第二十一話 正体を知る者・知らぬ者
『裕美様。確かに私「魔王としての印象を良くしたい」みたいな事言いましたよ。でも、こういうマッチポンプは逆効果ですよ……軽く炎上しちゃってるじゃないですか』
幸からさっそく電話がかかってくる。
どんだけチェック早ぇんだよ?ルリちゃんが投稿した動画がバズりだしたのって、ついさっきだろ?魔王軍内での仕事そんなに暇なのか?それとも、ネット班みたいな事を仕事にしてんのか?
「いや、コレ私のせいじゃねぇだろ?動画撮られてるなんて知らなかったし」
ルリちゃんが投稿した動画は2つに分かれていた。
1つ目は、私と胡桃が対峙して喋っているシーン。まぁ距離があったせいで会話内容は全然聞き取れないわけだが……そして、胡桃が叫び声を上げて倒れるところまでが映されていた。
ルリちゃんが、胡桃の名前を呼びながら駆け寄って来た場面は、プライバシーの保護を優先したのか、入ってはいなかった。
そして2つ目は場面が飛んで、気絶した胡桃を抱えた私が「人があまりいなくて、落ち着いてコイツを寝かせる場所ないか?」とか聞いてる場面。
ただ、この私との会話シーンでは、映像はめちゃくちゃだった。
たぶん、カメラだけは起動した状態で、録画しているスマホは別の場所にあるような感じなんだろう。
んで、私が背を向けているような時だけ、しっかりと私の姿が映されていた。
簡単に言えば、完全な盗撮だ。
そりゃ私も撮られてるなんて気付かないわな……魔力感知は得意だけど、こういうのには鈍感なんだな私。盗撮・盗聴も魔法で対処とかできるかな?
ちなみに、動画と一緒に『魔王さんと会話しちゃった~ヾ(*ΦωΦ)ノヤッタ~♪』っていう一文も入ってて、滅茶苦茶煽られてる気分にさせられた。
そして、当の本人であるルリちゃんの現状は?というと……
「うわあぁぁぁーー!私死ぬーー!殺されちゃうよぉーーー!!やだーー!魔王さんごめんなさいぃーーー!!」
絶賛大泣き中である。
何というか……ルリちゃんが投稿した動画についたコメントの一部を紹介すると……
『魔王様、自分でやっといて自分で介抱するとか、結局何がしたいの?』
『投稿する前に、ちゃんと魔王に許可取ったのかコレ?』
『この動画、どっから見ても盗撮なんだが?』
『これ無許可だったら、魔王にバレた時点で粛正されるパターンじゃね?』
『無茶しやがって(AA略)』
『魔王様まで届くように拡散協力します』
『自殺願望でもあんの?じゃなきゃただの馬鹿だろ?』
と、こんな感じである。
まぁ魔王1割、ルリちゃん9割くらいな比率で炎上していたりする。
「とりあえず火消しした方がいいんじゃないコレ?っていうか、まず投稿した動画削除すればいいんじゃない?」
「いえ、ここまで広がったら絶対魚拓取られてます。消したら、むしろ増えます。こういうのは、沈静化するまで、一切何も反応しない方がいいです」
「うわぁぁ!沈静化するの待ってる間に、絶対魔王さんの目についちゃうよぉー!殺されちゃう……私絶対に殺されちゃうよぉーーー!!」
「大丈夫だよルリ!殺されるっていうなら、今の時点で既に殺されてる。まずは一旦落ち着こう」
JKコスプレをしているクソガキ先輩、アタオカ魔法少女化したままの胡桃、一般JDのルリちゃん、そして魔法少女のマスコットキャラである浮遊狐……一見すると異様な集団の議論が白熱しており、私の正体が魔王だとバレかねない電話をしているのに、誰も気付いていない。
っていうか、何をシレっと会話に混じってんだよ浮遊狐?オマエただのUMAだって自覚あんのか?あと、これ以上余計な発言したら、私の拘束魔法で、呼吸もろともお喋り止めるからな?
