第五話 再度の襲撃
魔王軍本部を出て、特に行くあてもなくフラフラと歩く。
夕方、というにはまだ少し早い時間帯。
こんな時間に家に戻ったとしてもやる事など何もなく、ただ暇を持て余すだけである。
というか、そもそもで、あまりに暇だったから、幸と美咲に絡みに行ったわけで、家だろうと外だろうと、どっちにしても暇なのだ。
せっかく、暇つぶしに最適な連中がウロチョロしてると思って、意気揚々と外に飛び出して行ったってのに、ふたを開けてみれば、二人して「仕事中だ」とか言って相手にしてくれねぇうえに、よくわからないガキの世話を押し付けられたりと散々だ……朝にテレビでやってる今日の運勢占いとか、まったく見てないけど、星座占いも血液型占いも、どっちも最下位だったんじゃないか?私。
「お前……本当に記憶喪失なのか?」
特に会話も無いので、間を持たせるために、何となく話をふってみる。
「お母さんしつこい。何も覚えてないものは覚えてないんだから、何回聞かれたって答えは同じだよ」
生意気なガキだなぁ……
いや、でも同じことを何度も質問されたら、私もたぶん、このガキと同じような反応するだろうから、このガキが私に似てるってのは間違いないのかもしれない。
……だが私はまだ、コレが私の娘だとは完全に認めたくはない!!
「っとに可愛くねぇガキだなぁ」
「それはお母さんの遺伝子のおかげだと思うよ」
くっそ……ことごとく『私だったら、こう反応するだろう』って返答がくるな。
マジで他人の気がしない。
って事は、本気でこのガキ、未来での私の娘なのか!?
そんな事を考えていた次の瞬間だった。
再びの魔法攻撃が私達を襲う。
数時間前の攻撃よりも、より威力の高い攻撃。
ただそれでも、私の自動防壁を破るには至ってはいない。
しかし……
私の隣を歩いていたガキは違っていた。
このガキも私と同じように、自動で防壁が発動するようにはしているようだが、問題はこもっている魔力の量が全然違っている事だ。
私は無事でも、このガキの防壁は破られてしまったようで、私の隣で、太ももから血を流しながら倒れこんでいる。
そして……間を置かずに響き渡る、周りからの悲鳴。
「きゃあああぁぁぁ!!?」
「何だ何だ!?魔族のケンカか!?」
まぁ当たり前だよな……だってココ、それなりに人通り多い場所だしな。
だからこそ油断してた。
まさかこんな場所で、いきなり魔法ぶっ放すバカはいないだろう、という先入観を持っていた。
考え方を改めよう。
馬鹿はそんなの気にしない。
すぐにサーチ魔法を発動させる。
わかってはいたが、既に変身を解除して、逃げまどう人達に混じってしまっていた。
おそらくだが、変身した状態で人ごみに混じり、コッソリと攻撃魔法を放つ。んで、民衆の視線が、攻撃を受けたガキに集中した瞬間を狙って、変身を解除した……って感じだろう。
つまり、私の予想が正しければ、ガキを攻撃した魔法少女は、まだそんなに遠くには逃げられていないわけで……
「女の子が倒れてるぞ!」
「誰か警察呼んだか?」
「救急車呼んだ方がいいんじゃね?」
いつの間にか人だかりができており、ガキはすっかり取り囲まれてしまっていた。
私はというと、シレっとガキから距離をとり、あたかも無関係を装い、ガキを取り囲む人だかりに紛れ込む。
そして……
「お前……ちょっとコッチ来い」
人だかりのケツの方にいた女子高生の耳元でそっとつぶやきつつ、胸ぐらを掴み、そのまま建物の隙間へと引きづって行く。
理由は簡単。コイツが変身アイテムを所持しているからだ。
私を舐めてもらっては困る。
本気になれば、かなり小さな魔力反応でも見逃さない。
前回の時は、距離が離れていたせいで、小さすぎる魔力反応は、感じられても距離感がよくわからない感じになっており逃げられたりもしたが、今回は距離が近いのが幸いして捕らえる事ができた。
そんなわけで、すまんガキんちょ。
後で迎えに行ってやるから、野次馬共が呼んだであろう警察や救急隊員のお世話になっていてくれ。
「ちょっ……!?何よアンタ!?」
胸ぐら掴んだまま引きづって来た女子高生は、文句を言いながら、私の手を振りほどこうと若干の抵抗をみせるが、あいにくと私は魔力をまとっているため、何の効果もない。
見つからないように変身を解除したのだろうが、それが仇となったな。
もっとも、変身していたとしても、私に対しての抵抗は無意味だろうけどな!
「攻撃してきたのお前だろ?バレてんだよ」
できるだけドスの効いた声で囁く。
「サーチ魔法でガキの魔力量確認して、防壁破るのには、どれだけ接近すればいいかってのをわかって攻撃してたよな?だったら、隣にいた私も魔力持ってたのは、当然わかってるよな?」
女子高生は、私の言葉を聞いて、諦めたようにこわばっていた顔をふっとゆるめる。
「すぐに変身解除すればバレないと思ったんだけどなぁ……何でバレたのかしら」
一言、そうつぶやくと、私に胸ぐらつままれたままの状態で変身する。
魔力を得た事で、私の手を振りほどき、少し距離をとるように、視線をそらさずにゆっくりと動く。
この変身した魔法少女の格好……何となくだけど見た事ある気がする……って事は過去に、魔王である私に挑んできたヤツの一人なのだろう……たぶん。
なにぶん私に挑んで来た魔法少女は十数人いるうえに、対面してからあっという間に勝負がつくから、よっぽど印象深いヤツじゃないと記憶に残らない。
そしてコイツも、そんな連中の一人であり『そういやこんな格好したヤツもいたな……』程度の記憶しかない。
コイツは、えっと……たしか拘束魔法を強めにかけて動けなくした後、痛覚を強める魔法をかけて、一本一本指の骨を折っていって、耐えられなくなって気を失うのが先か、拘束魔法による窒息死が先かを試したヤツ……だったかな?
「アナタ名誉魔族?にしては、ずいぶん強い魔力持ってるわね……でも、私が勝てない程の魔力ってわけじゃないわね」
おや?何か語り出したな。
まぁ確かに、前に戦った時よりも魔力量は増してるのかもしれない。って言っても、変身前の私よりもほんのちょっと弱いくらいだ。
コイツの言う通り、これくらいの魔力差だったら、勝負はどちらが勝つかわからないだろう。
……相手が私じゃなきゃな。
「何で、あの子の護衛をしているのかわからないけど、できれば無駄な争いはしたくないの……手を引いてくれない?」
私にも攻撃魔法ぶっ放しといて何言ってんだコイツ?
ってかコイツ、私が魔王だって気付いてないのか?
それにしても、コイツの発言、あのガキの事何か知ってる感じに聞こえるな……
さて、どうすっかな?




