第八話 クソガキ先輩
さて、まひるちゃんには、この後聞くべき事が山の様にある。
このガキの事を知っているのか?
何故ガキを攻撃してきたのか?
一度私に負けて、魔法少女引退しているのに、再び活動始めた目的は何なのか?
そもそも今回の件はまひるちゃんの意思とは別で、誰か黒幕がいるのか?その場合の黒幕は一体何者なのか?
ざっと思いつくだけでも、これだけの質問事項が出てくる。
だというのに……
「あの……私、そろそろバイトの時間だから、もう帰ってもいいかな?」
いや、舐めてんのかコイツ!?
現行犯で捕まって取り調べ受けてるヤツが、そんな理由で取調室から逃げ出せるとでも思ってんのか?
「私に喧嘩吹っ掛けてきといて、そう簡単に帰れると思ってんのかおま……」
「ひぃ!?ご、ごめんなさい!!」
もう条件反射で謝ってんなまひるちゃん。
私がセリフ言い終わる前に謝罪の言葉が出るって、どんだけ私にトラウマ持ってんだよ?
「で、でも私……バイトはずっとマジメにやってて……他のバイトの子からの信頼とかもあるから、無断欠勤とかはしたくないっていうか……」
何か涙目になりながら訴えてきてるし……そんなにバイトでの信頼大事か!?
「しゃあない……携帯貸せ。私がバイト先に連絡してやる」
とりあえず、当人が欠席の電話入れるよりも、第三者から連絡入れた方が、ズル休みだと思われにくいだろうしな。
まぁ実際のところ大差はないかもしれんけど、気分的な問題だ。
私がそう言うと、まひるちゃんは渋々ながら電話帳からバイト先の番号を呼び出し、スマホを私へと渡してくる。それを受け取りスピーカーモードにして呼び出し音を聞く。
まぁ何と言うか、かけたフリではなく、きちんと伝えたよアピールのためである。
これなら、端で聞いてて、ちゃんとバイトを休む許可が取れたってのを確認できるだろうしね。
全員が無言の中、数回呼び出しのコール音が鳴り響き、電話がつながる。
「あ~……こちら魔王軍の者なんだけど、ちょっとお宅でバイトしてる久保まひるちゃんをウチで預かってるんで、今日のバイトはお休みさせてもらってもいいですか?」
有無を言わさずに、一方的に用件だけをちゃっちゃと伝える。
『えっと……まひるさんは何かやらかしちゃったんでしょうか?』
電話越しから、質問の声が返ってくる。
そりゃ当然の返しだよね。
魔王軍を名乗るヤツから「お宅のバイトの子、今日休むね」とか一方的に言われたら、何事かと思うよね。
「まぁちょっとね……ただ、事情聴取するだけだから今日だけ預かってるってだけで、ちゃんと五体満足で返却するんで気にしなくて大丈夫だよ」
とりあえず、魔王軍で身柄確保はしてるけど、身の安全は保障されてるから安心してね。といった事は伝えておく。
『ええっと……ちょっと待っててください』
ああ、電話取ったのもバイトの子なのかな?じゃあ独断で休み許可できないよね……
『ねぇ皆!ちょっと聞いて!今、魔王軍の人から電話かかってきてるんだけど……』
え!?何か電話越しに会話初めてんだけど!?せめて電話保留にしようよ!?教わってないの?そういう事!?
『クソガキ先輩が何かやらかしたらしくって、魔王軍に捕まってるっぽいよ』
『は?あの人、何やらかしたの!?』
『どうせ、いつも通りな高圧的な態度で魔王軍の人にでもケンカ吹っ掛けたんじゃないの?』
『あ~わかる!クソガキ先輩って妙に偉そうだしね』
『先輩ってだけで、凄い上から目線だよね……あのガキっぽい顔も相まって、倍イラつく』
『で?クソガキ先輩死んでくれるの?』
『何か、事情聴取で今日だけ拘束されるだけらしいよ。だからバイト休んでいいか?だって』
『いんじゃないの?どうせ、いても大した戦力にならないし』
あ~……えっと……スピーカーで会話丸聞こえなんだけど……
にしても……まひるちゃん、バイト先で『クソガキ先輩』とかいうあだ名付けられてんの!?
ピッタリなあだ名すぎる気がするんだけど、聞こえてきちゃってる、他バイトの子達の会話をもろに聞いて、声を殺してマジ泣きしてるまひるちゃんを見てると、何とも言えない気分になる。
他のバイトの子からの信頼ェ……
『あ、もしもし。店長には伝えておくんで、休んでもらっちゃっても大丈夫です』
いつの間にかバイト同士の会話は終わったのか、要件を伝える言葉が聞こえてくる。
「ああ……うん……ありがと……」
ここまでボロクソに言われてるまひるちゃんが不憫で、もうこれくらいしか返す言葉が出てこない。
「ううぅ……うああ~~!!」
電話が切れると同時に、声を大にして泣き出すまひるちゃん。
ここまでマジ泣きされると、どう声をかけていいものか、かなり悩む。
「裕美さん……いくら攻撃されたのがムカついたからって、この拷問はあまりにも酷だと思うんスけど……この仕打ちは、流石の私も擁護できないレベルで引くッスよ」
「お母さんには、人の心ってものが無いの?」
え?何か全然違う方向からクレームがきてるんだけど!?
もしかしてコレ、スピーカーで会話した事と、相手方のバイトの子達の対応が、私の仕込みだと思われてるの!?
「待て!いくら私が『復讐は10倍返し』をモットーにしてるとはいえ、こんな手の込んだ復讐の段取りしねぇよ!?」
第一、まひるちゃんのバイト先とか、さっき知ったばっかだぞ!?いつ手回ししてたってんだよ!?
「もうやだぁぁ!!もう無理ぃぃ!!私……私ぃ……うああぁ~~!!皆……皆バイト中は、私の事『先輩』って普通に……うああぁ……お願いします!もう……もう本当に逆らったりしません!私が何でこの子を襲ったのか全部喋ります!!だから!だから……もう許してください!!」
「だから私の仕込みじゃねぇって言ってんだろうがぁぁ!!」
さっきのバイトの子達の反応って、今までのまひるちゃんの行動が招いた結果だろ?何で全部私のせいになってんだよ!?
まぁ聞きたい事全部喋ってくれるっていうなら、それはそれで結果オーライなのかもしれんけど……
「お母さん……やり方がちょっとえげつなくない?」
「少し話を聞くだけなのに、ここまでやるんスか?」
結果オーライなんだけど……なんだけどさぁ……何か二人から向けられる視線が痛いんだけど……
っていうか、コイツ等二人、私をイジるためだけに、何タッグ組んでんだよ!?いつの間にそんな仲良くなったんだよオイ!?




