第十三話 保護者の仕事
さて、ユリを助けるとして、どのタイミングで行こうか?
せっかく当人が頑張っているっていうのに、いきなり横入するのも、ちょっと気が引ける。
場合によってはユリのやる気を削いでしまうのではないだろうか?子供のやる気を奪ってしまうのはマズイだろう。
じゃあ、やられそうになるギリギリのタイミングで助けに入る?
うん!とりあえず冷静になって考えてみよう私。
前提として、私とユリは似ている部分がある。
だったら、私がユリの立場だったら、どう考えるかってのを想像してみよう。
まずは『いきなり横入』パターン。私だったら「余計な事しなくても私一人でも何とかできたっての。まぁ余計なケガしなくて済んだし、楽できたから今回は良しとしといてやるか」ってなるだろう。
次は『ギリギリ』パターン……「どうせ助けに来んならもっと早く来いよ!私がいたぶられてるの見て楽しんでやがったのか?趣味悪ぃなオイ。テメェと私の力量差を見せつけて、テメェ無しじゃ私は何もできないって思い知らせたかったか?性格ねじ曲がってんじゃねぇのか?」
…………よし!すぐ行こう!
ちょっと出遅れた感はあるが、どこに行こうが、先行してる2人とも魔力を持ってる時点で、私のサーチ魔法に必ず引っかかる。
そして案の定、近くの建物の屋根の上を、飛行魔法でピョンピョン飛び跳ねながら移動する2つの気配を察知した。
にしても、2人供とろい動きしてんなぁ……私が本気出したら、飛行魔法でも音速軽く超えられるぞ。
まぁ、音速超えの飛行魔法使うには、魔力消費量が変身前の魔力総量以上だから、変身が必須になるんだけどね。
色々あんのよ……音速以上のスピードを出すための魔力消費以外にも、音速に達した時に生じる衝撃波を中和する魔法とか、風圧やら気圧差から身体を守る防壁魔法とか、呼吸を維持する魔法とか、とにかく色んな魔法を併用しなくちゃならんのよ。
……まぁ私が変身必須な魔法って事は、つまりは誰も使用できないって事になるのかもしれんけどね。
ともかく、アイツ等のあの程度の速度だったら、そんな音速超えの飛行魔法なんて使わなくても、簡単に追いつけるだろう。
飛行魔法ではなく、足に魔力を集中させて脚力強化すればいいだけだ。
空を飛ばなくたって、ジャンプだけでビルの屋上くらい簡単に登れるし、走る速度もアイツ等の飛行魔法よりも全然速い。
難点としては、強化された脚力によって、踏み込んだ部分が破損するって事くらいだろうか?
そんなわけで、人様の家の屋根とかを壊すのは忍びないんで、破壊していくのは、極力アスファルトだけにしておこう。
若干、人目を気にしながらも走り出し、案の定あっという間に2人に追いつく。
2人がいるであろう建物の下から、一気に屋上へと飛び跳ねる。
「いい加減、観念しなさい!」
どうやら、ちょうどユリが追いつかれたタイミングだったようで、魔法少女がユリに牽制的な攻撃を加えようとしている。
ユリも、もう逃げられないと悟ったのか、反撃しようと、右手に魔力をこめながら、魔法少女の方へと振り返っているところだった。
これは……ナイスタイミングというやつだろうか?
私は飛び跳ねていた勢いをそのままに、今まさにユリを攻撃しようとしている魔法少女を蹴り飛ばす。
不意打ち気味ではあったものの、魔法少女はギリギリで防壁魔法を展開し、私の蹴りを防御した。
ただ、完全には防ぎきらなかったようで、よろめきながらケツをついて転ぶ。……まぁダメージはそんなに無さそうだな。
次の瞬間、無数の衝撃波のような魔法が飛んできて、私の自動防壁に防がれる。
一瞬、倒れこんだ魔法少女に反撃されたのかと思って「コイツ意外と曲者?」とか思っちゃったけど、よくよく考えたらコレ、ユリが放った魔法か!?
私の介入を予想してなかったから、魔法少女への反撃用として放とうとしていた魔法を、咄嗟に止める事ができずに、魔法少女を蹴り飛ばして目の前にいきなり現れた私に、うっかりぶっ放しちゃった感じかな?
