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魔王少女  作者: mizuyuri
第一部
32/252

第二十七話 魔王の眷属

 眷属。

世間一般には『名誉魔族』という名称で認知されている。


 魔力を持っていない人間に、魔力を与える事で、魔力を生成できる体に作り変えられる。

 つまり、魔族とほぼ同じ体内構造を得る事ができる。


 眷属とは、魔力を扱える人間、というだけではなく、魔力を扱える事で魔族と同じ特性を得る事ができた人間なのである。


 そう、魔族の特性でもある、驚異的な自然治癒能力も得られるという事だ。

 死んでさえいなければ、脳や心臓が損傷していなければ、ゆっくりではあるが回復していくのである。


「って事はアレか?これでさっちゃんは助かるって事なのか!?」


 美咲が身を乗り出して問い詰めてくる。


「知らねぇよ。それは幸の生命力次第じゃねぇか?ただ、この状態で一発でも殴られたりしたら死ぬかもしれないけどな」


 いくら魔族の自然治癒力が強くても、致命傷を何度も食らえば、さすがに絶命する。

 これはヴィグルで実験済みである。


「まぁ眷属化しなければ確実に死んでただろうから、助かる確率が0%から50%になっただけでもマシなんじゃね?」


 50%とは言ったけれど、たぶん80%くらいにはなってるとは思うんだけどね。

 それでも100%とは言い切れないくらいには微妙な感じではあるけど……


「マシなもんか!サチはキミのせいで人間でなくなってしまったんだぞ!何て酷い事をするんだ!」


 うぜぇなこの浮遊狐。


「別に酷くはないんじゃない?命あってのもんだし」


 シカトモードに入っている私に代わって、美咲が反論する。


「ミサキ。やはりキミも魔王に感化されているんだね。こんな化物みたいな姿にされるくらいなら、人間として死んだ方がマシだったに決まってるじゃないか!」


 お~お~……戦いもせずに、ただ見てるだけで何もしない奴がよく言うな。


「今からでも遅くないよミサキ。化物になった事を知らないままサチを殺してあげてくれない……イタッ!!?」


 喋っている途中で、浮遊狐の羽に魔力の矢が刺さる。


「狐ちゃん……もうこれ以上は喋らないでくれるかな?さすがにアタシも怒るよ……」


 いや、これもう怒ってんじゃね?


「うう……ミサキ。キミまで魔王に加担するんだね」


 違うだろ。普通に美咲を怒らせるような事言っただけだろ?

 どんだけこじらせてるんだよコノ浮遊狐は。


「二人とも忘れないでくれないか!いつかきっとサチの仇はとるからね!!」


 そう言い残すと、浮遊狐はどこかに飛んでいく。

 だいぶ緩めにかけたとはいえ、よく拘束魔法解けたな。

 ってか幸まだ死んでないぞ。


「なぁ裕美……アレってアタシも魔王軍の一員として認識されたって事なのかな?」


「さぁ?UMAの考える事はよくわからんから、オカルト研究家にでも聞いてみてくれ」


 まぁ私ですら、一応マスコットキャラだから攻撃はしないでおいてあげてたところで、味方だと思ってた魔法少女の方から攻撃されて気分を害した感じなんだとは思うんだけどな。


「まぁいいか。とりあえず、さっちゃんが目を覚ましてくれるのを祈ってるか」


 そう言いながらも、反魔法で付けた傷には効果がないものの、それ以外の外傷を治すのも含めて、美咲は回復魔法をかけ続ける。


「う……うう……」


 その甲斐あってか、幸が意識を取り戻す。


「私……生きて……」


「よかった!!さっちゃんが目ぇ覚ましたよ!」


「美咲さん……イタっ!?」


 幸の身体を抱きしめて喜びを表現する美咲。

 傷がふさがったわけでもないのに全力で抱きしめるのは、ただの迷惑行為だぞ。


「あ~幸……心臓に悪いから、こういう変な脅しはもうやめてくれよ」


 そう言いながら、幸のスマホを投げ渡す。


「大間さん……私を許してくれるんですか?」


 涙目で訴えないでくれ。

 ボケにくくなるだろ。


「許すも何も、結局のところ私は実害被ってないし……むしろ無駄に死にかけた分、お前の方が被害者なんじゃねぇの?」


 私が答えを返すと、涙目だった目が決壊して、幸の目から涙が零れ落ちる。


「よかったです。私……大間さんには完全に嫌われてしまったと思っていて……今まで酷い態度をとってしまっていてごめんなさい……もし許してもらえるなら、また裕美さんと呼んでもいいですか?」


 ん?『また』?何が?


「あれ?幸って今まで私の事どう呼んでたんだっけ?」


「え?いえ、ですから最初のうちは『裕美さん』と呼んでたんですけど、今回裏切るような行為をしてしまうわけですから……そんな私が名前呼びするのは馴れ馴れしいかと思って『大間さん』と呼んでいたんですが……」


 何だそれ?どこ基準だよ?


「んな呼び方なんて気に留めてるわけねぇだろ!『裕美さん』でも『裕美様』でも何でも好きなように呼べよ」


「ありがとうございます……それじゃあお言葉に甘えて『裕美様』と呼ぶようにします」


 …………ん?

