る。
サーチ魔法なんて使わなくてもわかる、圧倒的な力の差。
「逃げろ!お願いだ!逃げてくれ!!」
狐ちゃんが叫び続ける。
わかってる、逃げなくちゃ殺されるって事は。
でも金縛りにあったように体は動かない。
震えが止まらない。歯はガチガチと音を立て、目から涙が、全身から冷や汗が止まらない。
怖い……怖い、怖い!怖い!!
桁違いな強さを持つ強大な存在から、まっすぐに向けられる殺意がこれほどまでに恐ろしいなんて、今まで想像もしていなかった。
「じゃあね。サヨナラ」
そう言って、ピンク色の少女はアタシの頭にポンッと手を置く。
あ、ダメだ、アタシ死んだ……
そして、そこでアタシの意識は途切れた……
……………
…………
………
……
「ほら、うまくいったでしょ」
そんな声が聞こえてきて、アタシは目を覚ます。
「あれ?アタシ生きて……」
「よかった!本当によかった!!危なくなったら助けるって約束していたのに、守れなくてごめんよ」
すごい勢いで、狐ちゃんが泣きながら飛び込んでくる。
「ね、私の蘇生魔法は完璧だって言ったでしょ」
「今までの歴史上で蘇生魔法なんて使えた術者は一人もいないんだ!信用できなかったにきまってるじゃないか!」
「でも本当だったでしょ?ほら、見てみなよ。吹き飛ばした上半身もちゃんと再生してるでしょ?」
え?……「蘇生」?「吹き飛ばした上半身」?
この子はいったい何を……?
「ねぇアンタ私の実力はわかったでしょ?今後私達にちょっかい出さないって約束してくれれば、これ以上は何もしない。私だって何も命を奪おうとまではしないわよ」
「さっき奪ったじゃないか!」
「うるさい狐!生き返らせたんだからいいでしょ!いちいち揚げ足取るな!」
この子がアタシにどういう反応を求めているのかは理解できた。
別にそれに逆らう気など、もう毛頭なかった。
「アタシ、もう変身しません。アナタにはどう足掻いても勝てる気がしません……ごめんね狐ちゃん、力になるって約束したのに……」
「いいんだ。こんな化物みたいな魔力の塊と対峙して、心が折れるのは仕方がないさ。僕はまた、次の魔法少女を探してみるよ」
狐ちゃんは、少し寂しそうな表情を浮かべていた。
ごめんね、アタシが弱いせいで……
「次の魔法少女って、まだ懲りずに私狙ってくるの?」
「最終的には魔王軍を壊滅させる事が僕の役目だからね。無茶でも続けるさ」
「うはぁ……どうせ私に勝てないんだから、面倒臭い事はやめてほしいんだけど」
「そう思うなら、僕に少しハンデをくれないか?今日みたいに、覚醒したばかりの魔法少女を狙う、みたいな新人潰ししないで、成長するまで待ってほしい。せめて幹部連中を倒せるようになるまで。どうせ君には勝てないんだろう?それならいつ潰したって同じじゃないか。成長するまでの期間は面倒臭い事はやってこない。winwinな関係だと思わないかい?」
狐ちゃんは一気にまくしたてる。
少し怒っているようにも見えた。
ピンクの子は、そんな狐ちゃんの剣幕に押され一言「わかったわよ」と言っていた。
「まぁ私に害がなければ何でもいいわ。んじゃあ用事も済んだし、私は帰るわ」
そう言うと、変身を解いて歩きだした。
さすがに夜で人通りが少ないとはいえ、あの格好で歩いていくのは抵抗があるようだった。
あれ?でも……あの顔見覚えが……
「……大間さん?大間裕美さん?」
「ん?」
振り返ったその顔はやっぱり間違えじゃなかった。
アタシも変身を解く。
「あの、アタシ隣のクラスの土橋美咲です」