第十七話 屁理屈屋レイ
沈黙が訪れる。
レイの発言を聞いて、おそらく皆同じ状態になっていただろう。
言葉としては理解できていても、頭ではいまいち理解できないでいる。
私だってそうだ。『クローン』とか言われても、「ああ、そうだね。そういうの聞いた事はあるね」とかいう思考しか、咄嗟には出て来なかった。
それだってのに、よりにもよって目の前にいるユリが!?これまたよりにもよって私のクローン!?もう完全に理解が追いつかない。
というか、頭が、一瞬考える事を放棄したような感じになった。
「ちょ……待て。コイツがクローン?私の?」
「知っていて一緒にいるんじゃないのか?人間災害ともあろう者が、まさか善意で記憶の無い子供の世話をしているとは思えんが?」
何も知らねぇから、現在進行形で驚いてんだろうが!ユリは未来の私の娘、って認識で行動してたんだから、そりゃいきなり「クローンです」とか言われればビビるっての!?
誰だよ?ユリが私の未来の娘だ、って言ったヤツは!?……幸か!?
まぁ信じた私も私なんだろうけど……
でも、それも仕方なくね?だって『ガキの頃の私にソックリな容姿』で『私にソックリな性格』してて『私を母親呼ばわりしてくるけど記憶が無い』とか、どう考えても…………
うん!『クローン説』上げた方がしっくりくるなコレ。実際、考えてる途中から『未来の私の娘説』より『クローン説』だな、って気持ちになってたわ。
それと……やっぱ、いちいち一言多いんだよ!私を何だと思ってんだコイツは!?
「まぁいい。ともかく、この件に関して僕が関わっている事を知ったうえで、他にも色々と僕に聞きたい事があって来たのだろう?他人に言わなかっただけで、別に隠したいと思っていたわけではないからな……いくらでも答えてやる。そして早く帰れ。僕の貴重な休息時間を無駄にしたくない」
スマン。今までずっと「一言多い」とか言ってきたけど、『一言』どころじゃねぇなコイツ。
ともかくアレだ。聞かれれば答えるとか言ってんだから、色々と問い詰めてやらねぇとな……
で?まず何から聞けばいいんだ?全部答えが返ってくるってわかってると、それはそれで何から聞いていいのかわかんなくなってくるぞ!?
RPGとかで、最初は一本道だったのが、移動手段とかが増えて、いきなり行ける場所の選択肢が増えると、どうしようか迷って混乱するタイプなんだよな……私。
「何で裕美さんのクローンなんて創ったんスか?人の命に関する倫理観とかねぇんスか?」
私が咄嗟に何も言えなくなった事を察してか、ノゾミちゃんが我先にと質問を飛ばす。
ただ、声のトーン的にノゾミちゃん、ちょっと怒ってる?
「お前は何か勘違いしていないか?『人の命に関する倫理観』なら持っているさ。だが、悪いが僕は異世界人を『人』とは認識していない。ただそれだけだ」
ああ……コイツならそんな事言うと思ったよ。
予想通りすぎて腹も立たねぇな。
あ、でもノゾミちゃんはそうでもなさそうだな。「私怒ってますよ」ってのが表情に出ちゃってるよ。
そりゃあレイの事、ノゾミちゃんよく知らないだろうしな。
コイツとの付き合いにはコツが必要なんだよな……
コイツ自身がさっき言った事をそのままコイツにも当てはめればいいだけだ。
つまりは「コイツの事を同じ『人』と認識しないで接する」って事だ。見た目『人』だから難しいかもしれんけど、慣れれば意外といける。
「何やら怒っているようだが、それは筋違いだと思うが?例えば、喋るモルモットが『人の命に関する倫理観を持っていないのか?』とお前等に言ってきたらどう思う?『お前、人じゃないだろ……』と呆れるだけではないのか?それと同じ事だ」
「喋れるモルモットなら……人と同じように扱ってもいいんじゃねッスか」
「ほら見ろ。『扱ってもいい』だ。上から目線で同等には扱っていない。内心では見下しているのさ、気付いてはいないだけでな。気付いていない分、たちが悪い。しっかりと認識している僕よりもな。それに、いくら喋れるモルモットといっても、基本的な扱いは他のモルモットと同じで、檻に入れて勝手に逃げないようにして『飼う』のだろう?僕に何か言いたければ、モルモットに人と同じ衣食住の提供、そして就職先の斡旋、給与を与えて税金も取り立てる。そこまで人と同じに扱ってからにしてくれないか」
あ~もう面倒臭いなコイツ……ノゾミちゃんもそこで口ごもるなら、最初から私と同じように『勝手に言ってろ』スタンスでいてくれよ……話が進まない。
「ああ……話がズレたな。たしか『何故、人間災害のクローンを創ったのか?』だったな」
私の視線に気付いたのか、レイは半ば強引に話を切り替える。
まぁツッコミどころある屁理屈を捲し立ててたからな。反論させる機会を奪うようにした話題転換って感じにも思えるけど、そこに突っ込むと、また話が脱線するだろうから、あえてツッコまずにおこう。
「人間災害の強大な力は知っているだろう?それを量産し、使役できれば便利だとは思わないか?」
まぁそうだわな……私のクローンってなれば、目的はそれ以外に考え付かないわな……
でも待てよ?ユリの魔力は……
「でもお父さん……私、お母さんほど強い魔力は……」
私と同じ疑問を同じタイミングで考えたのか、私より先にユリが、控えめに質問をする。
自分がクローンだって事実を突きつけられたばかりで、心中穏やかじゃないだろうから、口調も控えめににもなるわな。
でもアレか?ここで口をはさめるって事は、いちおう私並の強メンタルは持ってるのか?
「そこが問題点だ。クローンとしては上手く出来上がったのだが、魔力までは人間災害と同じにならなかった……どうやってもな。魔法による急速な成長がダメだったのか?それとも別の要因があるのか?魔力に関しては原因がわからない状態だった。なので、別の方法で魔力を刺激したら何かあるかと考えたのだ……」
「あの……もしかして、私にこの子を襲わせたのって……」
せっかくこの場にいるのだから、何かしら発言しないとダメなのか?と言わんばかりにカエデちゃんが口をはさむ。
「そう。魔法による攻撃で、命の危機になれば、それが刺激になり魔力になにかしらの反応があるのではないか、という淡い期待をしてみたからだ……まぁそれで命を落としたのなら、それまでの事で、この実験は失敗だった、で終わるだけだったのだがな……」
そう言いながら、私の方へと目線を向けてくる。
何でコッチ見んだよ?
あ!アレか!ユリが『命の危機』を感じなくちゃダメなのに、私が護衛とかやっちゃってたから、その『命の危機』がやってこなかった、ってやつか!
実験が途中で邪魔されたからなのか、レイのヤツ、私に視線を送った後で、微妙につまらなさそうな表情をする。
ついでに、わざとらしく、私に聞こえるように大きなため息をついたりもしている。
そうかそうか、つまりは私のせいで、自分の思った通りには事が進まなかったって事か。
そんなコイツに、心の底から言ってやりたい……
ざまぁみろや!!




