第二十七話 絵梨佳覚醒?
近づいて来る私に対して、絵梨佳はヤケクソ気味に影での攻撃を繰り出してくる。
まぁそんなもんは、反魔法まとった足で軽く蹴り飛ばせば、それで終わりだ。
「ズルい……ズルい……ズルい……ズルい……ズルい……ズルい……ズルい……ズルい……」
そりゃあ反魔法は、ちょっとズルいかもしれんけど、そんなねちっこくブツブツと言わなくてもよくね?
「どうした絵梨佳?攻撃はソレで終わりか?ブツブツと文句言ってるだけなら、次はコッチからいくぞ」
私がそう言うと同時に、絵梨佳は念仏をやめる。
そして、ノールックで私の方へと突進してくる。
さすが魔力高いだけあってか、物凄い突進速度だ……ひょっとして私の不意を突こうとしてるのか?
甘ぇよ絵梨佳。
確かに、目にもとまらぬほど素早い動きだ。幸や美咲あたりだったら咄嗟には反応できなかっただろう。
……でもな、忘れてんのか?お前が相手してるのは誰なのかって事?
「おそろしく速い動き……私でなきゃ見逃しちゃ……」
この台詞をリアルで使うチャンス!とばかりにつぶやき、言い終わりに絵梨佳の攻撃をかわしつつ手刀でも叩き込んでやろうと思ったものの、セリフを完全に言い終わる前に、絵梨佳の標的が私でない事に気が付く。
私に向かって来ているように見えていたが、よく見ると若干角度がズレている。
その証拠に、絵梨佳は私を素通りして走り去っていく。
「って狙いはソッチかよ絵梨佳!?」
絵梨佳が走っていく直線状にいるのはミキちゃんだ。
絵梨佳のヤツ、遠距離から魔法放っても、私に無効化されるってわかったから、直接攻撃に出やがったな。
クソ!私じゃないならユリを狙うと思ってたのに、何でミキちゃん狙うんだよ!?
いや……絵梨佳はわかってんだ。
ユリを狙おうとミキちゃんを狙おうと、私が絶対に守ろうとするって事を。
さすがは姉妹だ。私の性格よくわかってんじゃねぇかよクソ!
やっぱさっきのセリフは死亡フラグに繋がるセリフだったんだ……言わなきゃよかった。
ともかく、すぐに動かないとミキちゃんがピンチだ。
今から絵梨佳を追っても、距離が短すぎる。
絵梨佳の速度よりも、私の方が速いだろうけど、追いつく前にミキちゃんが攻撃される。良くても追いついたと同時にミキちゃんが攻撃される感じだろうか?とにかく間に合わない。
転移魔法……も駄目だな。アレは若干だけど、使うのに集中力がいる。コンマ数秒単位でも惜しい状況で使うもんじゃない。っていうか、こんな超近距離だったら、転移魔法使うより全力で走った方が速い。
ってわけで結論から言うと、この場で魔法攻撃かまして絵梨佳を止めるしかなさそうだな。
お仕置きの意味を込めてチビチビと、じらしながら攻めたかったんだけど、今はそんな事言ってる場合じゃねぇな。
私は突風を起こす魔法を絵梨佳へと放つ。
さっき美咲に使った魔法と同じやつだけど、今は変身してる分、威力はかなり増している。
これでミキちゃんから離れてくれればいいし、あわよくば吹っ飛んでそのまま気を失うくれたりすれば楽でいいんだけど……
え?突風起こしたら、近くにいるミキちゃんも巻き込まれるんじゃないか、って?
その辺は問題ない。絵梨佳だけを狙った、超局地的な突風だ。ミキちゃんに被害が出る事は無い。
その証拠に、現に吹っ飛ばされたのは絵梨佳だけでミキちゃんは無事である。
……にしても、美咲の時よりも威力が上がっているのに、絵梨佳は数十メートル転がるように吹っ飛んだだけとか、思ってたより……いや、ある程度は予想してたけど、予想よりも絵梨佳って強いんじゃね?
