第四話 謎の少女
「さて、とりあえずキミが何であそこで人探しみたいな事をしてたのかを聞いてもいいかな?」
何事もなかったかのように、黙って三人で並んで正座して少女と向き合った後の第一声である。
少女は無言だった。
だが完全に目が座っている。
「なぁ、まだ話進まないなら、ちょっとブラ直していいか、裕美のせいでズレてて気持ち悪いんだけど」
「口に出さんでいい!黙って直してろ」
ちょっとは空気読めよ。
「そういやさっちゃんさぁ、その羽あってブラしにくくない?」
「しずらいですね。でもまぁ最近慣れてきましたよ」
ああ、やっぱ羽邪魔だよなぁ……
ってそうじゃなくて、空気読めよお前等。
「あの……あなた達は何者です?」
やっと少女が口を開く。
思ったよりも舌足らずな喋り方だな。
喋りながらよだれ垂れてんじゃないかって感じだな。
にしても『何者です?』か……
私のこの変身した姿を見て『何者です?』ね。
「とりあえず、私はただの一般市民だ。美咲は?」
「アタシもたんなる一般人だよ。さっちゃんは?」
「えっと……私も善良な一般市民です」
おお!幸、空気読めるようになったな。
良いボケだ。
「流れで誤魔化せるわけないでしょ!羽生えてる一般市民なんているか!!?」
少女が渾身のツッコミを入れる。
とりあえず打合せ無しだったわりには、予想以上に完璧な流れだったな。
「まぁあなた達が何者かはいったん保留するとして、私はただ魔王を探していただけなの。あの場所での目撃情報があったから聞き込みをしてたのよ」
魔王を探してた、って……
アンタの目の前にいるのが誰かわかって言ってんのか?
「なるほどなるほど、アンタがそこで魔王を探してたってのはわかった。そのうえで2つほど聞いてもいいか?」
「……どうぞ」
警戒しつつも、私の質問には返事を返してきた。
「一つ、アンタは魔王の容姿を知ってんの?二つ、サーチ魔法は使ったの?」
ある程度は答えが予想できる質問をしてみる。
どちらか一方でもYesだった場合は、たぶん私と悠長に会話なんてしていないだろう。
「魔王の容姿は……知らない。サーチは道具を使用しないと使えない」
やっぱりな。何となく色々とつながってきたぞ。
「聞き込みをしていた場所はどうやって割り出した?」
「質問が三つ目になってるわよ」
うっせぇクソガキ!揚げ足取るなよ。
「何だおい?『実は乙女の勘』とか言うのが恥ずかしいから、答えたくなかったか?」
とりあえず煽ってみる。
「……個人の魔力を測るサーチ魔法は使えないけど、漏れ出た魔力の残滓を視認する事ができるからよ」
なるほどね……
サーチ魔法が使えずに道具任せ。魔力の残滓を辿って学校に来た。変身状態をキープしていると思われる服装。そして『魔王』ね。
「OKOK!アンタが探してるって奴の目星はついたわ。アイツの居場所なら知ってるよ」
「な!!?アナタ!魔王を知っているの!?いったいどこに!?」
案の定のってきたな。
「何でさっき会ったばっかで名前も知らないアンタに、知り合いの居住スペースを教えなくちゃいけないんだ?」
簡単に教えたら面白くないしな。
「何をドヤ顔で勝ち誇ってんだ裕美?魔王に用があるって事はお前に用があるって事だろ?話くらい聞いてやればいいじゃん」
何でコイツはこう話の展開を理解せずに、無駄にややこしくする発言をするんだ!?
やっぱ、幸の拘束魔法じゃなくて、私の拘束魔法で、喋るのも禁止しとけばよかった。
「な……魔王!?お前が!!?確かに、今この空間に漏れ出てる魔力の量だけで一流の魔術使い一人分並みにある!?」
気付かないまま漏れてる私の魔力ってそんなにあるのか?もったいねぇな。
「あ~そりゃアレだろ。こいつ等が魔王四天王だからだろ。四天王が二人もこんな狭い空間にいたら、そりゃあ漏れ出る魔力量もすごい事になるだろ」
「え!?ちょ……裕美様何を言って!?」
「シレっとアタシ等の事売りやがったな……」
何とでも言え馬鹿どもめ。
実際のところ、私は嘘は一切ついてないわけだしな。
「魔王の容姿については、私もほとんど見たことないから説明できないけど、こいつ等二人はよく知ってんじゃねぇの?」
もちろん嘘はついてない。
変身した私自身の容姿なんて、鏡でも見なきゃよくわからんしな。
もちろん、変身した後にわざわざ鏡なんて見たことない。
「このピンクの人が言う事が事実なら、あなた達二人に力ずくでも聞きたい事が……」
そう言って勢いよく立ち上がろうとした少女は、その勢いのまま倒れこむ。
「あ……れ?うまく魔力が……」
ああ、魔力が蘇生後の体にまだ完全に行きわたってなかった状態で、戦おうとして魔力を活性化させたせいでバランス崩れて倒れたのか。
「そういえば、ここで目覚める前に、何か物凄い勢いで突っ込んできたモノに襲われたような……」
「気のせいだろ!私達は、貧血か何かで倒れたアンタを運んできただけだぞ!」
変な事を思い出そうとする前に、全力で否定しておいた。
「運んで?じゃあ気を失った私を介抱してくれてたの?」
「まぁ……一応……な」
蘇生魔法だけかけて放置してただけだけど。
「えっと……そうとは知らずに、お礼も言わずにごめんなさい」
素直だなコイツ。
でも、ぶっ倒れたままの格好で言われても、微妙にバカにされてるっぽく感じるんだけどどうなんだ?言葉通りに素直に受け取っていいのか?それとも実は馬鹿にしてんのか?
「あの……迷惑ついでに一つお願いしてもいいかな?こっちの世界来てから何も食べてなくて……残飯でも何でもいいんで恵んでもらえるとありがたいかなぁ~って……おなかが減って動けない……」
いやほんと……
これ馬鹿にしてる方なんじゃね?




