第十九話 明日の予定
「え?お姉ちゃんのクローン?……ユリちゃんが?」
自宅にて、さっそく事の真相を絵梨佳に話した結果の第一声がコレである。
完全に『何言ってんだコイツ?』って感じの表情になっている。
まぁそれもわかるよ。
普通に生きてきて、いきなり「この子はクローン人間です」とか言われたら、たぶん私も同じ表情をしただろう。
「ハハ……やっぱり、ちょっと気持ち悪いよね?」
自嘲気味に笑いながらユリが言葉を続ける。
「え?そんな事はないよ。ただ、クローンって言われてびっくりしてる……っていうか、現実感が無い出来事すぎて、あんまり実感がわかない、っていうのかな?」
わかるぞ妹よ。
今まで普通に接してきた人間がクローンとか言っても、今までの扱い方、というか接し方?対応?とか、その辺が特に何が変わるわけでもない。
たぶん、気にしているのは、そのクローン当人くらいだろう。
それと妹よ。
変身して魔法使ったりするのは『現実感が無い出来事』の部類には入らないのか?むしろ、普通に生活してきたのなら、ソッチの方が現実感無いんじゃないか?
まぁともかくだ。つまるところクローンに関しては……普段の生活で、変身したり魔法合戦したりしてる私達からしてみたら、どっちも現実感が無い出来事だから、今更感が先行して、そんなに気にするような事じゃない、って事だ。
「でもお姉ちゃんのクローンかぁ……つまりユリちゃんが、このまま成長していったら、お姉ちゃんと同じ容姿・背格好になる、って事だよね?」
「……たぶん」
普通に考えればそうだよな。環境の違いとかで変化があるのか、とかまでは詳しくは知らんけど。
「って事は、私は合法的に、お姉ちゃん2人を囲えるって事だよね?」
オゥ……マイシスタ―。言ってる意味がよくわからないよ。
囲えるって何だ?お前は私に何をさせる気だ?
あと、非合法なパターンも存在するのか?
その辺、詳しく聞いておきたいところではあるのだけれど、とりあえず今の話題はそんなくだらない事ではない。
「まぁ絵梨佳が何をしたいのかは置いといて……とりあえず、ユリの正体が『未来の私の娘』じゃなくて『私のクローン』って事がわかったけど、現状に変化は無い。今まで通りユリを護衛しつつ、今後どうするかを決めていく」
よくわからない妄想をしている絵梨佳は軽く無視しつつ、これからの方針を確認していく。
「ユリを襲っていた魔法少女達の黒幕がレイって事もわかったから、そのつもりで警戒するようにする。たぶんアイツ、黒幕だってバレててもユリを襲うのやめないだろうしな」
これは絶対だろう。
マッドサイエンティスト気質なアイツが、中途半端な形で実験を終わらせるなんてない。
私と同等の魔力を発現させるために、ユリが死んでも構わない、って感じで色々ちょっかいかけてくるだろう。
そりゃあそうだよな。
私と同じ魔力を持った人間を簡単に作り出せて、無垢で何もわかってない状態のソイツに好きに命令できるとなれば、とんでもなく凶悪な兵器になる。
レイの世界の軍事力強化って面だけでみても、簡単にあきらめる道理が無い。
「そんなわけで絵梨佳。明日からはユリのために、魔王軍の警戒レベル上げて護衛するように、ヴィグルに伝えて……」
「あ!その事なんだけど……」
最後にビシッと決めて、話を終わりにしようとしていたのに、最後の最後で絵梨佳によって中断させられる。
一体なんだよ!?締めさせてくれよ!空気読んでくれ絵梨佳!?
「明日は管理職の人達が外出予定らしくて、そのタイミングで魔王軍本部ビルの設備メンテナンスするらしくて……ユリちゃんは預かれないから、お姉ちゃんよろしく、ってヴィグルさんが……」
おい!?何だよソレ!?『魔王軍』だろ?仮にも『魔王軍』なんだよな!?なんで、そんな一般企業みたいな感じになってんだよ!?
いや、現代に生きる魔王軍なんて、所詮はそんなもんかもしれねぇけどさぁ……イメージ大事にしろよ。
でも明日か……まいったな……
「明日は……学校行かなきゃなんねぇんだけど……」
いちおう嘘ではない。
担任の教師に呼び出しくらっているのだ。
まぁ正確に言うと、ずっと呼び出しくらっているのをシカトし続けてたんだけどね……最初のうちは3日に一回連絡がきて、それが1日に一回になり、ついに今日からは3時間に一回連絡が来るようになり、いい加減鬱陶しくなってきたので、観念する事にした、という経緯がある。
なんでも、後輩に残すための進路資料として、合格した大学の試験内容、面談時間・どのような事を聞かれたか・課題はどのような物が出たか、等々……その辺を記入して提出しろ、というのだ。
そして、ソレを記入するための用紙を取りに来い。というものである。
まぁ書いて提出する気は、面倒臭いのでまったく無いのだけれど、このまま担任の呼び出しを無視するのは、それ以上に面倒臭い……というか、鬱陶しい。
たぶん、このまま放置すると、1時間に一回、30分に一回とか、間隔が狭まっていき、最終的には私の携帯の着信履歴を埋め尽くされる事になるだろう。
正直、それは勘弁願いたい。
「ちょっと行くくらいなら『親戚の子を預かってる』とか言い訳して、一緒に行っちゃえばいいんじゃないの?……ユリちゃんもそれでいい?」
くそ……絵梨佳め……他人事だと思って軽く言いやがって……
「うん。あ、大丈夫だよお母さん。私、こう見えても、凄く礼儀正しい良い子だから」
嘘つけよ!!
私のクローンって時点で、その言葉信用できねぇよ!!言ってて悲しくなるけどな!
「そうそう!大丈夫だよお姉ちゃん。それに、ちょっと学校行ってる程度の時間で、タイミングよく何か事件が起こるなんて有りえないだろうから、心配しなくていいと思うよ」
「おい!?フラグ立てんなよ!!?」
なんかもう、何かしら事件が起こるんじゃないかって気になってきたんだけど!?不安しかねぇんだけど!?
絵梨佳……ホント、空気読んでくれ……




