第二十四話 三人の魔法少女とマスコットキャラ
誰もいない学校というのは、完全に外界から遮断された異世界かのように静まり返りっている。
だからこそ、部外者には知られたくない話し合いをするのにもってこいであるともいえる。
「まさかキミ達から呼び出しがあるとは思ってもみなかったよ」
真っ先に口を開いたのは、部外者に一番隠したい謎生物の空飛ぶ狐。
「えっと、情がわくほど長い付き合いってわけじゃなかったけど、久しぶりだね狐ちゃん」
「そうだねミサキ。今でもキミには悪い事をしたと思っているよ。だいぶ怖い思いをさせてしまったね」
「まぁね……っても今のアタシがあるのはあの出来事があったからなわけなんで、アタシは割と悪くはないと思ってるよ」
「そうか……そう言ってもらえると僕も少しは気が楽になるよ」
どうでもいい二人の会話が続く……
「社交辞令の言い合いはその辺でいいか?さっさと本題うつりたいんだけど」
会話をバッサリ切った私に、無言で恨めしそうな瞳を向けてくる浮遊狐がいるが、あえて無視する。
「とりあえず、今回は幸の様子が最近おかしいから、皆で腹わって正直に色々話そうって流れなわけだろ?お前等二人は黙ってろよ。まず幸の話きくべきだろ?」
面倒臭かったが、このままだと中々本題に進まなさそうだったので、進行役をかって出た。
「そうだよさっちゃん!何か最近変だよ!まずは何があったのか教えてほしいんだよ」
美咲ものってくる。
とりあえず話が進むことは良い事だ。
「変……でしたか?私?」
自覚ないんか!?
「そうだな、少なくとも私は転校初日から変な奴が来たとは思ってたよ」
包帯グルグルでやってきたかと思えば翌日には何事もなかったかのように包帯パージで登校してくるし……
「ひょっとしてケンカ売ってます?」
何だ、いつも通りの反応じゃん。
様子がおかしいってのは美咲の勘違いだったんじゃないのか?
「あ~もう!裕美はそうやってすぐ話をややこしくする!アタシが話すからっ裕美はちょっと大人しくしといてくれよ」
「相変わらず口が悪いのはわかっていたけれど、あまりサチをいじめないでくれないかい」
二人がかりでいじめられている私の方がかわいそうだとは思わないのか?
「とにかく!さっちゃん!」
「は……はい!?」
話を切り替えるため大声を出す美咲と、それにうろたえる幸。
とりあえずでかい声出しとけば話題転換バッチリとか馬鹿っぽい事考えてそうだな美咲……
「アタシは、さっちゃんが最近悩んでるんじゃないかと思ってるんだよ。アタシの予想だけど、魔族のせいで酷い事になってると思ってたこの町が、想像していたのとは違って異様に平和だったから、この先どうしようか悩んでるんじゃない?」
「その平和はかりそめの物だよミサキ。現に先日眷属による事件があったばかりじゃないか!キミやサチも死にかけたと聞いているよ」
案の定、浮遊狐が口をはさんでくる。
「お前も私と一緒にちょっと黙ってようか?」
私は浮遊狐に拘束魔法をかける。
一応、呼吸はできる程度には威力を落としておいた。
拘束魔法にかかった瞬間、飛ぶことすらできなくなり、ポテッという音を立てて地面に落下した。
物凄いにらんでいるが、そこは完全に無視した。
「さっきの狐ちゃんの言葉は置いといて……どうかな?さっちゃん?」
話の腰を折られつつも、話をもとに戻す。
「そうですね……確かにそれはあるかもしれません。カラオケ屋での一件もそうですが、ヴィグルさんも話していて悪い人だとは思えませんでした」
いや、そんな事ないよ。ヴィグルはけっこう腹黒いよ。
「何も悪行をしていない方達を倒すのはとても気が引けるという思いはあります」
概ね、美咲の予想してた通りの悩みなのか?