って!?どさくさに紛れて、絵梨佳のやつ転がりながらユリに向かって攻撃魔法放ってやがる!?
すぐさま魔法を吸引して無力化する。
まったくもって油断も隙もねぇなオイ。
「ミキちゃんごめんね。ちょっと戦いに集中したいから、ユリをつれて校舎にでも避難しててもらってもいいかな?」
このまま足手まとい2人組を残しておくと、絵梨佳のランダム攻撃が非常に鬱陶しくなる。
変身前と違って今なら、逃げていく2人を攻撃されても対処は可能なので、この場に2人を残しておくメリットは皆無だ。
「み……みみ……みみみみみ……」
ミキちゃんから「わかった!」って返答を聞きたかったのに、何故か聞こえて来たのはミキちゃんの奇声?鳴き声?だった。
どうしたんだミキちゃん?ついに狂ったか?
「い、今……『ミキちゃん』って!?ま、魔王様が私の名前を……魔王様が!魔王様が!?」
あ、しまった……うっかり、いつものクセで名前呼んじゃってたよ。
そういや『魔王』としては、ミキちゃんから自己紹介された事なかったよな?
マズったな。『対人用での魔王』としての口調と声色には気を付けてたんだけど、変なとこでボロが出たな。なんとか誤魔化さないと……
「あ、ゴメンね。裕美がそう呼んでたからつい……嫌だったかな?」
「推しが!推しが!!私の存在を認識してくれて名前を!?」
あ、ダメだコレ。全然聞いてねぇや。
「ナニコレ!?尊い!!ヤバイ!魔王様が今、私の事を『ミキちゃん』って!『ミキちゃん』って!!魔王様が…………!!!」
それだけ叫ぶと、ミキちゃんはそのまま鼻血を垂らして気を失う。
思考回路がショートしたか?
よく、アイドルのライブとかで、目の前で推しを見て気を失う、とかいうのは聞いた事があるけど、マジもんを目の当たりにするとは思わなった。
「……やめてよ……………皆に優しくするのはやめてよ……お姉ちゃんは、私だけに優しいお姉ちゃんでいてよ」
吹っ飛んで倒れていた絵梨佳から、絞り出すような声が届く。
そんなにダメージはなかっただろ?何でそんな苦しそうな声で喋ってんだよ絵梨佳?
っていうか、さっきのを見て、どうして『優しくする』って単語が出てきた?目と耳に変なフィルターかましてんじゃねぇか?
「私の事は魔法で吹っ飛ばしたのに……何でその子には、あんなに優しい口調で話しかけるの?」
いや……それは、魔王としての演技というか何と言うか……
「私はこんなにお姉ちゃんの事が好きなのに……何で?何でお姉ちゃんは私だけのものになってくれないの?」
おいおい、なんか滅茶苦茶な事言い出してないか?
「他の子に優しくするのはやめてよ!私だけを見てよ!私だけのものになってよ!おねぇちゃーん!!」
絵梨佳がそう叫ぶと同時だった。
今までとは比べものにならない程の魔力が、絵梨佳の身体からあふれ出す。
そして次の瞬間、絵梨佳の格好が変化する。
魔女っぽい格好だったのが、魔法少女寄りの衣装に……むしろ私の衣装に近い感じの格好へと変わる。
……って!コレ、フォームチェンジってやつじゃね!?
後半強くなっていく敵キャラに対抗するためのパワーアップイベント的な!?
マジかよオイ!?
そのイベント私もやりたかったんだけど!!
羨ましい!!絵梨佳のヤツ、超羨ましいんだけど!!?
いや、いったん落ち着け私。
少し冷静になって状況を把握しよう。
絵梨佳の魔力……
変身してる今の私の魔力に近いくらいまで上昇してね?
とりあえず、何が起きてこうなったのか、っていう原因はいったん保留しておこう。
コレって……もしかして、変身してるからって余裕ぶってる場合じゃなくなってね?




