第二十話 魔法少女とは
「とりあえずルリちゃん。色々と世間体にバレると、日常生活に支障が出ちゃうから、今日見聞きした事は、ここにいる3人……いや、胡桃も入れると4人か。4人だけの秘密って事にしといてくれ」
黙っていればいいものを、ベラベラと爆弾投下した浮遊狐のせいで、言い逃れできないような状態になってしまったため、ルリちゃんの説得へと移行していた。
「ちなみに、秘密をバラした場合は、私の魔法で二度と喋れなくするから、私の言う事には素直に従う事をおすすめするぞ」
説得。というか脅迫とも言うかもしれないが、まぁ些事は気にしないようにする。
「魔法!って事は、裕美ちゃんもやっぱり変身できるんだ!変身見せてくれたら絶対喋らないようにするよ!」
半分脅してるような状態なのに、見返りを求めるとか、意外と強いなルリちゃん。
「えっと……これも秘密にしてほしいんだけど、実は私、名誉魔族なんだわ。その関連で、この浮遊狐と知り合いってだけで、魔法は使えても変身はできねぇんだよ。残念ながら」
さすがに、変身見せて、正体が魔王だってのまでバラすわけにはいかないので、適当な事を言っておく。
まぁ事実も混ぜ込んだ嘘だから、それなりに説得力あるだろ。
「え!?名誉魔族!?そういう人がいる、ってのは聞いた事あったけど、実物初めてみた……じゃあ裕美ちゃん、変身しなくても魔法使えるの?」
「おうよ。ほら」
言いながら、指をパチンっと鳴らし、その指の上に小さな炎の塊を出して見せる。
「うわ!うわっ!!凄っ!魔法だ魔法!!目の前で初めて見た!すっご!」
大興奮のルリちゃん。
これで私が名誉魔族だって事は信じただろう。チョロいな。
「じゃあ会長!会長は変身できるんでしょ?見せて見せ……」
「死んでも嫌!!!」
食い気味に拒絶するクソガキ先輩。
まぁ変身なんてしたら、今ネット上に上がってるっていう『泣きながら魔王に命乞いしてたコスプレ少女』の正体が、クソガキ先輩だったってバレるもんな……まさか私以外にも、意地でも変身後を見せたくないヤツが現れるとは思ってもみなかったな。
クソガキ先輩の場合、自業自得の様な気がしなくもないけど。
「ん……あれ?……ここ……部室?」
クソガキ先輩の拒絶音がうるさかったのか、気絶していた胡桃が目を覚ます。
「あ!胡桃ちゃん目が覚めた?もうビックリしたよ~……例の魔法少女の正体が胡桃ちゃんだったり、その胡桃ちゃんが魔王さんにやられて倒れちゃったり……」
さっそくルリちゃんが胡桃ちゃんの元へと向かう。
でもちょっと誤解されてる部分があるな。私、胡桃に何もしてないよ。割とマジで。話し合いで解決しようとしたら、突然胡桃が倒れたってだけだよ。
「あ……う……わ、私……私……ち、違う。違うんです……」
心配して近寄るルリちゃんだが、胡桃はルリちゃんを避けるように、泣きそうな顔になって視線を逸らしてブツブツ言いだす。
何が「違う」だよ。今更、魔法少女な事を隠そうとしてんのか?こういうのは一蓮托生。旅は道連れ世は情けって言うだろ?私とクソガキ先輩みたいに、魔法使える事認めろよ。
「大丈夫!会長と胡桃ちゃんが魔法少女に変身できて、裕美ちゃんが名誉魔族で魔法が使えるって事はさっき聞いたから今更驚いたりしないよ!もちろん秘密にするし!」
「え!?く、久保先輩も……ま、魔法少女?」
あ~あ……ルリちゃん言わなくていい事まで言っちゃってるよ。
クソガキ先輩、貰い事故再びだな。
「ちょ……!?まっ……会長!?何で叩くの?いたっ……これ地味に痛い!やめ……やめて会長!」
無言でルリちゃんにビンタをし続けるクソガキ先輩。
ルリちゃんも手で防いでるから、そこまで痛くはないだろうけど、結構鬱陶しいやつだなアレ……まぁクソガキ先輩の気持ちもわからんでもないけどな。
「そ、そっか……大間さん……な、何で魔法つ、使えるのかって思ったけど……め、名誉魔族だったから……なんだ」
ひとり言のように、つぶやく胡桃。
やっぱ疑問に思ってたんだな。
……そりゃあそうか。生身でいきなり魔法とか使ったら、そりゃあ「何で!?」ってなるよな。
何はともあれ、とりあえず『私=魔王』ってのがバレないなら何でもいいや。
「あ~……胡桃。お前がアノ魔法少女なんだよな?悪ぃんだけど、確認のために、ちょっと変身してもらっていいか?」
そう!この確認は大事なのだ!
