番外編4 ~18人目の魔法少女 part4~
『コスプレってのは、自分じゃない「変わりたい自分」になる行為だ』
変わりたい、と言った私に、春花先輩がくれた言葉。
その言葉はまさにその通りだった。
魔法少女に変身した私は、私じゃない、『私の理想とした魔法少女の私』と意識するようにすると、自然と普通に喋れるようになった。
……あくまでも変身した状態でだけど。
ただコレは、良いキッカケだ。
もしかしたら、このまま変身しなくても、普通に喋れるようになるんじゃないか、とすら思えた。
春花先輩に「先輩のくれた言葉のおかげで、問題が1つ解決しそうです」とお礼を、後日したところ「どの言葉が胡桃の問題を解決できたのかはわからないけど、その言葉が胡桃の悩みを1つ無くしたのなら、それは友達冥利につきるってもんだ」と笑ってくれた。
やっぱり春花先輩は素敵な人だ。
この人が、私の事を友達だと思ってくれている事に嬉しくなる。
それに、私が入部した『コスプレ研究会』の人達も、皆優しい人だった。
こんな私を友達だと思ってくれている。
同級生の大間裕美さんは、怖そうな顔と雑な口調で、ちょっと苦手だったけれど、意外と良い人だって事もわかった。
……詳しくは言いたくないけれど、高校時代のクセが出てしまったせいで恥をかいたのだけれど、大間さんは何も聞かずにいてくれたのはありがたかった。
そんなある日の事だった。
最近では日課になっている、魔法の練習をしている時、突然後ろから声をかけられた。
魔法の練習中という事もあり、発動中だった魔法を、驚きのあまり相手にぶつけてしまった。
色々と魔法で実験をしていたので、私が放った魔法がどれくらいの威力があるかはよく知っている。
魔物ならともかく、普通の人がまともにくらえば、ほぼ確実にあの世行きだ。
かなりマズイ。
このままでは私は、確実に殺人犯になる。
私の経歴がどうなろうと構わない。将来の自分に過度な期待はしていない。
ただ、『魔法少女が一般人に危害を加える』のは駄目だ!それは絶対にやってはいけない事だ!
魔法の発動を止めようと思っても、もう止まらない。
あまりに一瞬の出来事すぎて、反応が追いつかない。
……もうダメだっ!!
しかし次の瞬間、信じられない光景を見た。
私の放った魔法が弾かれたのだ。
そして、その魔法を弾いた人物は、私のよく知る人物……
そこに立っていたのは大間さんだった。
えええ?何で?どういう事?何で大間さんがここにいるの?といか、何で大間さん魔法使えるの?大間さんは魔物?いや、どっから見ても人間だ!実は大間さんも私と同じ魔法少女?いやいや!大間さん変身してない状態じゃん!?じゃあ何で!?
混乱する。動悸が激しい。
いや、動悸が激しいのは、混乱しているだけじゃない。
友達を殺してしまうところだった。
何故かはわからないけれど、大間さんが偶然魔法を使えたから良かっただけで、これがもし、仮に久保先輩とかだったら、私が放った魔法で、間違いなく殺してしまっていたのだ。
今のこの状況は、いまいち理解できていないが、唯一、私が恐ろしい事をしてしまった事だけは理解した。
そんな、混乱と恐怖でいっぱいの私の目の前で、大間さんと一緒にいた女の子が魔法少女に変身をした……すぐ隣にマスコットキャラを浮かべた状態で……
頭が余計混乱する。
この子も魔法少女?マスコットキャラ?私にはいないのに?何でこの子にだけ?ズルい。どうすれば私にもマスコットキャラが付くの?
