エピローグ
「っく!?身体が熱い……テメェ等何をしやがった!」
「くっくっく……魔王様とはいえ、やっぱ女だな。こうなっちまったら弱いもんだ」
「バカな……私に魔法が効くわけねぇのに……」
「魔法じゃねぇよ、化学だよ。特製の媚薬の効果はどうだ?たっぷり可愛がってやるぞ」
「この私がお前等みたいな奴等に…………く……くっころ!!」
…………うん。サッパリわからない。
私はいったい何を読まされているんだろう?
「ルリちゃん……コレ何?」
「え?だから言ったじゃん。次のイベントに出す同人誌の原稿だよ」
そうだな。確かにソレは聞いた。でも内容が、バリバリの男性向け18禁同人誌とは聞いてないんだが?
「で?どう?裕美ちゃん様。今回の魔王様凌辱本は?いけそう?」
ついでに、モデルが魔王ってのも聞いてない。
何が悲しくて、自分がガッツリと犯される内容の同人読まされて、感想まで求められなきゃならんのだ?
「いけるかどうかは知らんけど、コレ何部刷るつもりだよ?」
「う~ん……いつも通り500くらいかな?裕美ちゃん様のお墨付き貰えるなら1,000部いってもいいよ」
いつも通りで500部とか……結構な売れっ子サークルかよルリちゃん!?
「普段はカナにも手伝ってもらって、2人でコスプレで売り子してるんだけど、今回は裕美ちゃん様っていうモノホンがいるからね!『コスプレです!』って言い張って、変身して売り子してくれれば、絶対に普段の倍いけるよ!!」
だから、何が悲しくて、自分が犯されてる内容の同人誌の売り子しなくちゃならないんだよ?
さて、とりあえず今更ながら現状を説明すると……
2週間ほど先に行われる、オールジャンルの同人誌即売会に、コス研として参加する事になった。
……正確に言うと、私達が入部する前から、このイベントには出る事が決まっていたらしいので、昨日今日で決まったわけではなく、私と胡桃以外は、皆準備万端らしい。
さらに詳細を言うならば、同人誌を売るのはルリちゃんだけらしい。
このイベント、コスプレスペースも用意されているらしいので、ルリちゃん以外はソッチでの参加になっている。
っというか、ルリちゃんがサークル参加するから、このイベントに焦点を絞ったような感じだ。
そんなわけで、入稿前の原稿を私に見せているルリちゃん以外は、皆コスプレ用衣装の仕上げをせっせとやっている。
私?私はコスプレなんてする気はサラサラ無いので、高みの見物中である。で、あるハズなのだが……
「お願い裕美ちゃん様!!変身が嫌だったら、今からでも私が魔王様の衣装作るから!それ着て売り子してよ!!」
何で巻き込まれてんだ私?
「何が悲しくて、自分のコスプレしなきゃなんねぇんだよ?死んでも嫌だ!」
「そんなぁ~……私じゃ魔王様の衣装とか似合わないし、カナに着てもらうのは何か癪だし……」
ルリちゃん、カナちゃんの事嫌いなのか?
