第十四話 服従済み
「合格?……どういう事よ?」
すぐさま魔法少女からツッコミが入る。
重力魔法をくらった状態なため、地面に這いつくばりながらの発言を聞くと、本当に合格扱いしていいものか若干不安にはなるが、潰れて意識が無くなったりしていないだけでも評価してもいい。
幸なんて、昔コレくらった時、潰れたカエルみたいになってたしな。
とりあえず、仕切り直しになるわけだから、重力魔法は解いてやるか。
「え?な……何で?」
私が重力魔法を解いたのを不思議そうな顔をしながら、魔法少女はゆっくりと立ち上がる。
「さっきの魔法をそのまま維持していれば、私に簡単にとどめをさせたのに……馬鹿にしてるの?慢心してると痛い目見るわよ」
「もう見たさ……だからこその仕切り直しだよ」
べつに、とどめをさすとか、そんな事にもう興味はない。
今は、ゲームとかでありそうな魔王が本気を出す展開……というか、簡単に言えば中二病展開を満喫したい。
私はゆっくりと魔法少女の方へと歩きながら変身をする。
さあ!私が満足できるリアクションをしてくれよ。
「な……な……」
魔王としての正体を現した私を見て、案の定絶句する魔法少女。
「魔王だなんて聞いてないわよ!?」
そりゃ言ってねぇし。何言ってんだコイツ?
だいぶ混乱してるだろ。
まぁ過去に私と対峙した魔法少女で、私の正体知ってるのなんて美咲くらいだから、『変身して魔王になる』って概念がなかったのかもしれんな。
魔王は『魔王』として存在していて、普通に女子高生してるって考えが失念してるんだろうな。
今までの魔法少女連中って、幸みたいに「途中で魔王の正体に気付いた」みたいな例外はあったが、基本的には、四天王及びヴィグルを倒したヤツに対して、変身した状態で降臨してたからな……
そんなわけで、コイツも例に漏れず、四天王とヴィグルは過去に倒してるわけで、魔法少女になりたての当時よりも、魔力の扱いとかは熟練してきてるだろうから、そりゃ変身前のとはいえ私の自動防壁を破っても不思議じゃないのかもな……「破った」って言ってもちょっとだけだけどな。
……で、コイツはいつ私に倒されたヤツなのか?って事だけど、何となくだけど思い出してきたぞ。
「さっき使った魔法見て思い出したよ。お前、無謀にも私に挑んできたから、四肢を切り落としてダルマにしたヤツだよな?」
そう、コイツは過去、私との魔力差を認知しても臆することなく挑んできた。
その時いきなりぶっ放してきたのが、さっきの無数の刃を放つ魔法だった。
まぁ魔王状態の私には、一切通用しないんだけどね。
んで、私はやられた事をそのままやり返した。
もちろん私はとても優しいので、急所を避けるように魔法を放ってあげた。
結果、両手・両足を切断した、というわけである。
ともかく、ほとんどの魔法少女は、私の魔力を確認した瞬間には怯えて竦む。つまりは、私をサーチした後は、少しの間だがビビッて動きが止まるのだ。
だけどコイツは、動きを止める事なく、いきなり攻撃を仕掛けてきた。
コイツは意外と勇気と度胸がある。
やっぱ魔王に挑むようなヤツはそういうヤツの方が、コッチもテンションが上がるってもんだ。
「まぁそんな事はどうでもいいか。とにかく変身前の私にキズを負わせたお前は、私が本気で戦うに値するんだ。私が合格判定を出すなんて滅多に無いんだ、誇っていいぞ」
私の言葉を黙って聞いていた魔法少女ではあったが、無言のままスッと右手を上げる。
おっ!さっそく何か仕掛けてくる気か?やる気があって実に良い!
「あの……大変光栄な事なのでしょうが、その合格判定……辞退したいのですが」
ってオイ!?さっきまでの勢いどうしたよ!?いきなり敬語かよ!?右手を上げる動作は、攻撃動作じゃなくて、挙手して「発言していいですか?」の動作だったのかよ!?
つうか『辞退』ってなんだよ!?せっかく私やる気になってたのに。
私の合格判定なんて、ポチだったら泣いて喜んでるぞ!
いや……まぁ戦闘狂なポチを基準に考えてもダメなんだろうけど……そもそもポチは初対面の時一発合格してたんだよな。
「アナタが魔王様だと知らずに大変失礼を致しました。この子にはもう二度と手出し致しません。後日改めて謝罪に伺いますので、今日はこのまま失礼してもよろしいでしょうか?」
やめろ!事務的な口調で謝罪するのマジでやめろ!!
「ま、待て!?久々の合格判定で、私テンション上がってんだ!ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから戦わね?何なら一発づつ攻撃し合う、みたいなのでもいいから」
「そういう『先っちょだけだから!』みたいな言葉は信用しない事にしてるんで」
いきなり下ネタぶっこんできやがった!?やっぱコイツできるな!
……っていうかソレ、実体験で痛い目見た感じのやつなのか?
「ねぇお母さん。どういう意味なの?」
いつの間にか近づいてきていたユリが話しかけてくる。
「子供は知らなくていい!」
適当にあしらっておく。
とりあえず今は、コイツを説得してやる気をださせないと、私がただ変身して中二病台詞を吐いただけのイタい結果だけが残る事になってしまう。
「お前、昔はもっとやる気あっただろ?ほら、私と対峙してもビビらずに攻撃仕掛けてきたじゃんかよ!」
「あれは、アナタが喋ってる途中に不意打ちすれば逃げるスキくらいは作れるかな?と考えて実行しただけです。めちゃくちゃビビッてました」
そういえば登場台詞を言ってる最中に攻撃されたかもしれない。
なんだよオイ!?勇気と度胸があるヤツだ、って認めてた私の純粋な気持ちを返せよ!勘違いとか、超恥ずかしいじゃんかよ!
「本当にもう勘弁してください。四肢切断とか、文字通り『死ぬほど痛い』んで、二度と味わいたくないんです。土下座でもなんでもします。靴の裏舐めろと言われれば舐めます。ですから本気で見逃してください」
なんかリリーちゃんみたいな事言い出したな……で、リリーちゃんと同じように、目がマジだから、本気で靴の裏とか舐めそうだ。
「お母さん……どうすんのコレ?」
ホントどうしよう?このまま要望通り帰らせるのも、なんか癪だしなぁ……
「とりあえず……まひるちゃんと同じように、事情聴取を名目に、いったん拉致るか」
拷問して聞き出せる情報なんて、まひるちゃんと同じなんだろうけどな。
ただ、このまま帰らせるのも私としては収まりが悪いというか何と言うか……
これだけ無意味な拉致行為って、今まであっただろうか?




