第二十五話 大苦戦?
何事においても、上を目指していく事は良い事だと思う。
スポーツとかが良い例だ。
努力し、実力を高め、よりレベルの高い環境へと身を置く。
野球で言うなら、草野球・高校野球からプロ、そして大リーグへとより高みへと昇っていく事を美徳とする流れがある。
まぁそれはいい。
そうやって上を目指すのは当人の自由であるし、鑑賞してる側からしても、それを見るのも華がある。
でもさぁ……逆に、より低みへと降りていくってのも、生き方としてはいいんじゃない?
高校生が小学生に混じって、実力差を見せつけてドヤっても良くない?
当人がそれで満足なんだったら。
そして私は、圧倒的に後者がいい!
別に自分を高めようとかって気はサラサラ無いし、楽に何とかなるんだったら、間違いなくそちらを選ぶだろう。
つまりは何が言いたいかというと……
私は楽に勝てる戦いしかしたくないのだ!
だって本気出したら疲れるし。疲れるのヤダし。なによりも面倒臭いし!
そんなわけで、この現状は私の望むところではないのだ。
今までは、変身しなくても大抵の事は何とかなったし、何かあっても変身すればどうとでもなった。
そう!変身できないシチュエーションなんて、考えてすらいなかった。
だって、さっきも言った通り、変身しなくても大抵の事は何とかなってきたんだから……
変身前の私の魔力よりも強いヤツなんて、本当に数える程度しかいない。しかも片手で足りるような人数だ。
まさかその内の一人に、変身できない状況で襲われるなんて、夢にも思っていなかった。
っていうか、絵梨佳が私を襲うなんて事、微塵も考えていなかった。
はぁ~……洗脳かぁ……まったく予想すらしてなかったよ。
「あははぁ~お姉ちゃんの防御硬いねぇ!無駄な抵抗はやめて、早く私だけのものになってよぉ!」
もう完全に防戦一方だ。
まぁ美咲がよく使う、魔力の矢を放ったりして反撃はしてみたんだけど……
「その魔法、前に美咲も使ってたわよね?流行ってるの?」
とかミキちゃんに言われて若干使うのを躊躇しはじめている状態である。
美咲のよく使うこの攻撃魔法って、貫通力は高いから、魔力量では格上の絵梨佳の防壁を、突破できるかと思って使ってたんだけど……
結果としては、完璧に防がれたうえに、ミキちゃんによりやる気まで削がれる結果となったのである。
変身した後だったら、全ての魔法が相手にとって致死量になるから、特にこだわりは無いんだけど、変身前の私は、どっちかといえばポチみたいな接近戦タイプなのだ。
何事も直接ぶん殴るのが一番効果的だと思っている。
なので、絵梨佳に対して接近戦を試みたいのだが……絵梨佳のヤツ、私だけを標的にしているのならいいんだけど、何回かに一回はユリを狙った攻撃を仕掛けてきているのだ。
そんなわけで、ユリやミキちゃんのそばを離れられないでいるのだ。
「あ~!もう!お姉ちゃんの防壁鬱陶しすぎ!!」
攻撃を防ぎ続けている私を見て、絵梨佳が地団駄を踏みながら怒り出す。
普段こんなに感情出してたか絵梨佳?
もしかして、私の前だと大人しかっただけで、私が見てないところだとこんな感じなんだろうか?
まぁコッチの絵梨佳の方が、年相応な感じがするから、たぶんだけど、コレが素なんだろう。
そんな事を考えた一瞬だった。
突然、絵梨佳は地団駄を踏むのを止めたかと思うと、ニヤッとした笑みを浮かべる。
その途端、地面に私の足が沈みだす。
「んなっ!!?」
思わず変な声が出る。
よく見ると、絵梨佳の影が私の足元へと伸びていて、その影に私の足がジワジワと沈んでいっているのだ。
「あはははは!やっぱりコレなら防壁が強固でも関係ないんだね!防壁ごと私の影に取り込んじゃえばいいんだ!コレにお姉ちゃんを取り込んじゃえば、私はお姉ちゃんと一つになれるもんね!!」
マジかよ!?影に喰われる?冗談じぇねぇ!
