第十八話 緊張の魔王
変身した状態で渋谷駅前に降り立つ。
本当はスタジオまで直で行きたかったのだが、ヴィグルとの待ち合わせ場所がここだったせいで、変に悪目立ちしてしまっている。
一応私が降り立った地点では十人弱の魔族がSPみたいな感じで用意されてはいたんだけど……
逆に目立ちすぎてすげぇ嫌なんだけど……
ともかく、魔族数人に囲まれながら、半歩後ろにヴィグルを引き連れながら仰々しく歩いて行く。
「急だったため出演者は司会者と魔王様、それとゲストが3名程だそうです。こちらから提示した条件は生放送である事と、魔王様には台本無しである事の二点です」
「台本?んなもんあったとしても、覚えられる自信ないぞ」
「テレビである以上、ある程度流れを決めたシナリオが大なり小なりありますからね……まぁそれらは魔王様は無視していただいて結構です。例えカンペが出ても従う必要はないです。それが条件ですからね」
スタジオに向かいながらヴィグルからの説明を受ける。
「逆に相手が指定してきた条件は、スタッフ一同の命の保証、機材・建物に対しての破壊行為禁止といった二点です」
条件がその二つって……私を何だと思ってるんだよ?
「その他には、ギャラの値引き交渉等がありましたが、その辺の説明は割愛させていただきます」
割愛すんなよ!?それ私の小遣いになるんじゃないの?
「魔王様~!コッチ向いて~!」
ヴィグルに文句を言おうとした瞬間、SPの隙間から聞き覚えのある声がしたため、そちらに目線を向ける。
「げっ!!?」
思わず変な声が出てしまった。
学校内で見たことある奴等数人が視界に入ってきていた。
とりあえず、そいつら目掛けて軽く手を振っておく。
ひとまずはコレで満足してもらえるだろうか?
「きゃあああぁ~~!今魔王様が私見てくれた~!!」
あ、これで満足なんだ……
サインがどうこう言ってたから、強引に突っ込んでくるかと思ってたわ。
「魔王様?聞いてますか?魔王様!」
おっといかん。
普段は『裕美様』呼びだから、ヴィグルに『魔王様』とか呼ばれても、一瞬自分の事じゃないように思えてしまう。
「悪い悪い。ちゃんと聞いてるから続きどうぞ」
ヴィグルは一言「まったく……」と言うと話を続ける。
「重要な事なのでよく覚えておいてくださいね。お互いに2つ条件を出しておりますが、どちらか一方がその約束事を破った場合は、この条件は反故になっても文句は言えなくなります」
どういうこっちゃ?
「つまるところ、魔王様が気分を害して誰かに当たり散らしたくなった場合は、相手に条件を破らせない限りは虐殺はしないでください、という事です。ギャラが無くなってしまいます」
いや、だから、お前まで私を何だと思ってるんだよ!?
「さて、そうこう言ってるうちにスタジオ前に着きましたね。私が同行できるのはここまでです」
ちょっと待ってくれよ。せめてスタジオ入って出演者への挨拶周りくらいまではいてほしい……
「あ、伝えてませんでしが、番組自体は18時30分から始まっていますのであしからず」
そう言ってワンセグ付きのタブレットを目の前にかざされる。
そこにはテロップで『遂にスタジオに魔王登場』『今まで神秘のベールに包まれていた魔王の肉声が!?』などと書かれており、ヴィグルの持つタブレットを見ながら固まっている、変身後の私の姿が映っていた。
「マジかよ……」
変な汗が出てきた。
「いいですか魔王様。ここで取る魔王様の行動一つで魔王軍全体の士気にも関わってきますので、是非とも威厳ある行動をとってください。でも、だからと言って、むやみやたらに破壊行為を行ってはいけませんからね」
すまんヴィグル。何か色々忠告してくれてるんだろうけど、テンパりすぎてほとんど頭に入ってきてない……
そしてふとした拍子に、再びタブレットの映像が目に飛び込んでくる。
その映像に私は映っておらずに、一旦スタジオの映像に切り替わっていた。
「~~~~っ!!?」
そこに映っていたのは、例の自称魔王軍専門家の池野とかいうオッサン。
『魔王様が気分を害して誰かに当たり散らしたくなった場合は……』
先程ヴィグルが言ったのはコレを心配してたって事か?
しかし、まぁ若干だが冷静さを取り戻せたかもしれない……
私はスタッフにピンマイクを付けられつつ、収録スタジオへと案内されながら歩いていく。
とりあえずなんだ……
何かあったら建物ごと全部吹き飛ばせば何とかなる……か?