そんな混乱した私を見て、大間さんが「どうやって魔法少女になったのか教えればマスコットキャラをやる」みたいな事を言ってきたので、即喋った。
別に隠すような事じゃない。この河原で変身アイテムとなる綺麗な石を拾っただけなのだから。
こうして私は、念願のマスコットキャラを手に入れた。
その子の名前は長くて覚えられなかったが、私の今までの悲惨な人生の身の上話を「キミも苦労したんだね」と親身になって聞いてくれた。
翌日、大学で大間さんと会ったのだけれど、話すタイミングを逃してしまい、何も聞けなかった。
だって仕方ないよね?昨日の夜、大間さんと会ったのは、変身した私だ。今の私が「何で魔法使えるの?」とか聞くわけにはいかないだろう。
結局、逃げるようにして大間さんから離れてしまった。
ただ逃げ出す時、この学校に魔王がやって来る、といった話が聞こえたので、ここは魔法少女としての私の出番だ!と考え、変身して待ち伏せする事にした。
学校の出入口付近で待ち構えていたところ、突然魔王が現れた。
恐ろしい事に魔王は何でも知っているようだった。
私の正体もあっさりと見破られてしまった。
でも、それはどうだってよかった。
変身前の私の個人情報なんてバレたところで何の価値もない。
……そう思っていた。
「身バレの恐ろしさわかってねぇのか?」
「現実世界ってのはな、魔法少女アニメの中みたいな優しい世界じゃない、って事だよ」
「人ってのは、自分と違うモノを警戒するもんだ。それが特殊な力を持つようなヤツだったら尚更だ。警戒どころか、恐怖の対象にでもなるんじゃねぇか?」
魔王の口から次々と言葉が繰り出される。
現実世界がアニメとは違うなんて、私だってわかっている。
アニメの中と同じだったら、私は今まで惨めな思いをして過ごす事なんてなかったハズだ。
それでも、今の学校でできた友達を信じたかった。
皆きっと、全てを知っても私の事を受け入れてくれる。
私だって、強い力を持っていても、友達に危害を加えるつもりは……
「お前……気分次第で簡単に自分を殺せる奴と普通に会話できるか?ちょっと会話をミスって相手を怒らせたら死ぬんだぞ?」
魔王から放たれる一言。
同時に思い出す、昨日の夜、私が大間さんにした事……
そうだ……昨日、一歩間違えていたら大間さんは死んでいた。
今後も、他の誰かに対して、同じミスをしないとは限らない。
「そ……それは……で、でも私はそんな事しないわ!」
魔王に反論してはいるが、それは私自身にも向けた言葉だった。
私があの人達を殺してしまうかもしれない……私を対等に見てくれている優しい人達……やっとできた私の本当の友達…………春花先輩、私は……
「私はお前の気分を聞いてるわけじゃねぇよ。周りがどう思うかを客観的に話してるだけだ。核兵器と同じようなもんだよ。使われないと思っていても、それが抑止力になってる。核兵器が見え隠れしてる時点で、対等な会話なんてできねぇんだよ」
対等な会話が……できない?
私が魔法少女になったせいで、対等な関係を壊した?
魔法少女じゃなければ保てた関係?
でも、友達を作るキッカケになったのは魔法少女になって勇気を得た事で……ただ、そのせいで友達がいなくなってしまう?
でも、でも、それでも、私は……私は……友達を信じてい……
「お前が言ってる連中も、お前が望めば会話はしてくれるかもな。でもそれは恐怖で縛り付けてるだけだ。今まで通りの関係が続くわけじゃない。見てくれだけで、本当の意味でのお前の友人は誰一人いなくなるだろうな」
とどめとも思える魔王の一言。
コスプレ研究会の皆が、私に畏怖の視線を向ける。
春花先輩が、私に笑いかけてくれる事がなくなる。
そんな場面が頭をよぎる。
恐らく、魔王の言う通り、近い将来起こるであろう現実……
魔法少女がいなかった事で友達を無くした過去。
魔法少女になったせいで友達を無くす未来。
こんな私に話しかけてくれた春花先輩……笑顔を向けてくれた春花先輩……
いなくなる?全て私が壊してしまうの?
やだ!嫌だ!!耐えられない。
今まで忘れていた、友達の温もりを想い出してしまった。味わってしまった。
もう惨めだったあの頃に戻りたくない!失いたくない!
私が魔法少女だからダメなの!?
どうすればいいの!?どうしたら私は救われるの!?
……助けて、助けて春花先輩!お願いだから私を見捨てないで!!
「ああああああああぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
気持ちの爆発が抑えきれなずに口から漏れる。
「ハァ……違う!!ハァ……やだ!!ハァハァ……ヤダよぉ!!!!」
感情が馬鹿になったみたいに、何も考えられない。
考えなくてはならなにのに、考えたくない。
脳が酸素を求めているような感覚。いくら呼吸しても苦しさから逃れられなくなっている。
意識が朦朧としてくる……
春花先輩……私は……私は……




