第二十三話 助っ人は唐突に
さて、ここからどうするか?
変身前の私は、ゲームとかでいう『MP自動回復』とかのスキル持ってるから、それを利用して、攻撃してきてる2人の魔力切れるのを待つか?
でもなぁ……アイツ等「ユリさえ倒せればいい」程度の出力で魔法撃ってきてるから、魔力切れ起こすまでだいぶ時間かかるだろうな。
正直、そんな長時間こんな場所に拘束されたくない。
別にこの後予定が詰まってる、とかそういう事は全然ない。
ただ単に、コイツ等2人に私の貴重な時間を長々と使いたくないってだけなんだけどね。
とはいえ、このままの状態じゃ埒が明かない。
多少……いや、かなり危険を伴うけど強行突破するか?
「うきゃっ!?」
突然、クソガキ先輩が猿みたいな声を上げたかと思うと、前方からの攻撃が止む。
前方の防壁を解いて、そちらに視線を向けてみると、クソガキ先輩が前のめりに倒れていた。
何だ?何が起こった?
「裕美様!何ですかコレ?どういう状況なんですか!?」
クソガキ先輩が倒れた後ろから、幸が現れて、コチラに走り寄って来る。
「美咲さんも絵梨佳さんも出社して来ないんで、何かあったのかと思って探しに出たら、離れていてもわかるほどの魔法合戦が行われてるんで、急いで来てみたら、何でその中心に裕美様がいるんですか!?」
経緯説明お疲れ……まぁ魔力感知できる人間からしたら、何事かと思うよね。
「あ~……絵梨佳は私達を監視してたから遅刻しただけだと思うぞ。で、さっきから私達の後方から攻撃魔法ぶっ放してきてるのが美咲だ。あ、それと……今まひるちゃんぶっ飛ばしたの幸か?」
「あ、はい。裕美様を攻撃してるのが見えたんで……それと、通るのに邪魔な位置にいたのでつい……」
ああ……クソガキ先輩、校門入ってすぐの所を陣取ってたもんな……そりゃそんな所にいたら邪魔だよな。
「それで?何で美咲さんと、その……まひるさん?でしたっけ?その2人に攻撃されてるんですか?今度はどんな因縁吹っ掛けたんですか?いい加減、こういった事をゲームや遊び感覚でやられると、私達が苦労するって理解してください!」
今回、私何も悪い事してないのに怒られてるし!?
むしろ、足手まとい2人を見捨てずに守ってたんだよ!今回ばっかりは褒められる事してるよね私!?
「私さぁ……普段の行いって、凄い大事だと思うんだ、お母さん……」
私の心情を察してか、私の肩をポンポンと叩きながら語り掛けてくるユリ。
とりあえず、今のこの状況になった元凶にだけは言われたくないんだが?
「まぁともかく、現状を簡単に説明すると、美咲とまひるちゃんはレイの野郎の暗示にかかってて、ユリを殺そうとしてる。んでミキちゃんは運悪く巻き込まれた。そして私はそんな二人を守ってるせいで防戦一方だった。以上!」
現状を理解していない幸に、ざっくりと経緯を説明する。
「……どうしてそんな事になってるんですか?」
だよね!
こんな雑な説明で完璧に理解しろって方が酷だよね!
でもそこは、何となくでも状況を察してくれ幸。もう「そういうもんなんだな」程度に脳死で納得してくれ。
「それに裕美様でしたら、こんな状況なんて、へみたいなもんじゃないですか?防戦一方とか舐めプしてないで、とっとと変し……」
そこまで喋り、そこで視界にミキちゃんを収めたようで、途中で言葉をきる。
「……なるほど、若干ピンチになっていた事は、何となく把握しました」
察しが良くて助かる。
「理解してくれたところで、どっちかの相手を頼む。さすがにユリとミキちゃんを守りながら2人を同時に相手するのはしんどい」
そう幸に言った瞬間だった。
後方からの美咲の攻撃が私の防壁を破る。
咄嗟にユリとミキちゃんを軽く蹴って、その場で転ばせる。
美咲の魔法は、紙一重で2人に当たらなかったものの、転倒させなければ、確実に直撃コースだった。
「だ、大丈夫ですか!?」
すぐに幸が倒れた2人に駆け寄り、転んで擦りむいた傷に回復魔法を使う。
くっそ!美咲のヤツ、一定の威力で攻撃してきて、コチラが油断したであろうタイミングで、ワンランク威力を上げた攻撃をしてきやがった。
普段は馬鹿丸出しなくせに、敵になった瞬間に、私を出し抜くために姑息な手を使ってきやがって。
……なんかすげぇムカつく。
「今みたいな攻撃はちょっとばっかし鬱陶しいな……幸、まずは後方の馬鹿を黙らせてこい。無力化するだけでかまわねぇけど、最悪殺してもいい」
「は……はい!」
私が機嫌悪い時の声色を理解しているのだろう。
若干ビビった感じの返事をして、凄い勢いで私の命令を実行するために動く。
そして、幸が飛び出して約1分。後方からの美咲の攻撃が止み、かわりに魔力同士が激しくぶつかり合うような特有の音が遠くから響いてくるよになる。
うん、流石は私の眷属だ幸。実に優秀だ。とりあえず、命令し忘れたけど、戦闘による器物破損は程々にしておけよ。
さて……それじゃあ私は、残ったもう一匹の方を始末……じゃない!無力化させるか。
「いたたぁ……仲間が助けに来るなんて聞いてないわよ……」
ブツブツと文句を言いながら、幸に攻撃されたのであろう後頭部をさすりながら起き上がるクソガキ先輩。
悪いが、相手が一人になったのなら、ユリとミキちゃんを守りながらでも負ける気はしない。
「ちゃっかり美咲と共闘してたヤツが、私の助っ人に対してとやかく言う資格ねぇっての……」
そう言いながら、クソガキ先輩の方へと一歩を踏み出した時だった。
別の角度からユリを狙う強大な魔力を感じ、咄嗟に回れ右して、ユリに放たれた魔法攻撃を身を挺して防ぐ。
自動防壁に加え、自前で障壁を展開し、さらに腕をクロスして衝撃に備えたってのに、ガードした腕が微妙に痺れた。
くっそみたいに嫌な予感がする。
案の定、攻撃が飛んで来た方へと視線を向けると、そこには、どっから見ても『魔女』って感じの衣装をまとった赤髪赤目の少女が立っていた。
一難去ってまた一難……
レイのクソ野郎が!!よりにもよって絵梨佳にまで手を出しやがったな!!
「……お姉ちゃんどいて。ユリちゃん殺せない」




