第十話 自由登校
高校の自由登校期間とは、来たきゃ勝手に来てていいし、欠席しても欠席扱いにはならない、とまぁ内申点とは無関係な、本当に自由な期間である。
本来は、共通テストが終わって、本格的に各自受験勉強に集中するためのものなのだろうが、AO入試で既に超3流大学への進学が決定している私には、まったく関係ない話である。
そりゃ学校なんてわざわざ行かないわな。
……そう思っていた時期が私にもありました。
暇なのよ!毎日毎日、特に何もする事なく家にいるのって!!
ん?大学行くにあたって、予習なり復習なりすればいいんじゃないか、って?
私が、好き好んで勉強なんてすると思うか?勉強したかったら大学進学なんてしねぇっての!……んん?私何か間違った事言ったか?
とにかく、幸や美咲が仕事のせいで、平日はまったく相手にしてもらえず、暇で仕方ない状態なのだ。
あ、ちなみに……厄介事を持ち込んできそうなガキは、即行で託児所……じゃなかった!ヴィグルに預けてある。
もちろん、異世界の馬鹿に狙われてるって事は伝えてある。『魔王軍の威信にかけて守れ、ダメだったら私直々にキツイお仕置きしてやるからな』という一言も添えた。ヴィグルからの『だったら裕美様が四六時中しっかりと護衛すれば済む話なのでは?』という一言はキッチリと無視した。
まぁ結果としては、朝晩だけは私が預かる事になってしまったが、それくらいなら我慢できなくもない。
と、いうわけで、日常の平穏を手に入れる事ができた代わりに、退屈な毎日が再来したのである。
まぁそんなこんなで、何を血迷ったのか、私は今、自由登校中の学校に来てしまっている。
「うわ!?めずらしい!?裕美さんがいるよ」
学校来て早々にミキちゃんから声をかけられる。
「裕美さんが自主的に学校来るとか……もしかして世界が終わる?」
私が学校来る事が世界レベルでの異変に繋がるとかどうなのよ?
いや、そうでもないか……魔王として本気で暴れたら、世界レベルでの異変になる。
あ、もちろんそんな事するつもりはない。
「家で引きこもってても暇だから来てみただけだっての……そういうミキちゃんは、わざわざ学校で何してんだよ?」
私ばかりがおかしい、みたいな感じで言われてるけど、自由登校なのに学校来てるのはミキちゃんだって同じなわけで、十分おかしいだろう。
「私はね、図書室で本借りてたから返しに来たのよ。あとついでに、この後読む本も借りに来た感じかな?」
用事も何も無いのに学校来てるおかしい子は私だけでした!?
「裕美さんは進学だっけ?じゃあ学校に勉強しに来たとか?」
「ま、まぁだいたいそんな感じかな」
ちょうどいい質問が来たので、私の名誉を守るために、勉強しに来た事にしておく事に……
「……裕美さん、さっき『暇だから来た』とか言ってなかったっけ?裕美さんに対して『勉強しに来たの?』なんて冗談以外に言うわけないじゃない……冗談に対しての受け答えなんてどうでもいいから」
くそ!何て高度な誘導尋問だったんだ!?
だが今はそんな事どうでもいい。ミキちゃんは私に対してどんなイメージを持ってんだよ!?
「それはともかく、裕美さんが進学……ねぇ」
「何か意味深な言い方だなミキちゃん……私が進学すんのが何か問題でもあんのか?」
もしかしてアレか?ミキちゃんは思った通りの進路に進めなかったから、幸みたいに私を逆恨みでもしてんのか?
「違う違う。ただ単に、今までの裕美さんの行動見てたら、高校卒業と同時に魔王軍にでも就職するのかと思ってたから……ほら、魔王様の名誉魔族って事は、直属の部下か何かなんでしょ?裕美さんって」
いや、まぁ正直な答えを言うとしたら、部下とかじゃなくて魔王当人だから、無条件で魔王軍には就職可能なんだろうけど……
「アレだよ。私が魔王軍に就職したところで特に役には立たないからな。今までみたいなバイト感覚で、魔王の使いパシリしてるぐらいが丁度いいんだよ、私は」
まぁ世間一般的には、それくらいに思われてるのが一番だろう。
まだもう少しだけは、正体が魔王だって事はバラらずに日常生活を楽しみたい。
「そういやミキちゃんの進路はどうなんだ?魔王軍の就職試験とか受けなかったのか?」
「ん?もちろん受けたわよ」
……は?ちょっとした冗談のつもりだったのにマジかよ!?
「何よその顔は?……もちろん書類選考で落ちたわよ」
おっといかん。露骨に顔に出ていたのか。
「魔王軍は一流企業みたいなもんだからね。実績も無い高卒女の履歴書じゃお話にならなかったって事よ」
いや、魔王軍は実力主義だから、どんな経歴だったとしても、数回は面接やら実技やら筆記やらの試験をするハズ……あ!アレだ!!私の正体がバレる可能性のあるヤツは無条件で弾いてるんだった!
って事は、ミキちゃんが就職失敗したのって、私がヴィグルに適当に言っておいた条件が原因じゃんかよ!?
「そんなわけで私も裕美さんと同じように進学よ。4年後に『大学卒』っていう拍を付けて、もう一度魔王軍の就職試験に挑んでやるのよ!」
「お、おう……頑張れミキちゃん」
適当に応援はしておく。
とりあえず、ミキちゃんが再度就職試験を受ける前に、変な採用条件は撤廃しておかないとな……ミキちゃんみたいなガチな子が可哀想な事になる。
「そういえば魔王軍と言えばさ……」
突然ミキちゃんが話題転換をするように話を切り出してくる。
「昨日ウチのバイト先に魔王軍から電話かかってきたのよ」
……ん?
「あれ?言ってなかったっけ?私、ファーストフード店でバイトしてるんだけどね、そのバイト先の先輩が何かやらかしたらしくてさぁ」
あ……あああ……
「魔王軍に何か迷惑かけたらしいんだけど、その話とか詳しく聞いてない?何をやらかしたのかバイト先で話題になってるのよ」
「お……」
「『お』?」
「お前が犯人かぁぁぁ!!?」
あの電話の後、泣いてるまひるちゃんをあやすのがどんなに大変だったかわかってんのか!?あと、何故か私がめちゃくちゃ悪者扱いされるし!
「は?犯人?裕美さん何の話?」
「お前等が電話越しに『クソガキ先輩』とか言うから!わた……魔王が電話越しにどんだけ気まずい思いになってたと思ってんだよ!」
「え?裕美さん……あの電話の時、電話越しにいたの?」
おっと……いかんいかん。少し冷静になろう。あの電話をしたのは私じゃなくて『魔王』なんだ。その設定はしっかり守らないと……
「っていうか裕美さん……ウチのバイト先に電話してきたのって……魔王様なの?」
「ああ……魔王が直接電話してたぞ」
そう。電話したのは私じゃなくて魔王だ。
「倉田さん……何であの時私に電話換わってくれなかったの……?」
ん?あれ?何かミキちゃんの目が、人殺しそうな目つきになってる気がするんだけど?大丈夫か?この後、倉田さんって子が不審な死を迎えたりしないよな!?




