第二十五話 交渉
「あ~あ……まさかなぁ~こんなに早くバレるとは思わなかったわ」
自嘲気味につぶやく。
「とりあえず、さっきの質問には答えといてやるよ。殺さなかった理由は、幸の言った通りかもな……今までの正体すら知らない魔法少女達と違って、変身前の姿を知ってるうえに一緒に遊びに行ったりもした仲だから少し躊躇してたのかもな」
まぁ一緒に遊びに行ったのは、美咲による強制でもあったかもしれないけどな。
幸が言っていた友達云々っていうのは、言われるまで気付かなかったかもしれない。
あの時は意識してもなかったけれど、言われてみれば、幸を攻撃する瞬間「死ぬなよ」っていう思いはあったかもしれない。
あれは私が幸を友達だと思っていたからの事なのかもしれない。
「そうですか……私、友達はあまりいないので、それが聞けただけでもうれしいです」
友達があまりいない?
だと思った。
「一応聞いておきますが、私が先程言った『魔物全てに元の世界に帰れと命令』してもらえますか?」
その口調だとわかってて聞いてるな?
まぁ答えるまでもないが……
「断る。ヴィグルも言ってたと思うけど、私は今のこの生活が気に入ってるんだ」
「しかし、コレをバラされれば、気に入っている生活を送れなくなりますよ?」
私の回答は予想通りだったのだろう、すぐさま次の言葉を浴びせられる。
「じゃあ、そのデータ削除してくれねぇかな?」
「断ります。これは私の命綱です」
そして一触即発な沈黙……
「ちょ……ちょい待てって!何マジになってんだよ二人とも!少し落ち着けって!」
沈黙を破ったのは、空気が読めてない美咲の一言だった。
「さっちゃんは何でそこまで魔族を嫌うんだよ!?何も悪さしてないんだから共存してても問題ないじゃんか?」
「先程も言いましたが、例え魔物達が善人であっても、今までの人間社会からしたら異物なんです。何かの拍子で突然人間が全滅させられる可能性だって0じゃないんです」
あ~……こりゃ完全に浮遊狐に毒されてる考え方だな。
「うぅ~このわからずやぁ~……」
美咲は頭を抱える。
「あ~もう!次!!裕美も裕美だって!正体バレたからってそんなマジにならなくてもいいじゃんかよ!正体なんてアタシにはとっくにバレてたじゃんか!」
「状況が全然違う」
幸と同じように即答する。
「……どういう事?」
わかってないのか、この馬鹿は!?
「あのなぁ……バラす意思が有るか無いかだけでも違うだろ?それとも美咲も私の正体を積極的にバラそうと思ってたのか?」
「……なるほど、そういう事か」
本当に理解してるのかよコイツ?
「それに、仮に美咲が誰か知り合いにでもバラしたところで反応は『あ~はいはい、いつもの美咲だね』で終わるし、見知らぬ他人に言ったところで『いきなり何言ってんだコイツ?』で終わりだから何も害はないんだよ」
「いや!ちょっと待って!『いつもの美咲』ってなんだよ!?アタシそんなキャラじゃないから!」
何だ……自覚症状なしか、結構重症だな。
「まぁその辺の反応は幸でも同じかもしれないけど、証拠の有無がでかいな。こいつがあるせいで、頭がアレな奴の戯言ってだけじゃ済まなくなってるしな」
「頭がアレって……さっちゃんがかわいそうだろ!」
「えっ!?私!?大間さんは美咲さんの事を言ったんじゃ?」
「どっちもだよ!!」
本当に同レベルだなコイツ等の頭。
「ともかく、その画像をマスコミに提供すれば、けっこうな高値で買い取ってもらえるんじゃないか?」
「安心してください。売り飛ばす気は毛頭ありませんから」
冗談にマジレスはやめてくれよ……
「何なら私がマスコミよりも高く買ってやってもいいぞ」
「ですから売る気はありません!」
どうあっても、あの画像を手放す気はなさそうだな。
「平行線だな……」
「そうですね」
再びのにらみ合い。
今度は美咲は口をはさむことなく黙って状況を見守っている。
沈黙が続く。
ただ膠着状態が続くのは私の望むところではない。
状況を変えるため、私は無言のまま変身する。
「それじゃあ力ずくでいくしかないかな?」
「ちょっ……!!?裕美!落ち着けよ!」
幸をかばうように美咲も変身する。
その隙に幸も変身した。
「変身前の私ならともかく、この状態の私を相手に二人がかりで何とかなると思ってる?」
「思ってねぇよ!でもさすがに二人が殺し合いするのは見過ごせねぇよ!」
そう言いつつも、美咲の手は震えていた。
変身後の私と対峙するのは、よっぽど怖いだろうに無理してんなぁ……
まぁそれだけ、三人の今の微妙な友人関係を壊したくないんだろうな。
「安心しろって美咲。殺し合いはしねぇよ……一方的な虐殺になるだけだから」
「余計に悪いわ!!全然安心できねぇし!」
美咲は臨戦態勢で構えてはいるが、おそらくは何もできないだろう。
「大丈夫です。美咲さんまで巻き込みたくはありませんから下がっていてください」
スマホの画面を前面に出しつつ、幸が美咲の肩に手を置き前に出てくる。
「少しでも動けば即座にこの画面をタッチします」
そこには、SNSで、指定された動画を投稿するかどうかの確認画面が映っている。
「いいのか?その動画は抑止力として効果があるんだぞ。投稿した瞬間命はないぞ」
「魔王に一矢報いる事ができるのでしたら、それでも構いません。動画が拡散すれば、アナタは否応なしに今までとは別の生活を送らなければならなくなるわけですしね」
そうだな。それは絶対に避けたいな。
「甘い考えだな。お前が画面に触れなくする方法なんていくらでもあるぞ」
重力魔法でも拘束魔法でも、幸を動けなくさせれば問題はない。
「ご心配には及びません。何もできずに私が死んだ場合のために実家に遺言書を送ってあります。動画のコピーが入ったUSBを同封して」
意外と用意周到だな。
「大間さん。アナタが選ぶ選択肢は2つです。1、私の要求に従って、魔族全てに元の世界に帰るように命令する。2、動画を投稿・拡散されて、世界的に『大間裕美=魔王』と知れ渡る事により、今までと違う生活を余儀なくされる」
ひどい2択だ……
「これが最終通告です大間さん。魔族に命令してくれませんか?」
「……断る」
最終通告とは言いつつも、おそらく幸は投稿はしないだろう。
この状態で抑止力としての動画の効力を失ったら、どうなるかくらいは理解しているハズだ。
自殺願望でもなければ、抜け道を見つけるまで平行線な会話を続け……
「そうですか……しかたないですね」
そう言うと画面をタッチする幸。
…………
「は?」
「あ……」
状況を見守っていた美咲と同時に変な声が出た。
スマホの画面には『動画を投稿しました』の文字。
「………………」
何度目かの沈黙。
……マジでやりやがったこの女!!?




