第一話 お前等のせいで部屋の床がヤバイ
どうしてこうなった?
「とりあえずどこかに移動することをお勧めいたしますがいかがでしょうか?」
ヴィグルが口を開く。
それには同意する。
「じゃあアタシがバイトしてるファミレス行く?もちろん裕美のおごりだろ?」
美咲が意見を口にする。
おごりは却下だ。
「裕美様と美咲さんが行くんでしたら、私はどこにでもついていきますよ」
幸が主体性のない発言をする。
ってかもうどこにも行かずに解散でもいいんじゃね?
「いや、その必要はない。我と裕美殿がいればそれでよい」
異世界魔王のオッサンが口をはさむ。
さすが、元々異世界で魔王やってたオッサン……超わがままだ。
「あ~何だ……各々勝手な発言する前に、何でお前等、こんな狭い私の部屋に密集してんだよ?」
ただでさえ物が多い私の部屋。
今にも床が抜けそうで正直ヒヤヒヤしている。
「何って?私はこの家に居候させていただいている身ですから」
「今日バイト休みで暇だったから遊びきただけなんだけど」
「私は裕美様の眷属であり友達ですから!裕美様と行動を共にするのは当然です」
「蘇生させてもらってからきちんと挨拶できていなかったのでな」
こいつ等……
「一斉に喋んじゃねぇよ!!聞き取れるかアホども!」
譲り合いの精神ってものはないのか?
「まずヴィグル!この部屋にいる必然性はねぇだろ。美咲!暇ならいつも通りどっかでレ〇プでもされてろ。幸!お前もレ〇プされてろ。オッサン!まず自己紹介しろ!名前がわからんとやりにくい」
私の発言で、ヴィグルは部屋から退散し、同級生二人は抗議の声を上げる。
「我の名前など些事にすぎぬ。貴殿に負け一度命を落とした時点で元々の名は死んでいるのだ。呼び名がなくて不便だというのであれば、貴殿から我に新しい呼び名を与えてくれないか?」
面倒臭ぇな……
「じゃあポチでいいか?」
「了解した」
いいのかよ!!?
「裕美……その名前は人としてちょっとどうかと思うぞ」
「裕美様、よかったら私の事もポチって呼んでくれてもいいですよ」
うるせぇ馬鹿ども。
「そういえば、些か気になっていたのだが、そちらの二人は誰だ?何やら我の事を知っているような雰囲気ではあるのだが」
あ~……そうか、オッサン二人の変身前は見てないのか。
「酷いなぁ。学校で戦った仲じゃん」
何だよ『戦った仲』って。ソレ仲良くねぇじゃん。つまりは酷くもなんともなくね?
「戦った?そういえば、その声には聞き覚えがあるな……もしや、アノ時の白い娘か?」
「なんだ~覚えてんじゃん。アタシの声そんな特徴ある?」
そりゃああんだけ叫んでたんだから覚えてるだろ。
「この娘が、あの白い娘という事は……こっちの娘は白黒の小娘か?」
「何か言い方が気に入りませんが、その通りです。あの時はお世話になりましたね、後でお礼させてくださいね」
幸の挑発を無視して、オッサン……もといポチは、私と幸を交互に見る。
「先程、この小娘は『裕美様の眷属』という発言をしていたな?悪い事は言わん。裕美殿、強者には強者の振る舞いというものがある。眷属も然り。あまり実力の無い者を雇用していると、主人の実力も低く見られるので、この娘は解任する事を勧める」
挑発無視してねぇじゃん!?めっちゃ乗ってるし!
幸は幸で、怒りでコメカミがピクピクしてるし。
「私を馬鹿にする、という事は、私を眷属に選んでくれた裕美様を侮辱しているという事ですよ。わかってます?命を助けてもらった方への礼儀というものがわかってないですね?」
あ~あ……こりゃ一触即発状態だな。
美咲に至っては、もう「我関せず」モード全開で漫画読み始めてるし。
「そういう発言は実力を得てから言うべきだ、なっ!」
言い終わるとほぼ同時に、ポチは幸を攻撃する。
しかし、その攻撃は幸に届かずに弾かれる。
「ぬっ!?」
ポチは殴りつけた手に回復魔法をかけだす。
「来ると思ってました。アナタは攻撃する際、攻撃に魔力をのせすぎるせいで、防御が疎かになるようだったので、防壁魔法に雷撃魔法を混ぜてみました。どうです?効果ありましたか?」
幸……成長したなぁ。
「この短期間で少しは成長したようだな小娘。褒美として全力を出してやろう」
もうどうでもいいや……
とりあえず家は壊さないようにしろよ。
「受けてたちましょう。こんなに早くにお礼ができるとは思ってもみませんでした」
そう言って幸は変身する。
「あ、幸やめたほうが……」
私が声をかけようとしたが、時は既に遅かった。
凄まじい勢いでポチが魔力を込めたコブシで幸に殴りかかる。
「ワンパターンですね。そんな事で今の私に……いった~~!!!?」
先程と同じように、雷撃を纏った防壁を張ったはずの幸の腕は、見てわかるレベルで見事に折れていた。
「痛い!!痛いぃ!!ううぅ~……」
幸はうずくまり、泣きながら変身を解いて、自然治癒と回復魔法で腕を治療しはじめる。
ポチはポチで何とも拍子抜けした表情で幸を見ている。
「お主は何をふざけているのだ?我と戦うのではなかったのか?」
「ふざけてなんていません!!……あいたたぁ……何で?私本気を出したハズなのに?」
気付いてなかったのか幸……
「幸、お前魔法少女に変身すると弱くなるぞ」
「…………は?」
面白ぇ顔だな。
「あれ?さっちゃん気付いてなかったの?変身した時の魔力量よりも、裕美がさっちゃんに注入した魔力量の方が桁違いに多いんだよ」
漫画本片手に美咲がしゃしゃり出てくる。
「え?普通そういうのって合算されるものでは?」
まぁ普通はそう思うよな。
「使ってる魔力核が違う~みたいな事を昔ヴィグルに聞いた気がする。変身する事で、その変身後の身体が使いやすい仮の魔力核を生成するらしくて、仮に変身前に魔力核を持っていても、それは変身後には適応できないから、そこからは魔力を使用する事ができないらしいぞ」
変身後は使えない魔力核を一つ無駄に持ってるだけの扱いらしい。
私の場合も、同じような感じではあるものの、変身後の魔力核が規格外に凄まじいので、はたから見たら、変身前の魔力も合算されてると思われても仕方ない……みたいな感じに昔ヴィグルに言われたな。
「まぁ何だ?RPGゲームで例えると、変身前の幸は杖しか装備できなくて『大魔導士の杖』みたいな凄い武器装備してるんだけど、変身後の幸は剣しか装備できなくなって『銅の剣』装備してて、杖は装備できずに道具枠にただあるだけ……みたいな感じか?」
説明って難しいな……ヴィグルに残っててもらえばよかった。
「そんなぁ……私変身後の服装気に入ってたのに……もう変身する価値がなくなってしまったんですね?」
いや、どっかの誰かみたいに、家とかで変身してればいいんじゃね?
戦う時しか変身しちゃいけないなんてルール誰が作ったよ?
「それと裕美様……一つお願いがあるんですけど……」
「ん?何だ?」
強くなりたいからもっと魔力くれ、とかそんなやつか?
「変身後の私の武器、せめて『鋼の剣』くらいにしといてもらえますか?」
何か……超どうでもいい。