「だったら、もう魔王軍にケンカ吹っ掛けるのはやめにしていいんじゃないかな?魔法少女とか魔族とか眷属とかそんなの関係なく、普通の学校生活送るのもありだと思うよ。うん、元魔法少女が言うんだから間違いないって!」
『元』とかつけてるけど、現役で変身してんじゃんかよコイツ……しかもクリーニング代ケチるためだけに。
「美咲さんの言う通りだと思います。ただ、魔族が闊歩する現状は、とても正常な世界だとは思えないのです」
まぁあきらかに見た目が違いすぎるしね。
「美咲さん……たしかに私は悩んでいました。一つは先程言った、罪のない魔族と戦いたくないといった事、そして……どうすれば戦う事なく魔族に元の世界に戻ってもらえるか?といった悩みです」
無茶苦茶な事言い出したなオイ。
「私の出した答えは『魔王』です」
うん、答えだけ聞いただけじゃあ意味がまったくわからん。とりあえず続きを聞いててみるか。
「魔族は魔王の言う事には絶対服従します。だったら魔王に、元の世界に帰るよう命令させればいいのではないかと考えました」
する訳ねぇじゃん!私は魔族のいるちょっとした非日常を満喫したいんだから……もう若干、魔物がいる方が日常化してきてはいるけど。
「でもさっちゃん。そのためには魔王をどうにかしないとならないんじゃないの?魔王の強さは身をもって知ってるとは思うけど……」
そうだな、たとえ美咲を味方につけて二人がかりで挑まれても負ける気はしないな。
「そうですね……たとえ不意打ちしても私では魔王に勝てないと思います。でも、魔王の弱点を突けば、勝てないながらも、魔族に命令を出させる事ができるのではないかと考えました」
変身した私の弱点?幸の実力で破られるような弱点なんてあったか?
「魔王の弱点……?なんてあんの?」
美咲も思い当たらないようで、視線をコチラに向けてくる。
ってかコッチ見んな!
「そうですね。この前ヴィグルさんが言っていた事を考えれば恐らくは……」
ヴィグルが言った?弱点なんて言ってたか?
「ただ、この卑怯とも思えるような方法を使っていいのかどうか……私は完全に嫌われてしまうのではないか……それが最後の悩みでした」
……意味がわからないな。『嫌われてしまう』って誰に?世間的に?美咲に?それとも魔王に?
「大間さん。魔王に挑んで敗れた私に、何故魔王は回復魔法をかけてくれたんだと思いますか?」
黙って話を聞いてるだけの私に質問がとんでくる。
「さぁね。それは魔王に直接聞いてくれないとわからんね。ってか挑んできた魔法少女に対しては倒した後に蘇生魔法を必ず使ってるくらいだから、その流れで……じゃないのか?」
私がそう言うと、幸は少し悩むかのように視線を下に向けると、何かを決意したかのように視線を戻す。
「私が気になるのはそこなんです。何故『蘇生魔法』ではなくて『回復魔法』なんですか?挑んだ魔法少女は皆一律で一度は殺されてるって事ですよね?何故私だけ殺されなかったんでしょうか?」
いや、そりゃあ一応、幸を殺さないように手加減を……
「しかも、血や泥でベトベトになっていた私の顔を綺麗にしてくれてもいましたよね?」
……気付いてたのか。
「それは、ひょっとしたら私の事を、ほんのちょっとでも『友達』だと思っていてくれたからなんじゃないでしょうか?」
そう言いながら幸はスマホを取り出すと、私に向かって画面を見せてくる。
……言葉が出なかった。
血の気が引く。
嫌な汗が出ているのが自分でもわかる。
「先程『魔王に直接聞いてくれ』と言いましたよね?」
スマホの画面には動画が映されていた。
「改めて大間さんにお聞きします。何故私は殺されなかったのでしょうか?」
それは下から上を眺めるようなアングルだった。
「ずっと悩んでいました。殺さずに回復魔法をかけてくれて、しかも顔までキレイにしてくれて……」
場所は今いる場所と同じ屋上が映っている。
「なんで半端な優しさを出したんですか?極悪人の魔王のままでいてくれれば、私はこんなに悩む事はありませんでした」
そこでは変身した美咲が何かを喋っているようだった。
「なんで、私を友達として扱ってくれたんですか?最初の印象通り私の事を嫌ってくれていれば……友達を裏切るような行為をしなくて済んだのに」
決定的だった。
画面の中で、私は今まで見たこともないような邪悪な笑みを浮かべて魔法少女の姿へと変身していた。
「教えてください!そうでなくては私は罪悪感に押しつぶされそうなんです……魔王!」
そうか……
そういえばヴィグルは『魔王に敵認識してほしかったら魔王の正体を暴け』とかアドバイス送ってたっけな……
つまるところ、それは「魔王は正体を知られたくない」っていう弱点でもあるわけか……
ヴィグルの言った事を馬鹿正直に信じて、私の正体を暴こうとしてたのか……
そうだなぁ……そういうところ、嫌いじゃないかもしれない。
っていうか私何だかんだ言って幸の事けっこう好きかもな……
だからこそ残念だな……
これをバラす事を交渉材料にしようとしてるんだろうけど、私は譲る気はない。
って事は、口封じができないなら殺さないとな……
もちろん蘇生魔法を使う事はない。
私を裏切ったと思って泣きそうになっている幸。
やっぱコイツ打たれ弱いな……
でも悪いな……
私は……罪悪感をあまり感じてないわ……




