第二十六話 魔王による制裁
私は甘く見ていた。
いや、わかっていたのに失念していたんだ。
幸も美咲と同等のアホだという事を考慮していれば別の対応もあっただろう。
ちゃんと説明したはずなのに、抑止力って単語の意味がわかってなかったのかもしれない。
……でなきゃただの自殺志願者だろ?
「大間さん……私は本気ですよ」
ああ、本気で馬鹿だな。
私は魔力の糸を幸に飛ばしてくっつけると、その糸を引っ張る。
物凄い勢いで私の方へ引き寄せられてくる幸を、魔力を込めたコブシで殴りつける。
「う……うう……」
折れた歯と血と涙を地面に落としながら、その場にうずくまる幸。
殴った時の感触からすると鼻の骨も折れたな。
「奇遇だな幸……私も本気だ」
美咲は何も言わずに幸のそばに駆け寄り回復魔法を使いだす。
「抑止力としての効果がなくなった時点で死ぬぞ、って警告しただろ?お前が言ってた事がハッタリじゃなかったように、私も本気で発言してたんだぞ。……あまり友達は痛めつけたくはなかったんだけどな……」
まぁ嘘だけど。
やられた腹いせにストレス解消したかっただけなんだけどな。
「それと、私に一矢報いたと思っているところ悪いんだが、まだ方法は残ってるんだよ」
私には時空間をいじって、強引に過去に通じる扉を作る魔法が……
「この前、僕の前で使った時間軸をどうこうする魔法を使うつもりならやめておいた方がいいと思うよ」
口部分の拘束状態を解呪できたようで、さっそく浮遊狐が口をはさんでくる。
「過去の事象に影響を与えなければ問題がないだろうけど、キミは今から過去の自分を助けに行く、という事だろう?つまりは過去の事象に干渉する事になる。そうなるとどんな結果になるのか想像ができない事態になってしまう」
よくわからん!!
ってか前回使った時は、使うの止めようとはしなかったじゃん。
「よくわかってなさそうだね。例えばキミが寝坊して学校に遅刻したため過去に戻ったとして、そこで寝ているキミを起こさずに学校へ行けば、その後目を覚ました過去のキミは、未来から来たキミが既に学校に行っている事を知らないため、遅刻したと思い過去のキミも、過去へ飛ぶだろう?そうなれば事象にズレは生じないから問題はない」
過去の過去とか色々と頭がこんがらがってきたぞ。
「事象に干渉というのは、過去に戻ったキミが、寝ている過去のキミを起こしてしまう事だよ。遅刻せずに目覚めた過去のキミは、そのまま学校へ通い過去に飛ぶ事はなくなってしまう。つまり歴史が変わってしまう。それどころか、過去に二人のキミが存在してしまい、逆に現在のキミは存在しなくなる。これがどれだけ危険な事かわかるかい?」
つまり……えっと……
「あ~!もうわかった!!時空間いじるのはやらなきゃいいんだろ!!」
混乱してきたのでヤケクソ気味に叫ぶ。
「クッソ!それじゃあもう方法ねぇじゃんかよ!」
再度叫ぶ。
どうする?さっき上げてた動画がまだ誰の目にも留まってない事を祈って、急いで削除すればまだ……
「ふ……ふふふ……一矢報えましたね……」
ピキッ
「さっちゃん!裕美を挑発しちゃダメだって!アイツ結構キレやすいんだから!!」
もう遅ぇよ。
反魔法の刀を作り、足元でうずくまっている幸へと投げ落とす。
「ああああああぁぁぁ!!」
痛みで幸は叫びだす。
刀の形の魔力は、背中から腹を貫通して止まったところで消える。
「おい裕美!さすがにやりすぎだろ!さっちゃん死んじゃうよ!」
美咲の抗議を無視して、抵抗できない幸からスマホを奪いとる。
「おい!?何だよコレ!!?回復魔法かけてるのに傷がふさがらねぇよ!?クソっ!さっちゃん死ぬなよ!」
「ダメだミサキ!反魔法を使われてる!この損傷に魔法は一切効果がなくなってしまってるんだ」
二人がかりで幸の介抱にあたっている。
私はその間に幸のスマホをいじり……
「……何だ……コレ?」
動画が投稿されている、SNSのその画面。
「鍵アカ?……フォロワー0人?」
これじゃあ誰も動画見れないじゃねぇかよ……
「ダメだ!!ちくしょう!血がとまんねぇよ!!」
「サチ!しっかりするんだ!サチ!!」
美咲は自分の服を破いて、幸の血を止めようと必死になっている。
「おい!幸!なんだよコレは!?何でこんな……」
必死になってる二人を無視して幸に質問する。
「友達……を裏切った罰……ですかね?」
何を?
「友達を脅して……言う事を聞かせようと……した、私への罰は絶対くだらなければ……ならないと……思っていました」
何だよソレ?本当に自殺願望でもあったのかよ?
「賭け……でした……大間さんが……どうあっても……要求に応じなければ……私の負けだと考えて……ました…………その場合は……裏切りの代償は必ず受けるべきだと……」
幸……お前今まで、どんだけ友達いなかったんだよ?
その程度で裏切りとか……
「私は……美咲さんや大間さんと……友達でいたかった……罰さえ受ければ……プラマイゼロにしてもらえるんじゃないかって……期待し……て……」
幸の声はどんどん弱くなっていく。
「裕美!蘇生魔法!頼むからさっちゃんを許してやって、蘇生魔法使ってくれよ!!」
美咲が泣きながら懇願してくる。でも……
「悪いな美咲……その反魔法は、私の蘇生魔法も弾くんだ」
それは昔実験済みだ。
「ふざけんなよ!!お前最強の魔王だろ!?頼むから何とかしてくれよ!!」
最強の魔王?……魔王?……魔族の王?
そうか……いちおう幸を助ける方法が無いわけじゃないのかもしれない。
「そうだな……もしかしたら何とかできるかもしれない」
「……マジか?」
「なんたって私は『最強の魔王』だからな。ただ、これで助かって幸が納得するかどうか?むしろその方法で助かるくらいなら死んだ方がよかったとか言うかもしれない」
うん、たぶん本当に言うだろうな……
「何言ってんだよ!死んじまうよりは何だってマシだよ!頼むよ裕美!さっちゃんを助けてあげてくれよ!」
相変わらずのお節介だな。
そのせいで、後から幸にマジ切れされても私は知らねぇぞ。
私は倒れている幸の肩にそっと手を置く。
「まさか……やめるんだ!キミはサチに何てことをしようとしてるんだ!」
私が何をしようとしているのかに気付いた浮遊狐が叫びだす。
でもな……
残念だったな
もう遅ぇよ。




