第二十二話 幹部招集
「さて……今回、お前等に集まってもらったのは、今回の魔法少女への対策についてだ」
テーブルの上に肘を乗せ、口元に手を持っていきつつ、神妙な表情で話しだす。
「裕美殿の招集ならば参じるのは当然ではあるが、我等全員が動く程の強敵なのか?」
「あー……あの子ですね。強敵ってほどでもないと思いますけど、私はあまり戦いたくない……というか二度と会いたくないですね」
「何?そんなに面白い感じなのか裕美?アタシちょっと見てみたいなソレ」
「どうせ最終的にはいつも通り、魔王にトラウマ植え付けられて終わるんでしょ?何のために私達呼ばれたのよ?」
「とりあえず邪魔なんで、他でやってもらっていいッスか?」
あれ?おかしいな?魔王軍四天王を呼び出したハズなのに、5人分の反応が返ってきたぞ。
やはり、会議場所をノゾミちゃんちにしたのが問題だったのだろうか?
「お~!ノゾミン久しぶり~元気してた?」
「いや、美咲さんは『久しぶり』って言うほど久しぶりじゃない気がするんスけど?この中で本当に『久しぶり』なのはポチさんくらいじゃねッスか?」
まぁポチは、基本的にはヴィグルの片腕みたいな感じで動いてるから、私のお遊びに付き合う事は、ほぼ無いしな……今日は偶然予定が空いてたせいで、付き合わされるはめになってる感じだけどな。
それと美咲については許してやってほしいノゾミちゃん。コイツ馬鹿だから記憶力も無いんだよ。一週間以上会ってないと『久しぶり』認定されちゃうんだよ。
「ともかく、この面子だったら魔王軍の本部にでも集まればいいじゃねぇッスか?何でわざわざウチに来るんスか?」
ノゾミちゃんは、いったい何を言っているのだろう?そんなの理由は1つしかないじゃないか?
「飯食いながら話し合いしたかったからに決まってんじゃん」
「社食とかねぇんスか?魔王軍規模だったら普通あると思うんスけど?」
おっと、痛いところをついてきたな。
確かに社食はある。あるのだが……私は使う事を推奨されていないのだ。
魔王軍本部ビルはエントランスに入ると二手に分かれていて、右手側は特殊なIDカードを持ったヤツしか入れなくなっており、左手側が一般社員用の入り口となっている。
この右手側に入れるのは、私をはじめ幹部連中+αとなっている。
簡単に言うと、魔王の正体を知っている連中だけが通れるのだ。
右も左も、どちらもエレベーターやエスカレーター・階段が設置されており上階へと行けるが、どの階層にもド真ん中に分厚い壁が存在し、行き来はできない仕組みになっている。
右側から左側、またその逆も然りだが、行き来したかったら一階のエントランスまで戻らなければいけないのだ。
正体がバレたくない私のために、私が魔王軍本部に来る時は一般人バレしないようにとヴィグルが配慮してくれた結果である。
そんなヴィグルの好意を無下にしないために、私は一度も、エントランス入ってから左側へと曲がった事が無い。
というか、転移魔法で直接行く事が多いから、エントランスから入る事自体そこまで多くない。
……そして、社食は左手側の一般社員棟に存在しているのだった。
ココだけの話、右側にしか用の無い私は、あまり気にならないのだが、仕事をしている連中はたまったもんじゃないらしい。
社食に行くためだけではなく、業務上でも色々と往復が必要な場合があり、苦労しているらしい。
ヴィグルの業務過多の理由の一部コレじゃね?って思えるほどだ。
ちなみに、世間一般的に流せないような情報を扱っているのも右側の棟であり、世間的に存在を隠さなければならない絵梨佳も、私と同じように右側専用人間となっていたりする。
