第十一話 石の行方
生活環境が変わったからといっても、日常で染みついてしまった行動というのは、中々変えられないものである。
長年染みついてしまって、ふとした弾みで取ってしまう行動。
誰にも言わずに続けていたライフワーク的な何か。
その辺が顕著に出てしまうと、大好きな恋人との同棲生活も、途端に雲行きが怪しくなる、みたいな事を聞いた事があるが、なにぶん未経験なのではっきりとはわからない。
ただ、はっきりとわかっている事は、私にとってはコレがそうなのだという事である。
「裕美さん。今忙しいんで、後回しでいいッスか?」
何かあると、ノゾミちゃんちに、飯を食いつつ愚痴を言いに来る。
これこそが私の、日常で染みついてしまって、多少生活環境が変わっても取ってしまう行動なのだ。
にしても、ノゾミちゃんが店の手伝いしてるって事は、今日は本当に忙しいんだろうな。
待ちがいるわけではないが、常にテーブルが埋まっているような状態になっている。
「まぁ暇だから、後回しにされるのは別にいいんだけど……一つだけ聞いていいか?ノゾミちゃん、変身アイテムの石って持ってる?」
飯は後回しにされても、聞きたい事だけは真っ先に聞いておく。
仕事してるノゾミちゃんの邪魔してるだけなんじゃないか、って?
他人の状況など知るか!!何においても私優先だ!
「石?持ってねぇッスけど?」
やっぱそうだよな。やっぱノゾミちゃんも持ってないよな……
普通はホイホイと簡単に変身アイテムをなくすような…………ん?アレ?「持ってない?」
「って!?まさかお前が犯人かぁ!!?」
しれっと「え?普通でしょ?それが何か?」みたいな感じで言われて、思わずスルーしそうになったじゃねぇかよ!?
「犯人?何のッスか?裕美さん……大学行ってハメ外すのはいいッスけど、外しすぎてヤベェ薬に手を出すのはやめた方がいいッスよ。今ならまだ引き返せるッスよ……その薬はブッ飛びすぎッス」
いや……状況も説明せずに、いきなり犯人呼ばわりしたのは、ちょっとアレだったかもしれんけど、それだけで薬中扱いは酷くない?
ノゾミちゃん、一学年上がって毒舌のレベルも上がってね?
「ブッ飛んでねぇよ……まぁたしかに、説明省いていきなり犯人扱いしたのは悪かったかもしれんけど、ともかく何で石持ってねぇんだよ?どこに捨てたんだよ?」
「裕美さんが薬やりすぎてムショに入るかどうかは知らねッスけど、私が一度消滅して、裕美さんに蘇生させてもらった事あったじゃねッスか?記憶が無いからハッキリした事はわかんねぇッスけど……その時からもうねぇッスよ」
そういやそうだ……ノゾミちゃんを復活させた時、全裸のノゾミちゃんしか、あの場には再生されてなかったかもしれん。
……じゃあ変身用の石はどこ行った?
消滅した方のノゾミちゃんがどっかに隠してたとかか?それで、再生した方のノゾミちゃんは、数日分の記憶が無いから、隠し場所がわからない。ってな感じなのか?
でも、何のために隠した?
いや違うな。
消滅したノゾミちゃんは、魔法を使ったせいで消滅した。
つまりは、石を使って変身したんだから、隠したわけじゃない。
あ、なるほど!
私達魔法少女が変身している間、変身用アイテムはどこかに消えている。
んで、変身を解除すると、再び手元に戻ってくる。
昔、ヴィグルあたりから「変身アイテムを使用する事で、魔力の無い人間に、疑似的な魔力核を作る」みたいな事を聞いた気がするが、もしかして、変身用アイテムが私達が変身した後の、疑似魔力核になってたんじゃないのか?
でもそうなると、同じ石を使ってるのに、同一規模の魔力核にならないのは何でだ?
私みたいにブッ飛んだ魔力核になる理由がわからん。
まぁそういう、考えてもわからない事はどうでもいいかな?
レイあたりに聞いても、よくわからん理屈を説明されるだけだろうし。
昔、私を魔法少女に勧誘してきた浮遊狐が「魔力の才能云々~」とか言ってた気がするから、その辺は個人が持ってる資質で変化するのだろう……たぶん。
ってか、そんな感じで納得するのが一番いいような気がする。
ともかく、その理屈で考えれば、過去ノゾミちゃんは、変身アイテムを魔力核として身体に取り込んだ状態のまま消滅したから、変身アイテムの石も一緒に消滅したのかもしれない。
んで、再生したノゾミちゃんは、魔力核を身体の一部と認識されたまま再生され、変身した状態が通常形態になった、と。
一緒になって再生されたであろう変身アイテムは、魔力核としてノゾミちゃんの一部に取り込まれたみたいな感じなのかもしれない。
だから取り出せない……元の石としても形態に戻れずに、目に見える形ではこの世から無くなった事になってるってわけだな。
なるほどなるほど。何となく繋がったな。
「OK把握した。とりあえずノゾミちゃんの変身アイテムに関しては、問題解決したからもういいや」
「そういう、勝手に叫んで勝手に納得するの止めてもらっていいッスか?聞いてる側は、意味がわからなすぎて、すげぇモヤモヤするんスけど……」
そんなに気になるなら、さっき私が考えた持論を聞かせてやってもいいんだが、たぶん話が長くなる。
そして今、高塩飯店はノゾミちゃんの手伝いが必要なほどに忙しい。
つまりは、空気読める常識人として私は、ノゾミちゃんの邪魔をするわけにはいかないのだ。
それに何よりも……
「説明めんどい」
まさに、この一言につきるだろう。
「さて!問題も解決したところで、私は腹が減った。早く私にチャーハン・餃子セット持ってくるんだノゾミちゃん!」
「裕美さん……私が最初に言った言葉って覚えてるッスか?」
……忘れてましたが何か?