「あ……」とかボソッと言ってたから、たぶんそうなんだろう。
だが安心しろ。この程度の魔法じゃ、私の自動防壁は何ともない。
まぁそりゃあそうか……私の自動防壁突破できるほどユリの魔力は高くない。
ユリの魔力は……一番近いのはステラちゃんくらいか?というか、その辺にいる一般魔族と比べても大差ない。
いや……でもソレって、全異世界感覚でいえば平均値以上なのか?この世界に来てる魔族って、元々は侵略しに来てるわけだから、そこそこ優秀な魔力持ってる連中が選ばれてるわけだろうし。
私の周りの連中が、ちょっとイカレてるせいで、感覚が鈍ってるってだけの話なのだ。
とにかく、無事2人に追いつき、間一髪のところでユリを助ける事に成功した。
後は私が、この魔法少女を折檻すれば、とりあえずは問題解決だ。
……まぁあくまでも、今現在直面している出来事に関しての問題が解決するだけで、根本的な部分は何も解決していないのだけれど、そこは後々考えればいいだろう。
「ずっとアナタが何者か気になってはいたけれど……やっぱりこの子の味方なのね」
起き上がりながら魔法少女が私へと話しかけてくる。
ずっと私を無視してたから、いないものとして認識されてるのかと思ってたけど、どうやら攻撃加えた事で、ちゃんと認識されたようで一安心だ。
「いちおう、周りの連中から『護衛しろ』って言われてるんでね……まぁ保護者みたいなもんかな?悪ぃけど、このガキを口説きたかったら、私を黙らせてからにしてくんねぇか」
「……そうね。やっぱりそういう事になるのね」
あんまり乗り気じゃなさそうな返事だ。
そりゃあ、自分よりも、ちょっとだけではあるが魔力が高いヤツが相手なんだ。戦わなくていいなら戦いたくはないよな。
ただ、ある程度は『こういう展開になるだろう』と予想していた通りだったのだろう。驚いた感じはまったくなさそうだった。
「わかってくれたんだったら、まずは場所を変えよう。ここは他人様が所有してる建物の上だ。壊したりしちゃまじぃだろ?」
私はそう言いながら、人がいない路地を選んで、そこへと飛び降りる。
魔法少女も私の意見には賛成のようで、黙って私の後に続いて、建物から飛び降りようとジャンプする。
馬鹿め!!かかったな!!
ジャンプした瞬間を狙って、魔法少女へと重力魔法をかける。
自由落下に重力魔法による加速が追加され、物凄い勢いで地面へと叩きつけられる魔法少女。
「ぐっ……!?ひ、卑怯者め!」
……っチ!一撃で決められなかったか。
しっかりと防壁をはっており、地面に這いつくばりながらも、意識はしっかりとしているようだ。
「卑怯者?何言ってんだ?生きるか死ぬかの戦いに、卑怯もへったくれもあるかよ。油断しすぎなんだよ!馬鹿なんじゃねぇかお前?」
先程まで無視されていた腹いせも兼ねて、思いっきり罵っておく。
実に良い気分だ。
「く……うああぁぁぁ!!」
よっぽど悔しかったのか、魔法少女は起き上がる事なく、全力で魔法を放ってきた。
そりゃ動けなきゃどうにもならんしね……どうせ動けないままやられるなら、全力で魔法ぶっ放して、一か八かの賭けに出た感じだな。
全力魔法ぶっぱで倒せれば良し、ダメだったら負ける。実にわかりやすい。
魔法少女が倒れながらも放った魔法は、無数の風の刃。
サクラがよく使う真空波のような魔法だ。
こりゃ並の魔力しかないヤツがまともの受けたら、ナマス切りにされるんじゃね?
まぁ私の自動防壁なら……
「……お?」
慢心していた。
変身しなくても、この程度のヤツならノーダメージで倒せるだろうって……
気が付くと、刃の一部分だけではあるが、防壁を破り、私の頬に軽い傷をつけていた。
「ふ……ふはははは……」
自然と笑いがこぼれる。
まさか、こんなところで、こんな面白い事になるとは思ってもみなかった。
「合格だよ……お前。喜べ!私の真の実力を見せてやる!」