ともかく……そんなわけで、一般JDな私が、魔王軍の社食を使用して、かつ幹部でもある四天王に対して偉そうに振る舞う様を、一般社員に見せるわけにはいかないのである。
まぁ私が魔王に変身して社食行けば、一般社員も「ああ、何かヤベェ打合せしてるんだろうな」って思って普通の反応してくれるかもしれんけど、社食行くためだけに変身とか正直どうなの?って感じだったりする。
「まぁアレだ……色々あるんだよ」
説明が面倒臭いので、ノゾミちゃんには適当な返事をしておく。
「はぁ……まぁ暴れたり馬鹿騒ぎしなきゃ別にいいッスけど。でも、店が混んできたら帰ってほしいッス」
言いたくなさそうにしている私の空気を察して、ノゾミちゃんは深くは聞いてこなかった。
ノゾミちゃんのこういうところ好きだわ。
「その辺は大丈夫だって!私がノゾミちゃんちに迷惑かけるような事した事あるか?」
「どの口がほざくんスか……」
いつも通りな、軽めなツッコミを入れて、ノゾミちゃんは仕事に戻って行く。
「さて、ノゾミちゃんからの許可も得たから、話の続きだ」
そんなわけで仕切り直し。
「今回の魔法少女は……まぁそこそこは強いが、そこまで強敵ってほどでもない。ただ何と言うか……頭がおかしい」
変身前はそんなでもないと思うんだけど、変身しちゃうと『理想の魔法少女』になりきっちゃうから、現実と二次元の区別がついてないような思考になってしまう。
「たぶん、何回ボコボコにしても、当人は『パワーアップイベントのためのフラグである負けイベ』とか認識して、逆に喜んじゃうような感じだな」
「……頭おかしいわね」
サクラが同意してくれる。どうやらサクラ、よだれはダラダラ垂らしているけど、一般的な常識は私と共通認識を持っていたようだ。
「よだれは垂れてないわよ」
まだ何も言ってねぇのにエスパーかコイツ!?言いたそうにしたのが顔に出てたか?
「そうなると我は役に立てそうにないな。単純な暴力でしか相手を屈服させる方法を知らんからな」
いや、直接的な戦闘以外でもポチって意外と万能じゃね?役に立たないって事はないだろ?
もしかして、ただ戦いたいだけで「戦えないならいいや」とか思ってる?それか、こんなくだらない事に付き合ってられないって思ったか、かな?
「ヤガミってほんと脳筋よね……それでよくアッチの世界でトップに君臨できたわね」
「まぁまぁサクラさん。この人、自分がクソ以下の役にも立ってないって自覚しちゃって落ち込んでるんですから、放っておいてあげましょう……自覚するの遅すぎな気はしますけどね」
ポチの言葉に、いちいち余計な茶々入れをするサクラと幸。相変わらず仲悪ぃな……
あと、たぶん魔王軍としての業務的に、お前等2人よりポチの方が優秀だと思うぞ。
「そうだな。そう思うのならそれでいいのではないか?全ては結果が証明する」
おお……ポチも良い感じにスルースキルを身に着けたのか?
それとも「今までの仕事の実績を見てみろ馬鹿共」って遠回しに言ってるのな?
「まぁともかく、ポチは今回の任務、メインからは降りてもらって、何かあった時のサポートにでも回ってもらう感じでいいか?」
「了解した」
今回の件、いつもの事だが、私の遊びみたいな感じの事案なので「くだらない事に巻き込んで悪かったな。いつも通りの仕事しててくれ」的なニュアンスで喋り、ポチもそれに気付いたような返事をする。
何が言いたいかを瞬時に理解してくれるあたり、やっぱポチ優秀だな。
「そんなわけで議題に戻るとして……今回の魔法少女が魔王軍に喧嘩吹っ掛けてくるのを、どうやって諦めさせるかの案を……」
「はい!!」
私が喋りきる前に、挙手と共に大きな声があがる。
その声の主は美咲である。
「アタシに良い考えがある!!」
悪い予感しかしないのだが……?




