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魔王少女  作者: mizuyuri
第七部
235/252

番外編 ~18人目の魔法少女~

 私は何時からこんなだったんだろう?

 昔は、人と喋る事が、こんなに苦手じゃなかったハズなのに。


 小学生の頃は、友達とアニメの話で盛り上がってた。

 大好きな変身ヒロイン物のアニメ。何の違和感もなく語れてた。当然のように語った分だけレスも返ってきていた。

 だってソレは、友達との『会話』なのだから、当然といえば当然だ。


 ソレが『会話』じゃなくなったのは、いつからだったのだろう?


 中学生の時くらいから、語った量に対しての返事が少なくなってきているのは何となく気になりだした。

 理解できたのは、忘れもしない中学3年の冬だ。


「もう、誰も胡桃の話なんて聞いてないのよ……皆、受験勉強に集中したいのに、この歳になってもいまだに『魔法少女』って……現実を見てよ!魔物は現れたけど魔法少女は現れた?ここはアニメや漫画の世界じゃないの!胡桃の声って凄い耳障りなのよ!そんなに喋りたいなら、誰もいない壁に向かって喋っててよ!」


 いつも通りの会話をしようと話しかけた時、親友だと思っていた子に言われた言葉。


 その時になって、私は初めて『会話』をしていなかった事に気が付いたのだった。

 一方的に喋っているだけ。返事のないただの言葉。


 私はどこで間違えていたのだろう?


 私はただ、大好きな魔法少女の話がしたかっただけだった。

 昔みたいに「この衣装が可愛い」とか「どのキャラが好きだ」とか、そんな他愛のない会話がしたかっただけなのだ。


 子供のままな私を置いて、皆大人になってしまった?

 違うよね?好きな事に、子供も大人も無いよね?


 間違っているのは私なの?それとも、私以外の皆が間違っている?

 わからない……もう、何もわからなかった。


 皆変わっちゃったの?

 皆、私の事ウザいと思ってたの?


 怖くなった。

 私が喋れば喋った分だけ嫌われるような気がした。


 この時から中学卒業するまでの間、誰かに話しかけた記憶が無い……

 喋らなければ、これ以上私の好感度は下がらないだろうと本気で思っていたんだと思う……もう、この学校には、私の友達と言える人はまったくいなくなっていたのに……



 そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま、私は高校生になった。


 あまり勉強が得意でない私は、それ相応な高校へと進学した。

 同じ中学から同じ高校へと進んだクラスメイトは少なかった。


 良いキッカケだと思った。

 心機一転、新しい友達を作る!同じ趣味を持つ人は必ずいるハズだ。

 ()()のは得意だ。

 きっと友達もたくさんでき…………



『――――もう、誰も胡桃の()なんて聞いてないのよ――――』



 ……あれ?『会話』って、どうすればいいんだっけ?


「よろしくね~……ねぇ?名前何て~の?」


「え……あ、えっと……た、多々良く、胡桃って……い、いいます」


 隣の席になった子が、さっそく声をかけてくれたものの、言葉が出なかった。

 今まで通りに話すつもりだった。

 今まで通りに言葉が出てくるハズだった。


 こんなはずじゃない。こんなはずじゃなかった。


 「あ~……そう。よろしくね」


 話しかけて来た子が、私の返答を聞いて何を思ったのかはわからない。

 私の自己紹介に対して、素っ気ない返事をし、その後私に話しかけてくる事はなかった。


 こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったのに……


 ……会話って、こんなに難しかったっけ?


 その後も私は、会話をしようと必死になった。

 誰かに話しかけようと努力した。

 ただ、口から出る言葉は常にどもってしまって、上手く喋る事ができなかった。


 上手く言葉が出ないので、誰かに話しかける事を躊躇してしまう。

 話さない事で余計に、喋り方がわからなくなってくる。

 ……完全に悪循環だ。


 結局私は、クラスの輪に加わる事ができずに高校生活を送る事になった……


 色々な人達がグループを作っていく中、ただ一人、黙ったまま席に座って休み時間を過ごすのが苦痛だった。

 一番長いお昼休みは地獄の様に思えた。



 ある日のお昼休み。

 トイレに行って戻って来た時、私の席が無くなっていた。

 正確には、私の席の椅子が無くなっていた。


 私の席の近くでお弁当を食べていたグループが、集合した折、席確保のため、主不在になっていた椅子を持って行ってしまっていたのだ。


「……い、椅子……か、返して欲しい……」


 勇気を振り絞って出した言葉は、誰の耳にも届いていなかった。

 それはそうだ……皆、友達との会話に夢中なのだ。

 私の囁くような言葉なんて、誰にも聞こえていないだろう。


 涙がこぼれた。

 私の唯一の聖域と思えた場所が、突然奪われたような衝撃。

 それを失った恐怖と、それを取り戻す事すらできない自分の不甲斐なさ。


 何で私はこんな風になってしまったんだろう。

 どこで間違えてしまったんだろう?

 こんな自分が惨めで惨めでしかたなかった。


 零れ落ちる涙は止まらない。

 それを気に留めてくれる人もいない。


 私は自分の机に置いてあったバッグの中から、お弁当箱をそっと取り出し、教室から出る。

 誰もいない場所でお昼ご飯を済ませようと思った。


(何?アイツ一人で弁当食べてんの?)

(うわ!?もしかして友達いねぇの?)

(あんな根暗と友達になるような奴いねぇって)


 聞こえない言葉が聞こえてくるような気がした。


 わかってる。お弁当箱を持って歩く私の事を気に留めるような人は誰もいないって事は……

 それでも見られているような気がした。笑われているような気がした。


 どこに行っても、その視線はついて来るように思えた。どんなに歩いても、私を笑う声は聞こえるように思えた。


 視線から逃げるために必要なのは、狭い個室。私だけの空間。

 でもそんな場所、学校にあるわけが……


「……あ!」


 ふとひらめく。


 私はそのまま早足にトイレへと駆けこみ、個室へ入り扉に鍵をかける。


 四方を壁で囲まれた空間。

 私を笑う声も視線も無くなったような気がした。


 少し落ち着いてきたので、私は便座に座り、そこでお弁当を食べ始めた。

 誰の視線も無い、私だけの空間。


「良い場所……見つけたな……」


 会話をしようとしなければ、言葉は普通に出た。

 頑張れば、また普通に、誰かと会話する事ができるようになるんじゃないかと希望が出て来た。


 それでも、お弁当を食べる私の瞳から零れ落ちる涙は、何度拭っても溢れてきて、止まる事はなかった。


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