第四話 親権争い
「はあ……未来から来た裕美様のお嬢様、ですか?」
再び場所を移しての、魔王軍本部ビル。
多忙なヴィグルを捕まえて、事情を説明する。
まぁ、そもそもで美咲と幸に、あの辺の魔力異常を調べさせに向かわせたのがヴィグルなんで、多少忙しかろうが、話を聞くのが筋ってもんだろ。
あ、ちなみに美咲と幸は、ヴィグルへの報告を私に任せて、既に別の仕事を始めており、この場には同席していない。
「たしかに、まぁ裕美様に似ているとも思いますけど……本当なんですかね?」
何だその答えは!?そんな気の抜けた返答しやがって。
つうか何が『本当なんですかね?』だ?知らねぇよ!だって与えられた情報が少なすぎるし!事実かどうかがわからないから、とりあえずヴィグルのところ連れて来たんじゃねぇかよ!いつも通りな感じで!!
「まぁ見たところ魔力を持っているようですし、魔法関連ともなれば、魔王軍で保護するべきなのでしょうが……」
何だ?何か煮え切らない言い方だな。
「何か問題でもあんのか?」
「いえ……魔力持ちの保護者がいるのですから、魔王軍が出しゃばる必要が無いのではないかと思いましてね……」
魔力持ちの保護者?……ってソレ私の事言ってんのか!!?
嫌だよ!!何で産んだ覚えもねぇ自称娘を世話しなきゃなんねぇんだよ!
第一!面倒臭い事はヴィグルに丸投げするっていう決まりがあるだろうが!主に私の中で!!
「ダメだダメ!さっきも言ったけど、私は今、何者かに命狙われてんだぞ!そんな私の近くに、こんな子供置いとくわけにはいかねぇだろ!?」
何となくソレっぽい言い訳をしておく。
これに関しては事実なんだから、ヴィグルも文句は言えないだろう。
襲われた現場には、私だけじゃなくて幸や美咲もいたから、嘘じゃないっていう証言もバッチリだ。
「それって本当に、狙われたのは裕美様だったのですか?」
ん?どういうこっちゃ?だって魔法ぶっ放してきたのは魔法少女だろ?魔法少女が狙ってくる相手なんて、魔王である私くらいなもんで……
「現存する魔法少女で、いまだに裕美様を狙ってるような命知らずがいると思いますか?」
そりゃあいない……いや、いなくもない……かもしれない?と思う。
「ああ、裕美様……微妙そうなお顔されてますけど、間違いなくいませんから安心してください。今まで、どれだけ凄惨な事してきたか覚えてないのですか?自分がしでかしてきた事に自覚ありませんか?」
たしかに最近になって再会した、変身してない状態での正体がバレた魔法少女達、一様に皆『私=魔王』ってわかった瞬間に泣きだすレベルだったような気がしなくもないな……
「ともかく……長距離からの攻撃だったため、標的へピンポイントで攻撃は当てられる自信がなかったため、広範囲で魔法を放った可能性があり、裕美様を狙っての攻撃とは限らないのではないでしょうか?」
言われてみれば、あの場に居た全員が攻撃くらったわけだしな……いや、実際に攻撃くらったのは美咲だけで、あとは皆防御してたから実質ダメージ0だったんだけどな。
「つまるところ、あの場にいた誰がターゲットだったのかは定かではなく、確率的には全員が均等に同じパーセンテージで対象者の可能性があるのですよ」
そうかもしれんけど……ただ、まともに攻撃くらって、いきなり気絶した美咲は対象から外してやってもいいような気がする。
アレがターゲットだったら、わざわざ私達と一緒に行動してる時を狙わなくても、放っておけば勝手に単独行動しだしそうなヤツなんだから、そん時を狙えばいいだけだろうしな。
「しかし、これは私のただの勘ですが、今回ターゲットになっていたのは、この子だと思うのですよ」
「ん?ヴィグルが勘で答えるなんて珍しいな?」
ヴィグルの事だ、大抵は理論づけて答えを出しそうな感じはするのだけれど……
「詳しい事は何一つわからず、当人は記憶喪失。唯一もっている記憶が『裕美様の娘』。そして変身も何もしてないのに魔力を持っている……これ以上にきな臭いターゲット候補が他におりますか?」
……いねぇな。
マンガやアニメだったら、まず間違いなくコイツが敵の標的だろう。
ずいぶんと説得力のある勘だなオイ。
「そんなわけでして、最初から、この子が敵のターゲットになっていると仮定して行動しても、そう悪い結果にはならないでしょう」
「まぁ……言われてみれば確かにそうだな」
それに、もしターゲットが、やっぱり私でした~ってなっても、それはそれで「まぁいつもの事だな」で済むわけだし、幸や美咲だったら、あの程度の攻撃しかできないような敵相手なら、自分の身は自分で守れるだろう。
いや……美咲は変身する前に襲われたらヤバイかな?
でもまぁ、美咲がどこで野垂れ死のうが知ったこっちゃねぇから別にいいか。
「では、当初の予定通り、魔王軍で保護するのではなく、保護者に託しますのでよろしくお願いいたしますよ裕美様」
……ん?
「ちょっ……!?何でそうなるんだよ!!?」
油断も隙もねぇなオイ!?
ヴィグルのヤツ、私に世話を押し付ける気満々で話を持っていってやがったのか!?
ここでヴィグルに押し負けたら、確実に面倒臭い事になるのがわかってるから、絶対にそれだけは避けなくてはならない。
「『何で?』ですか?わかりませんか?魔王軍総出の戦力よりも、裕美様一人の戦力の方が高いからですよ。どちらの方がより安全かを考えれば、答えは明白だと思いませんか?そして、そんな裕美様は、この子の保護者として十分な資格まで持っている……他に考える余地はありますか?」
くそ!?魔王軍全員合わせても、私一人の方が強いって、事実なだけに反論が難しいぞコレ!?
「それに、私達だけでどうこう話すよりも、この子本人の意思も尊重するべきではないでしょうか?……お嬢さん、私達魔族と一緒に生活するのと、裕美様と一緒に生活するの……どちらがいいでしょうか?」
「お母さんと一緒がいい」
即答かよ!!?
そりゃあそうだよな。これくらいの子供だったら、まだ母親と一緒にいたいもんだろうしな。
汚い!!さすがヴィグル!汚すぎる!!
これ完全に、私逃げられなくなってんじゃねぇかよ!!