私は魔王じゃないから、変身が解けて胡桃になる瞬間を見ていないのだ!!
聞いた話だけで『胡桃=アタオカ魔法少女』って納得しちゃってると「ユミちゃん見てもいないのに、やけに素直に信じるな」とか思われちゃう可能性もあるのだ。
その結果、ちょっとだけでも『私=魔王』と疑われてしまう可能性だってあるのだ。
そんなわけで、少しでも疑われる可能性があるなら、ソレを潰していく事が重要なのだ。
胡桃は黙ってうなずくと、変身アイテムを取り出し、その場で変身をする。
う~ん……どっから見ても、やっぱあのアタオカ魔法少女だ。本当に胡桃だったんだな。
「おお~!変身だ変身だぁ~!すっご!本当に魔法少女っているんだね!……でも、全裸になる変身バンクとか無いの?」
大興奮だなルリちゃん。やっぱコスプレ研究会とか入るだけあって、頭ん中が二次元脳になってるな……現実世界だと作画コスト削減とか関係ないから、バンクとかねぇから。
「みらくるミラクル!ミラクルミィ!……魔法少女!ミラクルくるみちゃん!只今参上!陰で悪さを……」
「胡桃もそういうのいいから!!?」
変身したら、必ず口上述べないとダメとか、そんな決まりないからな!
「え?でもこういうのって、一回言い忘れると、演出の都合上、次回からカットされたりする可能性が……!」
「ねぇよ!!演出とかカットとな何だよ!?言いたいなら、次変身した時も言えばいいだろが!!…………っていうか胡桃。変身後と変身前で性格とか口調が違いすぎじゃね?」
ツッコミついでに、気になっていた事も聞いてみる。
どっちの性格が演技で、どっちが素なんだろうか?
「性格……っていうか、考えてる事とかは、変身前後で変えてるつもりはないから、わからないけど、口調に関しては、魔法少女は明るくて元気な口調じゃないとダメだ!って……『魔法少女ミラクルくるみ』は、暗くて無口な『多々良胡桃』とは別人なんだ!って強く意識して……理想の魔法少女をイメージして喋ってたら、自然とこういう口調になった感じ?かな」
思い込みで、ある意味で別人格作っちゃった感じか?それはそれでスゲェな。
でもソレ、コスプレ研究会よりも、TRPG研究会で重宝されそうな才能だな。演劇部は……台本無視して勝手に喋り出したりしそうだから無理かな?
「……ん?あれ?電話かな?」
マジメに胡桃の話を聞いている最中で、突然ルリちゃんがスマホをいじり出す。
マナーモードにしてあるようで、ブーブーと音を出して振るえているスマホを取り出している。
「え!?ちょっ……嘘っ!?ナニコレ!?何コレぇ!!?」
振るえるスマホの画面を見て何かを叫んでいるが、一向に電話に出る動作に移らないルリちゃん。
そのバイブ音も、一度気になり出すと気になって仕方ないので、早いとこ電話に出てほしいのだが……
「……バズってる」
ん?突然何言ってんだルリちゃん。
「バズる?何が?」
私と同じように気になっていたようで、クソガキ先輩が疑問を口にする。
「えっと……魔王さんが胡桃ちゃんを倒すところから介抱するところまで、一部始終を動画に撮ってたからSNSに投稿したら……何かバズったっぽい…………いやぁ~やっぱ世間的にも凄い人気だね、魔王さん」
ちゃっかり動画撮ってたんかいルリちゃん!?
っていうか勝手にSNS投稿とか何してくれてんだよオイ!!?




