第三十話 親睦会開始
無事解決した。
変身して莫大な魔力を得た事により、美咲の魔力操作に成功した。
秒で反魔法を解呪して、即回復魔法をぶち込んでやった。
回復魔法をかけたからわかったのだが、美咲のケガは本気で一分一秒を争うような状態だった。
たぶんだけど、あれ以上の時間、変身を躊躇してたら美咲の命はなかったかもしれない。
それを考えると、クソガキ先輩に釣られてだが、後先の事を何も考えずに躊躇せずに行動するのも、たまには悪くないのかもしれない。
傷は完全に治療はしたが、気絶したままの美咲をそのまま放置するのもちょっとアレなので、とりあえず『治療はしてある。後は任せた』という念話での伝言と共に、魔王軍本部にいる幸の元へと転送しておいたので、特に問題は無いと思う。
まぁ、あえて問題点を挙げるとすれば、私が魔王に変身したのを見て、ルリちゃんが「ふぁ!?ふぉあぁぁ!!?」とか訳わからない奇声を発した事と、目の前に魔王がいるというのに、青い顔したまま一言も言葉を発していない胡桃くらいなもんだ。
そんなわけで……
無事解決したので、予定通りの飲み会を開催する流れとなったのである。
「いや……神経図太すぎでしょ?よくあんな事があった後で平然と飲み会とかできるわね裕美」
そしていきなりクソガキ先輩にツッコミを喰らうのだった。
「ん?あんな事だろうが、こんな事だろうが、無事解決すれば全て過去の良い思い出だ。今を生きろクソガキ先輩」
いちおう人生の先輩でもあるクソガキ先輩に、人生の何たるかを教えておく。
「いやいや!完全には解決してないでしょ!?人質に取られてたっぽい春花はどうすんのよ!?」
ああ……そういや、そんな事になってたんだった。
でもハルカちゃん、魔王軍本部に行ってるだけだろうから、放っておいても勝手に帰ってくるんじゃないか?
「ハルカちゃん?飲み会の場所はメールしといたから、そのうち来んじゃね?」
「そんなわけないでしょ!明らかに監禁された感じだったじゃない!飲み会になんて来れるハズがな……」
「お?まだ始まったばっか?ギリギリ間に合ったかな?」
クソガキ先輩が私に難癖つけてる最中、ベストなタイミングでハルカちゃんが現れる。
「な?だから言ったろ?」
「何で来てんのよ!!!」
おいおい……せっかく来てくれたハルカちゃんに「何で来るんだ!」とかイジメじゃね?
「え?何でまひる怒ってんの?私来ない方がよかった?」
「え?あ!ちが……ゴメン、そういう意味じゃなくて……」
しどろもどろに言い訳するクソガキ先輩。今のはクソガキ先輩が悪いな。
「あ~副会長だ~……『とりあえず』でいいですかぁ~?」
ワンテンポ遅れて、ハルカちゃんが到着した事に気付いたルリちゃんが声をかける。
……で?とりあえずって何だ?
「お~……とりあえずで頼む」
何で会話が成立してんだよ!?
「『とりあえず』って何だよ!?」
我慢できずに思わずツッコミを入れる。
「ん?『とりあえず』って言ったら生ビールだろ?」
「そうそう。『とりあえず生ビール』って言うと長いけど『とりあえず』で通じるなら、そっちの方が短くていいでしょ?」
カナちゃんも説明しながら会話に参加してくる。
まぁとりあえず、これでコスプレ研究会メンバー揃った感じだな。
「思ったより合流早かったですね副会長。用事って何だったんですか?」
「ん?ああ……実は魔王軍の企業説明会があるっていうんで申し込んで行ってきたんだよ。ただ、伝えてた日付を間違えてたらしくって今日じゃなかったんだよな……また後日連絡するって事らしいんだけど、羽の生えた美人さんに凄い謝られたよ。もうコッチが申し訳なくなるくらいに何度も謝罪されてさぁ……」
なるほど……そんな感じでハルカちゃんを確保してたのか……
就活生は何かしらの就職サイトとかに個人情報登録してたりするからな。企業側が悪意を持ってその情報を悪用しようとすると色々できちゃう感じなのだろう。
ただ、美咲にその知能は無いだろうから、実行犯は、美咲に頼まれた幸だったのだろう。
コス研のメンバーだったら誰を拉致っても胡桃を呼び出せる、とか思ったのか?……丁度良いところでハルカちゃんを利用した感じだったのか?
まぁよくわからんが、美咲にお願いされたとはいえ、くだらない計画のために、用もなく呼び出したりしたから幸も申し訳なくなったんだろうな……過剰な謝罪はその辺も含まれてるんだろうな。
「えっと……裕美ちゃん様は、お飲み物のおかわりとかはいいの?」
思い出したかのようにルリちゃんが、私に声をかけてくる。
何となく理由はわかるが、私が魔王に変身したのを見て奇声を発してからというもの、私への呼称が変化していた。
「何か、裕美への対応が今までと違くない?私が授業受けてる間に何かあったの?」
そりゃあ何も知らないカナちゃんからしたら、そう言いたくもなるわな。
「ダメ!!こればっかは口が裂けても言えないの!!うっかり口を滑らせたりしたら、今度こそ私の命がピンチになるの!」
『今度こそ』って、ルリちゃんのSNSが炎上した時は、魔王として何も忠告とかはしてねぇぞ。
「いや……でも、会長がまだ生きてるって事は、私も本気で謝罪すればワンチャン生き残れる可能性も……」
「今後その話題出したら、本気でシバくわよ」
私と同じ様に、変身後の姿がバレてしまったクソガキ先輩からマジトーンでの忠告が入る。
ルリちゃんは少し自重した方がいいだろう。また炎上するぞ。
「本当に……私がいない間に何があったのよ……」
知らないが吉って事もあるぞカナちゃん……
「それはそうと、ルリちゃんとカナちゃんは20歳超えてんの?」
さっきからアルコールガンガン飲んでるのでスルーしてたが、いちおう聞いておくべきだろう。
「裕美ちゃん様……これはね『ビール』って名前のジュースだから年齢関係ないんだよ」
いや……その言い訳は無理があるだろ?
「わ、私のは『シャンディガフ』っていうジュースよ!ビールじゃないからセーフでしょ?」
ほぼ同じだろうが……
うん、こりゃ2年生組は確実に20歳超えてねぇな。『コレはジュース!』で押し通す気満々だ。
「……ちなみにクソガキ先輩は何飲んでんだ?」
クソガキ先輩は20歳超えてるから、まぁ何飲んでてもいいんだろうけど、このメンバーの中で唯一、店員に身分証明書の提示を求められてたので、いちおうは聞いてみる。
「……八海山のおいしい水」
だったらその水、一気飲みしてみろや!何で2人に合わせてノンアルコールぶろうとしてんだよ!あきらかにコップが違ぇだろが!!
「胡桃!胡桃は何飲んでる?」
美咲の命が助かった、という事がわかった後もずっと暗い顔をしている胡桃に話を振る。
飲み会に参加してるって事は、別に嫌ってわけではないのだろうが、何やらずっと考え事してるような感じではあった。
「え……わ、私は……」
突然話を振られて驚いたような表情になる胡桃。
「え、えっと……電気ブランのストレート…………っていう……じゅ、ジュースを」
一番ヤベェ奴が同学年にいたよオイ。
「あ、あの……大間さん!」
私が話を振ったのを、いいタイミングだと思ったのか、何かを決意したかのように、胡桃からしてみたら大き目の声で私の名前を呼ぶ。
「わ、私……魔法少女……や、やめる!!」