必死に影から抜け出そうとするが、泥沼にハマったみたいに上手く足が動かせない。
「クソ……しゃあないな」
意を決して、魔力を思いっきり込めた拳で、地面をえぐり取るつもりでぶん殴る。
私が立っていた部分を吹っ飛ばしてクレーターを作る事で、何とか絵梨佳の影から脱出する。
ただ、良い感じに私の足もボロボロになる。
ったく……自分の攻撃でダメージ受けるとか、何やってんだよ私!
すぐさま回復魔法をかけ、態勢を整える。
「あ~!もう少しだったのに!何でそこまでして逃げるのお姉ちゃん!私の事嫌いなの!?」
「いや、嫌いとかそういう問題じゃねぇよ……喜んで泥沼に沈む馬鹿がどこにいんだよ?」
「あ、でもコノ魔法結構便利かもしれない!」
聞いてねぇな人の話。
って呑気にしてる場合じゃねぇな。
絵梨佳のヤツ、また影を伸ばして、今度はユリを狙ってやがる。
ユリもいちおう逃げ回ってはいるが、しっかりと絵梨佳の影に捕捉されてしまっている。
「あ~!もう面倒臭ぇ!!」
捕まっているユリの手を掴んで、影から引っ張り出す。
「もぉ~!邪魔しないでよお姉ちゃん!」
そんな事を言いながら、今度は再び影を私の方へと伸ばしてくる。
ある意味、防壁を無効化する魔法とか厄介すぎるだろオイ!
「あ!おいユリ!今度はソッチにも行ったぞ!気を付けろ!」
絵梨佳は、影の標的を私にしたりユリにしたりと、ちょこちょこ入れ替えて攻めてくる。
もうホント、マジで厄介なんだけど!?
「あははは!お姉ちゃん!もっとちゃんと逃げないと捕まえちゃうよ!」
クッソ!このヤンデレサディストめ!後で見てろよ絵梨佳!
「あ、それとねお姉ちゃん……」
何なんだよさっきから、無駄に話しかけてきやがって!こちとらいちいち相手してる余裕なんてないっつうの!!
「影の方に意識集中しすぎじゃないかな?」
……あ!?
「しまっ……!!」
次の瞬間、凄まじい衝撃を体に受けて吹っ飛ばされる。
私が吹っ飛んだ先にあるのは学校の校舎。
おもいっきり壁を壊して突っ込む私。
衝撃で、その一部分が崩れ落ちる校舎。
そして、崩落に巻き込まれ、瓦礫に生き埋めとなる私。
しくじった……絵梨佳の影に集中しすぎて、防壁が疎かになった状態で直接の魔法攻撃を受けてしまった。
致命傷になるようなダメージではないものの、かなり痛かった。
にしても、崩落のダメージとかは自動防壁でも何とかなるレベルだから、私は問題ないとして、校舎内にいたであろう在校生や教職員は大丈夫だっただろうか?
私が突っ込んだのは1階の空き教室だから、そこは問題ないとして、その上の階層は……たしか2・3階は資材置き場?4階は音楽準備室あたりだったかな?
この時間は、本来だったら私達のクラスが音楽の授業を受けてた時間のハズ。
って事は、他のクラスが音楽室でかぶる事は無いだろうし、私達3年は既に自由登校期間。
つまり、崩れちゃった部分に誰かいた可能性は極めて低いだろう!たぶん!!
っていうか、さっきから魔法合戦バチバチやってる事は、学校側も気付いてるだろうから、どっかに避難とかしてるだろう……ってかしててくれ!でなきゃ、うっかり誰か巻き込んでたりしたら、救助とか最悪、蘇生とかすごく面倒臭い。
まぁともかく、早いとこ瓦礫を何とかして生き埋め状態を脱出しないと、ユリがヤバイ。
ユリも多少だけど魔力は持ってるから、少しくらいなら無駄な抵抗はしてくれるとは思うけど……
なにぶん、生き埋めになってる状態じゃ、真っ暗で外の様子が全然わからな……
待てよ?
私から外の様子が見えない、って事は……
外からも私の様子が見えてない、って事だよな?
つまりは今、ミキちゃんからは私の姿見えないんじゃない?
もしかして……チャンス?