「だったら胡桃でいいんじゃね?胡桃もまだ自分用のコスプレ衣装とか持ってないだろ?」
私はコスプレしたくてコスプレ研究会に入ったわけではないので、こういう面倒臭い事は同級生に擦り付けるのが吉である。
「え~でも胡桃ちゃんって、いちおうは魔王様の敵なんじゃないの?」
「いや、別に敵ってわけじゃねぇよ……絡まれるのはウザいから何とかしたかったってだけで……それに今は胡桃の方も、魔王軍を敵視してないらしいぞ」
「そうなの?」
どうやらそうらしい。
私達から少し離れた位置で、他部員の衣装作りを手伝っている胡桃に視線を向ける。
ハルカちゃんのお古の衣装を着せられたりして、若干皆のおもちゃになってはいるが、本人は楽しそうな表情をしている。
飲み会の時に話した内容を思い出してみる……
『わ、私……魔法少女……や、やめる!!』
唐突に言い出したので何事かと思った。
ただ酔っぱらって言っただけなのかとも思ったが、辞める理由まで語り出したので、意外と酔ってはいなかったのかもしれない。
……いや、いつもよりも話してる内容が聞き取りにくかったから酔ってたと言えば酔ってたのだろう。
『私、あんな事になるなんて思ってもみなかった。魔法少女になって浮かれてた。強い力を手に入れたっていっても、自分でちゃんと制御できてれば大丈夫だと思ってた……それが、一歩間違えたら人殺しになるなんて……前に魔王……変身した大間さんに言われた事を思い出したの。簡単に人を殺せるような強い力を持ってると他人を遠ざける、って……その大間さんの言葉と今日の出来事……私、魔法少女でいる事が怖くなっちゃった』
聞き取りにくいながらも、胡桃が話した内容をかいつまむんで要約すると、だいたいこんな感じの事を言っていた。
怖くなった、ってのは何となくわかる。アニメや漫画と違って、現実の魔法少女は、人を殺せる覚悟がなければ長続きしない……まぁ戦ってたのが人ではなく魔族とだけだったクソガキ先輩とかはどうかわからんが、いちおうは引退してるんで、そこまでの覚悟はなかったのかもしれない……
「今までのガチっぷりを見てると、魔法少女になる事が憧れだったんじゃねぇの?そんな簡単に辞められるのか」
ってな感じで質問はしてみたが、胡桃の返答は要領を得ないものだった。
『私、魔法少女になる事で、子供の頃に狂った人生が元に戻ると思ってた。だから魔法少女になろうと必死だった……それでね、私が求めている「狂った人生が元に戻る」っていうのが、どういう状態なのか考えたの……』
そこでいったん言葉を切り、バカ騒ぎしている連中をグルっと見渡し、最後に私の顔を見て微笑んだ。
『もう魔法少女でいる必要がなくなったから』
そう言って、そこで会話は終了した。
まぁ私達が変身できるって事を知らない連中もいる場での会話だったので、そこまでの長話ができないのはわかってはいたが、何ともスッキリしない回答である。
結局何が言いたかったのか、きちんと説明してほしいのだが、酔っ払いにこれ以上の事を求めるのは酷なのかと思い諦める事にした。
というか、どもってるのに加えて、酔ってわかりにくなった口調の胡桃の言葉を、必死に要約するのが凄く大変だったので、私がギブアップしたってのもある。
再び、皆のおもちゃになっている胡桃に視線を向ける。
どもりながらも皆と会話している胡桃は心底嬉しそうにしているように見えた。
気のせいかもしれないが、初めて会った時よりも、どもりっぷりが減ってきているような気もする。
……気のせいかな?まぁどうだっていいか?
「ねぇ裕美ちゃん様。変身して魔王様の姿になるって事は、魔王様も魔法少女って事だよね?」
18禁同人誌の原稿の最終チェックをしながらルリちゃんが、よくわからない事を話しかけてくる。
「魔王様に敵対するのも魔法少女で、魔王様も魔法少女って、なんか色々とややこしくない?」
本当に何を言ってるんだろうルリちゃんは?
原稿作業で徹夜しすぎて、頭おかしくなってんじゃないか?
べつに、ややこしくも何ともないだろ?
「だったら、私の事は特別な魔法少女って認識で『魔王少女』って呼んでいいぞ」
お決まりの単語をビシッとルリちゃんへと突きつけてみる。
「へ~『魔王少女』かぁ~……何かちょっとダサいね」
SNS上に、魔王として本人降臨して再炎上させてやろうかな。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
まぁ、毎度毎度ではありますが、また続きを思い付いたりした時は、こっそりと連載再会するとは思いますが、いったんは『魔王少女』、ここで最終回となります。
いつになるかはわかりませんが、気長に待っていていただけるとありがたいです。
またその時は、再び読んでもらえると嬉しいです。
そしてコレも毎回の事ですが……
その内、第七部新規参入キャラのイラストを描こうと思っております。
こちらも、気がついたらシレっと追加してると思いますので、マッタリとお待ちいただけると嬉しいです。
需要があるかどうかはわかりませんが……
今回の新規魔法少女は胡桃しかいないので、1人だけだとちょっと寂しいので、ルリちゃん・カナちゃん・ハルカちゃんあたりも描ければいいなぁ~とは思っております。
遅筆なのでいつになるかはわかりませんが……
ともかく、また鉛筆描きの落書き絵ではありますが、描き終わりましたらシレっと追加してると思います。
それでは、そこそこ期間が空くとは思いますが、今後ともよろしくお願いいたします。