「とりあえず、コッチも色々と立て込んでるから、電話切るぞ」
面倒臭いので、幸の電話は強制的に切断する。
どうせ永遠と幸の、説教のような愚痴を聞かされるだけの通話なので、マジメに聞くだけ無駄なやつだ。
「まぁ何だ……やっちまったモンはしゃあないだろ。盗撮程度でわざわざ殺しに来るほど魔王も暇じゃないだろ」
電話を切り、私も異様集団の会話に参加してみる。
最初は若干イラっとしたが、よくよく考えたら、盗撮動画無許可ネット掲載とか、幸やミキちゃんで慣れていたので、今更気にする事じゃない。
「だってよ。裕美が言うなら大丈夫なんじゃない?」
「かいちょ~~……他人事だからって適当すぎるよ~~私、生死がかかってるんだよ~」
だよね……
私が魔王だって知ってるクソガキ先輩からしたら、そう言いたいだろうし、私が魔王だって知らないルリちゃんからしたら、そう言いたくもなるわな。
「いや……だって裕美、アレだし……ねぇ?」
ルリちゃんを納得させるためには色々と白状したいんだろうけど、言ったらそれこそ生死に関わるから言えずに、クソガキ先輩の声は凄い小さくなっていく。
でも覚悟して喋れよクソガキ先輩。
直接口に出さなくても、それとわかるような発言でも、再度の号泣謝罪程度じゃ済まなくなるかなら?
「とりあえずルリちゃんのやらかしは一旦置いといて……胡桃。まだ魔王軍との敵対を続けるのか?だいぶ魔王に酷い目にあわされたみたいだけど?」
微妙に鬱陶しいルリちゃんは無視して、胡桃に直接本題をぶつける。
まぁ酷い目に合わせた覚えは無く、胡桃が勝手に気絶しただけなんだけど、一応は現場にいなかった事になってる私が、他の人から聞いた~みたいな感じで話してみる。
「え?当たり前でしょ?魔法少女ってそういうものだし」
ガチオタうぜぇ……
「それに久保先輩っていう、追加の仲間キャラが見つかったんだし、ここからさらに盛り上がるところじゃない!」
「ちょ……!?え……!?私!!?何で!?」
確かにアニメとかだとそうかもしれんけど……変身した胡桃マジで面倒臭いな。
そしてクソガキ先輩、本日3回目の貰い事故。呪われてんじゃね?
「一緒に頑張りましょう久保先輩!……最終決戦あたりは5人編成くらいになってますかね?」
私にトラウマ持ってる魔法少女ばっかだから、5人集まるといいな胡桃……
「僕が持ってた石で魔法少女になった子はキミで18人目だから、頑張ればもっと集まるんじゃないかな?」
「「多っ!!?」」
事情に詳しくないルリちゃんと胡桃が同時に驚きの声を上げる。
まぁ一般的な魔法少女アニメとかを想像してて現実を知ると、そういう反応になるわな……
「いや……でも1人目が魔王で、クルミが持っている石の元の持ち主が、もう変身できないって事を考慮すると16人になるかな?」
「それでも十分に多いわよ……その全員が私と同じ様な目に合ってるって思うと、もう言葉が出ないわね……」
何やら悟ったような表情で、クソガキ先輩がひとり言を言っているのが聞こえたが、あえてスルーする。
「それと、いざ魔王と戦う事になった場合、今のところ5・6人くらいは魔王側に付く可能性があるから、気を付けた方がいい」
何で私と戦う流れで話を進めてんだよ浮遊狐……
「「そっち系ジャンルの魔法少女モノかぁ~~!!」」
浮遊狐の発言でルリちゃんと胡桃が同時に声を上げる。
何でシンクロしてんだよ?実は仲良いだろオマエ等?
っていうか、ソッチ系ってどっちだよ?




