第八話 王道展開
「で?いきなり現れた、アッチの頭イタそうな子は、裕美の知ってる子?」
状況確認をするようにクソガキ先輩から質問される。
「いや知らん。過去にボコった魔法少女にも、あんなヤツはいなかったと思う」
「って事は完全に頭おかしいだけの子って事ね……新しい魔法少女の後輩かと思ったのに残念ね」
魔法少女の後輩ができたところで、魔法少女同士の横の繋がりは無いから、絡みなんて無いに等しいのに、そんなに先輩面したいのかクソガキ先輩……
でもな、クソガキ先輩……
変身してないから魔法使えなくてわからないんだろうけど……
アイツ、何故か魔力あるんだわ。
しかも、そこそこ強い。
だからアレは、本物の魔法少女なんだわ……「頭おかしい」って部分は概ね同意だけどな。
そんなわけで、本日の夜に、浮遊狐を締め上げるという仕事ができてしまったのである。
今度はどんな理由で魔法少女増産しようとしてんだ?マジでああいうヤバイ奴を魔法少女にするのは止めてほしいんだけどな……
まぁ浮遊狐が単独で動くわけないから、バックにはレイが控えてるんだろうけど、アイツこっちの世界にいない可能性の方が高いからな。
っとに……何かしら悪だくみしねぇと死ぬ病気なんじゃねぇかアイツ?不治の病っぽいから、この前ちゃんとトドメ刺しといた方がよかったのか?
そして……たぶん幸もサーチ魔法を使ったのだろう。
相手の魔力を調べたついでに、サーチ範囲内にいた私の魔力にも気付いたのか、私の方をチラチラと見ている。
表情から「コレどうすりゃいいの?」みたいな感情があふれ出している。
本当は関わりたくないのだが、私は優しい上司でもある。
部下である幸に、適切な助言を与えてやろう。
『幸!適当に何とかしとけ!』
完璧な指示を念話で送っておく。
離れた位置にいる幸から「アドバイスが雑!?」という言葉が聞こえてくるが、そこは無視しておく。
「何かわからないけど、今がチャンス!!くらいなさい!ミラクルシューティングスターっ!!」
幸が頭抱えて叫んだのを、決定的な隙と見て、魔法少女ミラクルなんとかが動く。
持っているステッキのような物を振り、そこから大量の星のような形の物体を発生させ、ソレを幸へと向かって飛ばしていく。
「何ですかこのヒトデ!?防壁突破してくる!?地味に痛い!!そして気持ち悪い!」
「ヒトデじゃないわよ!星よ星!!シューティング『スター』って言ったでしょ!耳と目が腐ってるんじゃないの!?」
幸のつぶやきに反応して怒り出す魔法少女なんとか。
そんな怒るなよ、仕方ないだろ……幸って意外とアホなんだから。
「腐ってないです!そもそも何なんですかアナタは?私何もしてないのに、いきなり襲ってきて……打ち合わせの時間もあるんで、私そんなに暇じゃないんです!!そこどいてください!」
ワンテンポ遅れての幸の説得が入る。
でも、たぶんだけど、口で言って何とかなるくらいなら、最初からコイツこの場に現れてないんじゃね?
「わかってないわねアナタ!何かあってからじゃ遅いのよ!だから私は、悪の芽を最初から叩くようにしてるのよ!」
やっぱりな……言っても聞かないタイプだよコイツは。
「それは見た目差別というやつです!『魔物だから悪い事をするだろう』なんていうのは偏見以外のなにものでもないですよ!現実を見てください!魔物は皆、悪い事なんて一切やってません!!」
幸……御高説痛み入るんだが、オマエ、この町に引っ越して来た時、魔族にどんな偏見持ってたよ?
「ちょっと裕美!?あのコスプレ少女、魔法使ったわよ!?魔法少女じゃないんじゃなかったの!?」
何故か隣で混乱しはじめるクソガキ先輩。何を言ってるんだ?
「誰がそんな事言ったよ?『あんな魔法少女は知らない』とは言ったけど『魔法少女じゃない』とは言ってねぇぞ……ありゃ私が知らないだけの、新たな魔法少女なんだろ?」
「……魔法少女って今、何人いるの?」
私が知りたい。
もうこれ以上増えないと思ってたのに、ホント何で増えたんだよ?
「いい加減に打合せに行かせてください!!遅刻しちゃうじゃないですか!」
おっと……アッチはあっちで、まだ説得続けてたのか……無駄だろうに。
仕方がない。私が一肌脱いでやるか……
『幸。埒が明かねぇから、私がアイツに重力魔法かけてやる。ソレで足止めしてる間にオマエは打合せ場所に急げ』
一言念話で幸に語り掛け、すぐさまアタオカ魔法少女に重力魔法を放つ。
「ぐっ!!?……何!?身体が重い……」
おっ、潰れずに耐えてはいるな。
でも簡単には動けないだろう。
重力魔法が発動したのを見て、幸はすぐさま走り出す。
「待て!逃げるな!!……クッソ!何なのよこの魔法は!!使ってるのは誰!出て来なさいよ卑怯者!」
誰が出てくかバーカ!
アニメとかだったらここで、敵幹部的なヤツが「ふははは!貴様の実力はそんなものか?」みたいな強者感だして登場するんだろうけど、生憎私はそこまで目立ちたがりではない。
「え?もしかして、あの子の動き止めてるのって裕美?こんなに距離離れてるのに?変身もしてないのに、どんだけ魔法出力高いのよ!?」
だから何で隣にいるクソガキ先輩が驚いてんだよ?
私の魔法出力?知らねぇよ……コレがデフォだよ!慣れろ!
そうこうしている内に、幸の姿が見えなくなる。
どうやら上手く逃げられたみたいだな……
そんなわけで、重力魔法を解除する。
「え?もう解除しちゃうの?あの子、本物の魔法少女なんでしょ?サーチ魔法使われたら、あの羽の美人さんすぐに追いつかれちゃうんじゃないの!?」
だ・か・ら!何でいちいちオマエが反応してんだよクソガキ先輩?
「大丈夫だろ。あの魔法少女も、変身ヒロインものの王道を理解してるんだったら、その場から逃げた敵キャラを追撃したりはしないだろ」
「……それもそうね」
やっぱ王道展開をわかってるヤツは理解が早いな。
「くぅぅ~逃げられた……でも見てなさい!次に現れたら絶対に退治してやるんだからね!」
アッチはあっちで、見事な捨て台詞を吐いて、飛行魔法を使って帰っていく。
……うん。馬鹿しかいねぇな。




