第十八話 本物・偽物
レイから話を聞き終わり、ノゾミちゃんの部屋へと戻って来る。
色々と聞きたい事は聞いたのだけれど、真っ先に聞かされた『ユリが私のクローン』って部分が、印象強烈すぎて、他の事がいまいち頭に残っていない。
あ、そういえば……帰り際にレイが言っていた「忠告しておくぞ人間災害。あまり情を湧かせると、近い別離が辛くなるぞ。この子供はただの実験体だ。そう思って接する事を勧めておくぞ」って言葉が意味深で印象に残ってるな。
よくわからんけど、ある程度期間が過ぎたらレイのやつが、ユリを回収して自分の世界に持ち帰るから、二度と会えなくなるぞ、って事だろうか?
私が単独でも異世界間移動できる魔法使えるって知らんのか?
まぁ教えては無いけど……
ともかく、死に別れるわけじゃないならどうとでもなる。いや……最悪死に別れても、私には蘇生魔法やら再生魔法があるから、意外と何とでもなりそうな気がするな。
とりあえず、まぁそんな感じな重めな話を聞かされて、全員がお通夜みたいな雰囲気に……
「うがあぁぁ!!何なんスか!?あのイケすかない中年男は!!次会った時は、思いっきりぶん殴ってもいいッスか!?あんなヤツ、ボコボコにしても罪にはなんねッスよね!?」
……なってなかったわ。
レイの野郎と会話しちゃったせいで、ブチ切れて叫んでる子が1人いたわ。
「落ち着けノゾミちゃん。ああいうヤカラは相手にしたら負けなんだ。適当に受け流しておくのが一番の対処法なんだよ」
「でも裕美さん!言われっぱなしは悔しくねぇッスか!?」
ああ……ノゾミちゃん。ネットとかで、顔真っ赤にして反論書き込みまくるタイプの人間か……難儀な性格だな。
「ああいう口が達者なヤツってのは、話を逸らしたり屁理屈捲し立ててきたりと、結局まともな議論できねぇんだよ。それに、自分の中で結論に達してたりしてるから、他人からちょっと言われたくらいじゃ考え変わったりしねぇし……だから会話するだけ無駄なんだよ」
そう。スルースキルという物はかなり重要なのだ。
そんなわけで、怒れるノゾミちゃんを、これ以上は相手にする気は無いので、私のスルースキルで華麗にスルーしつつ、ユリの方へと視線を移す。
さすがに、とんでも事実を聞かされた当人だけあって、今にも泣き出しそうな表情をしている。
まったく……私のクローンなんだったら、もうちょっと強メンタル発揮しろってんだ。
いや、そう思えるのは、当事者になってないからなのだろうか?
私も『お前はただのクローンだ。作られた存在で人間とは言い難い。他人から見たらただの偽物で、存在意義は無い』とか言われたら、それなりにへこんだりもするのかもしれない。
当人でない私は、どこかで『所詮は他人事』と考えてる部分があるのかもしれない。
……そうだな。だったら、ユリのクローン元である私が、せめてユリを元気づける事くらいはするべきなのかもしれないな。
ただ、ユリの隣で、そんなユリの事情を知らずに襲っちゃった事を後悔して、ユリと同じ様に泣きそうな顔になってるカエデちゃんまで励ます義理はないだろうから、そちらはノゾミちゃん同様、華麗にスルーする事にする。
「まぁ何だ……『所詮は他人事』な意見しか言えなくて悪いんだが、元気出せユリ。お前が何者であれ、少なくとも私はずっとお前の味方でいてやるから……な?」
う~ん……我ながら雑な励まし方だな。
もしかしてコレ、言わなかった方がマシってレベルだっただろうか?
「でもお母さん……私、お母さんのクローンで……お母さんにソックリな、ただの偽物で……」
声も表情に合わせて、だんだん泣きそうな声になってくる。
クローンだけあって、この言葉だけでも何が言いたいかはわかるし、何が不安で悲しいのかもよくわかる。
ただ……『本物』である私が『偽物』であるユリに対して、どんな言葉をかければいいのかがわからない。
同じ顔、同じ性格、同じ思考、同じ遺伝子だったとしても、今は『本物』と『偽物』という決定的な違いによって、かける言葉が見つからなかった。
「偽物だから何だって言うんスか?」
私が何も言えずにいると、ここぞとばかりにノゾミちゃんが横入りしてくる。
「本物とか偽物とか、どうだっていいっス!裕美さんは裕美さんで、ユリちゃんはユリちゃんッス!それでいいじゃねッスか?」
ああ……そうか。
ノゾミちゃんも……
「クローンだとか何だとかいうのは関係ねぇッス!ユリちゃんにはユリちゃんとしての意思がはっきりあるじゃねぇッスか!」
今のノゾミちゃんも、本物のノゾミちゃん……魔力の使い過ぎで消滅しちゃったノゾミちゃんのクローンみたいなもんだからな……
「クローンだってわかって悲しんでるのは、裕美さんの感情ッスか?違うッスよね!?裕美さんのクローンって言っても、その感情はユリちゃんが抱いてる想いっスよね!?」
今まで気にしてなかったけど、今回の件で、ノゾミちゃんも色々と思う事はあったんだろうな……
「ユリちゃんが考えた事、感じた事、思った事は、全部作られたものじゃねぇッス!そこに『本物・偽物』なんて無粋なもんは存在しないんスよ!」
でも何だろう……
「ユリちゃんはユリちゃんとして、今ここでちゃんと生きている!それじゃダメッスか!?」
私の見せ場だと思って息巻いてたのに、全部ノゾミちゃんに持ってかれたのは、最初に息巻いた分、凄い恥ずかしい気分になるんだけど……
コレどうしたらいい?




