プロローグ
おかしい……
この世界は絶対におかしい!
数年前に現れた魔物の集団……それは別にいい。
それと同時に世界を征服した魔王……それもかまわない。
たまに見かける、魔物と戦う魔法少女っぽい存在……これはダメ!これだけは許せない!!
おかしいでしょ!?
おあつらえ向きに現れて、世界を征服した魔物の集団がいて、それと戦う魔法少女ぉ~?
はぁ?おかしいでしょ?絶対に間違ってるでしょ!?
だって……
『魔法少女』なんてのが、現実に存在するんだったら……
「なんで私が選ばれてないのよぉぉぉ~~~~!!!!」
夕焼けの河原で、声を大にして叫ぶ。それはもう心の底から。
誰かに聞かれたら、頭がオカシイ子だと思われるとか、そんな事は一切気にしない。というか、一切気にならないくらいにまで限界がきている。
だってそうでしょ?
魔物がこの世界に現れて、もう何年経つと思ってるの?
4年よ!?もう4年!!
1シーズン4クールあったとしても、そろそろ私の番になってもいいんじゃないの!?
私はね、大好きなのよ、魔法少女とかそういうのが!
もうね『変身ヒロインもの』だってだけで、無条件で好きになれるくらいに、色々な作品を見たり読んだりしてきた。
たぶんだけど、世界中の誰よりも変身ヒロインものを愛していて、誰よりも理解しているのは私だと思う。
そんな私が、いまだにヒロインになれないなんて間違っている。
この世界は、絶対におかしいんだ!!
この世界の修正パッチは、いつダウンロードできるようになるの!?
「はぁ……」
自然とため息がもれる。
そりゃあそうだ。
だって私は、もう18歳。今年から大学にだって通っている。
もうね、魔法少女の適齢期ギリギリになっているのに、マスコットキャラからのスカウトが来ないのだ。ため息の1つや2つくらい自然とこぼれても仕方がない。
いや、わかってる!わかってるよ!『魔法少女に適齢期なんて存在しない』って事は!
それでも、年齢のいってる魔法少女……ロリババアとかも含めてだけど、そういう人達ってのは、長年魔法少女をやっていてその年齢になったってだけのもので、デビューからその年齢だったってのは、ほぼ存在しない。
つまりは『新人魔法少女』ってなると、私の年齢は本当にギリギリのラインにまできてしまっているのだ。
私が魔法少女になれないと言うのなら、それは世界の方が間違っている。
「早く私を魔法少女にしろぉぉ~~!!」
叫びと共に、落ちている石を拾い、全力で川へと投げる。
ヒョロヒョロと飛んで行った石は、不様な音を立てて水底へと沈んでいく。
「……腕が痛い」
運動が苦手……どころか、変身ヒロインもののアニメや漫画を見まくっているせいで、学校行く以外は基本引きこもりの私には、石を全力投入する事すら、まともにできないようだった。
「ほんと……泣きたい……」
魔法少女になる事も出来ずに、体力も無いし、頭もさほどよくない。おまけに友達もいない。
何もできない……何者にもなれない……
「私って……ほんと、何なんだろう……?」
情緒が不安的になっているのが自分でもよくわかる。
まぁ不安定になってるって自覚があるだけ、まだドン底ではないのかもしれない、とプラス思考で考えてみるも、やはり気持ちは落ちていく一方だ。
私はそのまま、川辺で座り込む。
石のごつごつした感覚が、お尻にあたって凄く痛い。
だけど、いちいち体勢を変える気力すら現状なくなっているので、そのまま座り続ける。
大丈夫、慣れればどうって事ない。
高校時代の便所飯だって、慣れてしまえば何も感じなくなったんだ。それに比べれば何てこと無い。
「ん?」
ふと視線を向けた先に、キラキラと光るビー玉サイズ?……よりかは少し大きいかな?ともかく、他の石とは違う、とても綺麗な石が目に入った。
私は引き寄せられるよに手を伸ばし、その石を拾い上げる。
「綺麗な石……」
いや、石なのかな?
もしかしたら宝石の原石とかなんじゃないの?
……いや、まぁ宝石も『石』なんだろうけど、その辺に無造作に転がっている石とは違うというか何というか……
「お前も、私と同じなのかもね……」
ちゃんとした人に、ちゃんとした形で見つけてもらえれば、価値を見いだせただろう石。
それなのに、誰にも発見されることなく、こんな私くらいしか来る事のない河原の片隅で埋もれていく運命の石。
……私と同じだ。
そう思うと、この石に凄く愛着がわいてくる。
誰よりも魔法少女の事を理解している私が、魔法少女に変身する事ができれば、きっと誰にも負けないくらい強いはずなのだ。
ただ、そんな私を、誰も見つけてくれないだけなんだ。
「私も……魔法少女に変身したいな……」
私は、そうつぶやきながら、そっと綺麗な石を握りしめた……




