プロローグ
私は魔王を許さない。
この世界は平和だった。
正確には、平和だったらしい。
私は平和だった世界を知らない。
生まれた時には、魔王によってめちゃくちゃにされた世界だったからだ。
力こそが全ての世界。
ある者は、異を唱え魔王に挑み敗れ。
ある者は、威を借り魔王に与した。
私の生まれた国は、魔王に抵抗する国の一つだった。
突然変異かのように高い魔力を持って生まれた私は、両親の顔すら知らないまま、国の特別訓練組織に加えられ、自由のない、国のためだけに魔王と戦うためだけの兵器として育った。
私が15歳になった時、魔王に挑もうとする強者はいなくなっていた。
「まだ早い。調整が不十分だ」と主張する組織高官の意見は却下され、国からの命令で、ついに私が魔王討伐を命じられた。
私は言われた通り、人間を裏切り魔王に与していた連中を難なく倒し、魔王の根城へとたどり着く。
しかし……
そこで見たものは空の玉座だった。
魔王は何処かに消えていた。
魔王を倒すためだけに捧げられた私の15年は一体なんだったのだろう?
まっさきに浮かんだのは、そんな想いだった。
ただ、これで自由になれる喜びも大きかった。
しかし、そんな希望は一瞬で砕け散った。
魔王を倒すために作られた私が、第二の魔王になるのを恐れた国により、私は軟禁された。
常に監視の目が付き、同年代の子と遊ぶことはもちろん、学校に行く事も許されなった。
魔王さえ消えていなければ……
戦って負けるならそれでもよかった。
そこで私に繋がれた鎖はなくなっただろう。
もしくは勝てた場合……
そう、せめて戦って勝って凱旋できれば、今とは違った扱いだったかもしれない。
魔王が憎い。
私の普通の生活を奪った魔王が憎い。
戦う事すら拒否して消えた魔王が憎い。
私は、机の引き出しから、ある装置を取り出す。
それは、魔王の玉座に置いてあった装置。
数日たってはいるが、装置に残った魔力は消えていなかった。
監視の目をくぐり抜け、こっそり調べた。
それは異世界へと渡る事ができる装置だった。
消えた魔王は恐らく異世界へと行ったのだ。
つまり、この装置に残った魔力を辿る事で、魔王が転移した世界へと行けるのだ。
今のこの世界に未練は何もなかった。
私の未練は魔王と戦えなかった事のみ。
私はそっと装置を起動させる……
私は……魔王を絶対に許さない。