 今何て……?


「あははは!さっちゃんが冗談言うの初めて聞いたかも」


 すかさず美咲がツッコミを入れる。


「え?『裕美様』変ですか?何故かすごいシックリくる感じなんですけど……むしろそれ以外の呼び方をしたくないって思ってしまうくらいに……」


 え?マジで言ってるのかコイツ?


「あれ?ちょっと待ってください!?言われてみれば確かに変なハズなんですけど……何でこんな!?ええ?」


 言ってる当人が混乱するとか何だよ?


「もしかしてアレじゃない?さっちゃん、裕美の眷属になったせいで、その影響か何かなんじゃない?」


 ああ……確かにそうかもしれない。

前に、美咲と幸がウチ来た時にヴィグルがボソッと「眷属なら生意気な口はきかない」とかどうとか言ってたような気がするし。


「……け……眷……属…?」


 幸の顔が完全に引きつる。

 引きつった顔で、ゆっくりと自分の身体を見渡す。


「あはは……悪いな幸、姿が変わるまでの魔力の量に個体差があるって知らずに、私が自分にやった時と同じだけの魔力をつぎ込んでみたんだけど……」


 幸の背中には、天使の様な白い羽と悪魔の様な黒い翼が一対づつ生えて、髪は白く前髪に黒いメッシュが入っている。目は片目だけ赤眼のオッドアイになっている。


「幸にとっては完全に許容量をオーバーしてたみたいだな……あはははぁ……」


 いやはや……見た目に変化なければ、幸に怒られる事もないだろうと思ってたんだけどなぁ……

まさか失敗するとは思わなかったわ。


「あ……あ……」


 完全に固まっている幸。


「喜べ幸!『魔王の眷属』になったって言えばクラス中の人気者になれるぞ!もう羨望の眼差し向けられまくりだぞ!」


 人気者になったから何だ?って感じだけど……


「いやああああぁぁぁぁ!!」


 幸の慟哭が響き渡る。


「これ!これぇ!」


 背中の羽を掴んで指差しながら訴えてくる。

 言いたい事は何となくわかるが、結局のところ何のアピールなのかはいまいちわからない。


「うん、羽だね。そのオッドアイも含めてかわいいと思うよさっちゃん」


 美咲が追い打ちをかける。

 オッドアイは自分じゃ見えないから気付いてないだろうに……


 言われた瞬間に幸は鏡を取り出し、自分の顔をたしかめる。


「髪までぇ!!?」


 あ、そっちも見えてなかったのか。


「あの……あの……これって治るんですか?むしろ治りますよね?」


 涙目で訴えてくる。

 そりゃあそうだよな……私も「今後はこの格好で通常の社会生活を送ってください」とか言われたらキレるレベルだ。


「まぁ何だ……とりあえずヴィグルにでも聞いてみるか?」


 ………


『無理ですよ。身体の構造自体が作り変えられてますからね。魔力核を取り除いて魔力がなくなったところで元には戻りません、むしろ魔力核がなくなった事で絶命します』


 電話越しに聞こえてくる無慈悲なヴィグルの声。


『むしろ、何度も変身して、その化物じみた魔力量に慣れてしまった裕美様の身体と同程度の魔力を送り込んだという事は、下手したら魔力過多で死んでた可能性もありますよ』


 さらに、命を救うためにとった行動が逆に幸を即死させる可能性があったという衝撃の事実。


『幸さんには同情しますよ。まぁ裕美様が殺されるような事はないでしょうから、裕美様の巻添えで消滅してしまう事はないでしょうが、その身体は裕美様の魔力で構築されてるようなモノですから、裕美様の命令には逆らえない体質になってしまっていますので御注意を』


 黙って話を聞いていた幸は完全に放心状態になっている。


「ああ……一人暮らし始めた瞬間に名誉魔族になったなんて、両親に何て言い訳すれば……」


 ヴィグルに電話したせいで、余計に落ち込んでいる幸。


「幸……『ワン!』って鳴け」

「ワンっ!!」


 面白ぇ!本当に私の命令に逆らえなくなってる。


「ううう……」


 嬉しそうに「ワン」とか言った後で、再度泣きそうになる幸。


「裕美……今のは酷いだろ?」


 美咲がクレームを入れてくる。


「いや、ちょっと試してみようかと思って」


 好奇心旺盛なんだよ私は。


「まぁとりあえず、いつまでもここにいてもしょうがないから、どっかファミレスでも行って話そうか?」


「あの……私、この格好で街中練り歩くんですか?」


 まぁ嫌だわな。


「幸、魔法少女に変身しろ。魔法少女姿も目立つけど、羽生やしとくよりはマシだろ」


 私の命令には逆らえず、幸は変身する。


「今回はこれでいいんですけど……私、明日から羽ぶら下げて学校に登校するんでしょうか?」


 うん、まぁそうなるわな。

 何か誤魔化すための良い案はあるだろうか?


「がんばれさっちゃん!」


 美咲による無慈悲なエールが送られる。


 幸は泣き出し、私は笑い出す。


 ……ってか幸泣きすぎじゃね?


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