第三十話 レイに制裁を
「ユリちゃん?……どうしたのユリちゃん!?ねぇ?ユリちゃん!!?」
糸が切れた人形のように突然倒れたユリに、すぐ近くにいた絵梨佳が真っ先に反応する。
ユリはピクリとも動かない……
「お前……今、ユリに何しやがった?」
何か魔法を使ったようには見えなかった。
というか、魔法を使ったのなら私が見逃すわけがない。
「べつに。僕が今、何かしたわけではない……」
「お姉ちゃん!!ユリちゃんが……!!ユリちゃんが息してないよ!?どうしよう!どうしたらいい!?」
至って冷静なレイと、突然の異常事態に焦っている絵梨佳。実に対照的な反応だ。
私はどちらかといえば絵梨佳寄りだろうか?
ったく!何が「何もしてない」だ!何もしてねぇのに、いきなり死人が出来上がるわけねぇだろうが!
「ちょっとどいてろ絵梨佳!」
2人のもとへと駆け寄り、すぐに蘇生魔法を使う。
しかし、蘇生魔法を受けたユリの状態は変わる事なく、呼吸は止まったままで目も見開いたままだった。
私はユリの瞳にそっと手をあて、目蓋を閉じさせる。
「……テメェの大好きな屁理屈を聞いてやる。どういう事か説明させてやるから、今すぐ喋れ」
喋りながらも、ゆっくりとレイの方へと近づき、そっと肩に手を置き魔力を体内に流し込んでおく。
「脅しか?僕がそんな……」
私の言葉に対して、レイは無駄な事を話し出したので、すぐさま私は指をパチンと鳴らし、レイの左手小指を吹き飛ばす。
「余計な事は喋るな。テメェはただ、私に問いに対して馬鹿みてぇに答え続けるだけでいいんだよ……わかったか?」
「ぐっ……!ふ、ふはは……たしかにこれは『魔王』だ。なんとも恐ろしいものだ。だが、わざわざ脅さずとも、隠すような事でもないので、いくらだも話してやるというのにな……やはり知能が低いと無駄な事が好きなのだな」
吹き飛ばした小指に回復魔法をかけながらレイがこたえる。
痛いのを我慢しているのだろう。冷や汗を垂らしている時点でカッコ悪い。言葉全てが強がっているようにしか聞こえない。
どうする?もう一本くらい指吹き飛ばすか?いや……吹き飛ばしたところでまた、やせ我慢台詞が発せられるだけだろうから、それこそ時間の無駄になる。
とりあえず話を進めるために、今はまだこのままでいよう。
「前にも言ったが、ソイツは貴様のクローンだ。今回は失敗して、貴様ほどの魔力を有する事ができなかったが……仮に成功したうえで、何かの手違いで制御不能になったらどうする?」
そりゃあもうどうにもできないな。『人間災害』が2人になるだけだ。
最悪、本体である私に討伐依頼を出すしかなくなるだろうし、ソレを私が受ける保障はない。むしろ断る確率の方が高いだろうな……
「だからこそ期限を設定した。一定時間経過したら、その瞬間全ての身体機能が停止するようにな……人が天寿を全うするのと同じだ。寿命を迎えた臓器は、魔法で蘇生したところで、再び即寿命を迎えるだけだ」
なるほど、私の蘇生魔法が、老衰には効果無い事を理解した上での対策って事か。
何かあった時、私が蘇生魔法を使う事も織り込み済みだってのは、行動読まれてるみたいでいい気分じゃねぇな。
「仮に全てが上手くいき、制御可能な人間災害のクローンが創れていた場合でも、どう作成したかのデータはある。次は寿命を設けずに量産すればいい……今回は失敗したがな。ただ、その失敗も無駄にするつもりはなかった。色々と泳がせ成功につながるデータを収集するつもりだったのだがな……」
それを私に邪魔された、ってわけか。
なるほど、今日の手段を選ばない刺客ラッシュは、制限時間が迫ってたから、それまでに少しは有用なデータが欲しかった、って感じなわけね。
「ユリちゃんは……ユリちゃんは、もう生き返らないの?お姉ちゃんの魔法でも?……ユリちゃん、まだ……こんなに小さいんだよ?」
私と一緒に話を聞いていた絵梨佳が泣きながら問う。
改めてユリを、冷静に見てわかる。
コレはどうやっても、無理だ。
臓器が寿命を迎えてるだけじゃなくて、体を巡る魔力のラインも完全に遮断してやがる。これじゃあ仮に蘇生に成功しても、点滴みたいに常時魔力を外部から注入し続けないと、再び死ぬ。
……ホントにクソだなコイツ。念には念を入れすぎだろ。
「残念だがエリカ。ソレはもう二度と動く事はない」
その言葉を聞いて泣き崩れる絵梨佳。
事実だってのはわかるけど、もう少し言い方ってもんがあるだろうがよ……完全にユリを物扱いしやがって……コイツには人の心ってもんがねぇのかよ?
「ともかく、ここに死体を放置するわけにもいかんだろう?エリカのおかげで、魔力の上昇には凄まじい負の感情が関連している、という事がわかった礼として、ソレの処分はこちらでしておこう」
はい!限界です!!
指をパチンと鳴らし、レイの左腕を吹き飛ばす。
そして、まだレイの体内に残っている私の魔力で、死なないギリギリのラインまで回復をさせつつ、それ以上は回復できないように、左腕の切断面を反魔法で覆っておく。
「がああぁぁぁぁ!!貴様……ぐぅぅ」
痛みで叫びだすレイ。
回復魔法が弾かれてるから、さぞ痛いだろうな……だがコイツは殺さない。あっさり殺してやるほど私は優しくない。
回復魔法が効かない、その傷の痛みで数日苦しめ。傷が治ってきたら、私が再び同程度の傷を作ってやる。次は右手がいいか?
コイツは殺さない。常に死なないギリギリの致命傷を与え続けてやる。
自死も許さない。蘇生させて再び致命傷を与えてやる。
「ユリはテメェが創ったんだったな?だったら特別に埋葬する権利をくれてやる。丁重に扱えよ……その左腕は、ユリの見受け金の代わりにしといてやる。格安だろ?左腕だけで済んだ事に感謝しろよ?」
「ぐっ!……人間……災害…………貴様……はな……しを……」
何がブツブツ言ってるレイの隣に、そっとユリを運び、泣いている絵梨佳をつれてその場を去る。
何とも後味が悪い。
帰り道を無言で歩きながらそう思う。
そして……
ミキちゃんとクソガキ先輩を回収するのを忘れていた事を、ふと思い出す。
どうしようか?今から戻るのカッコ悪いよな?
とりあえず、少し時間を置いてから回収しておくかな?




