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魔王少女  作者: mizuyuri
第七部
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第十三話 新人魔法少女

 この町に流れる、少々大き目な川がある。


 その川を渡す大きな橋がいくつか点在するが、それ以外に特に目立った場所はなく、通行のために橋を通る人以外はそんなに人は来ない。

 まだ肌寒いこの時期、日が落ちた後は尚更人気が無い、そんな川だ。


 川幅もそこそこあり、河川を挟んで対岸で会話をする事は若干困難なくらいだ。

 両サイドはしっかりと土手になっており、土手の上にはちょっとした歩道。

 そこから外側に土手を降りた場所は一車線の道路が走り、そのさらに外側でようやく民家となる。


 つまるところ、この川の中央部の中州辺りで、そこそこ大きな音を立てても、静まり返った夜中でも、民家に音が届く事はほぼほぼ無いのだ。


 まぁ何が言いたいかというと、川のド真ん中で魔法の練習とかで、ドッカンドッカンやってても意外と目立たたないのだ。


 私達みたいに、近くまでやって来ない限りは……


「お母さん並の不審人物感だしてるねアレ。頭おかしい自覚ないのかな?」


「で、でもほら!頑張るのは良い事だと思うよ」


「人に迷惑かけないように魔法を使うのは良い心がけだと思うけど、魔法の使い方が我流すぎて見ていられないよ」


 各々が好き放題感想を述べる。


 そんな事を言われているとはつゆ知らず、当の本人である新魔法少女は、一心不乱に魔法の練習をしている。

 いや?魔法の練習なのかアレ?

 遠目から見てると、意味不明な事してるようにしか見えない。


 幸を攻撃してたみたいな、ヒトデ?星?まぁよくわからんけど、そんな形の物体を魔法で作っては、地面にぶつけたり、ハート型の物体を作っては空に放り投げたりしている。


 正直、アレは魔法の練習か?と尋ねられたら、首を傾げてしまう。


 まぁ漫画やアニメ好きとしてはわかるよ。星とかハートとかのエフェクト。

 でも実際の魔法戦でそれってどんな効果あんの?かたち形成で無駄魔力使ってのはわかるけど、攻撃力は、使った魔力に見合ってんの?『費用対効果』って言葉知ってる?


 ともかく、ここで新人魔法少女を眺めていても何も始まらない。

 魔法の練習の邪魔にならないよう、そっと近づく。


「警察だ!!そこのお前!こんな場所で何をやっている!!」

「あびゃあ!!?」


 警察と偽って、いきなり声をかけたところ、新人魔法少女は奇声のような悲鳴を上げる。


 ついでに、何をとち狂ったのか、魔法の練習用に出していた星型の物体を、私へと放ってきたので、しっかりと防壁でガードした。


 大丈夫かコイツ?声かけてきたのが私じゃなくて、マジもんの警官だったら傷害事件の現行犯なってたぞ。

 ってか防壁はった私でも微妙に痛かったから、下手したら死人出たんじゃねぇか?


 いや、でもコレは痛い……のか?

 何だろう?星型の物体が防壁越しに当たった瞬間、生物(なまもの)で叩かれたような感触だったような気がする。

 釣ったばかりのヌメヌメした魚でペチペチされたような感じというか何というか……


 この魔法を受けた幸が「防壁あっても地味に痛い」とか「気持ち悪い」とか言って、この星型の物体を『ヒトデ』と形容したのは、あながち間違いじゃなかったんだな……スマン幸。アホの子だと疑ったけど、お前の感性は正しかったんだな。


「え……?ええ?な、何で……?」


 ワンテンポ遅れて、やっと私達の存在を認識した新人魔法少女は、途端にうろたえだす。


 こりゃアレか?生身で魔力持ってる私を見て動揺してる感じか?

 そうだよな。初見だと結構ビビるよな。どう見てもただの一般人だもんな私。


「キミ!誰だかわからないけど、驚いたからって、いきなり魔法攻撃は危ないじゃないか!相手がユミだったからよかったものの、魔力を持たない一般人だったら大変な事になっていたよ!」


 私の後ろに隠れていた浮遊狐がここぞとばかりに出しゃばる。

 ってか何シレっと人の本名出してんだよ!


「いや、さっきのはお母さんが悪いでしょ。軽犯罪法第1条15号って知ってるお母さん?」


 続いて『私を盾にしていたヤツ2号』のユリが、もう魔法攻撃は無いとふんで、私の隣へと出てくる。

 でも軽犯罪法第1条15号なんて知らねぇよ。むしろ何でそんな単語知ってんだよ0歳児!?


「…………」


 そして最後に『私を盾にしていたヤツ3号』の絵梨佳が無言のまま出て来て、そのまま変身する。

 あれ?絵梨佳さん顔がマジになってない?ってか若干キレてない?

 もしかして、私がいきなり攻撃されたの見て怒ってる?

 でも、魔法攻撃がきた瞬間に、咄嗟に私を盾にした絵梨佳に怒る資格ないと思うのは私だけ?



「ズルいっ!!!!」


 絵梨佳が変身したのを見て、新人魔法少女が唐突に叫ぶ。

 意味がわからん。何がズルいんだよ?


 2人と1匹の表情を見てみると、私と同じ様に「?」ってな感じになっている。

 怒っていたはずの絵梨佳も、毒気を抜かれてポカーンとしている。


「魔法少女!!マスコットキャラ!!」


 絵梨佳を指差し、次いで浮遊狐を指差す。

 興奮しすぎてなのか、言葉が単語単語になっていて意味は通じにくいが、何となく言いたい事はわかる気がする。


 まず根本的な部分で、コイツは重度の魔法少女オタクなのだろう。

 取っている行動がセオリーを逸脱していないので、おそらく間違いないだろう。


 そんなコイツは、何かの偶然で変身アイテムを手に入れた。


 まぁそれはいいだろう。

 そういう展開で覚醒して魔法少女になる、って展開も無くはない。

 コイツもそれで満足していたのだろう。


 しかし、いきなり目の前に、王道ともいえる『マスコットキャラを引き連れた魔法少女』が現れたのだ。

 『自分だって魔法少女に変身できるのに、何でコイツにだけマスコットキャラが付いてんの?』って気分にもなるだろう。

 その結果出てきた言葉が「ズルい!」なのだろう。


 なるほど納得したわ。


 だったらソレを利用してやろう。


「オイ、そこの魔法少女。変身アイテムをどうやって手に入れたのかを白状すれば、この浮遊狐をオマエにあげてもい……」

「ここの川辺に落ちてたのを拾ったわ!」


 私がセリフ言い終わる前に自白すんなよ……

 少しは躊躇しろよ。魔法少女モノのヒロインって秘密は厳守するもんなんじゃないのか?

 そんなに欲しいのか?こんなUMAを?


「僕は……僕は物じゃないっ!!」


 取引のブツにされた浮遊狐は、涙目になって、この場から逃げるようにして飛んで行く。


「あ!ま、待って!私の狐ちゃん!!」


 そして、浮遊狐を追って飛んでいく新人魔法少女。

 さっそく自分の物認定してるし……まぁいらないからいいんだけどね。


「お母さん……私達はどうすんの?」


 勢いについていけずに、川辺に取り残される私達3人。


「追わなくていいのお姉ちゃん?」


「……帰って寝るか」


 ぶっちゃけ浮遊狐がどうなろうと知ったこっちゃない。


「まぁ……無事逃げきれたら勝手に帰ってくんだろ?いちおう帰巣本能はあるだろうし」


 UMAの取扱なんて、こんなもんで十分だろう。


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