エピローグ
「ユミぃ~……帰りたくないよぉ~……」
休日に、私の部屋へとやってきたリリーちゃんが、来るなり半ベソかきながら抱き着いてくる。
まぁ金髪美少女に抱き着かれるのは、悪い気はしないけど、状況がサッパリわからない。
「そういう訳にはいかないよリリー。ユミの懸賞金が取り消された今、キミが日本にいる理由がなくなってしまっているんだ。それに、いつまでも日本にいると、親御さんも心配するよ」
すかさず、私の部屋に居座っている畜生が声をかける。
なるほど、何となく事態を察せたぞ。
例のレイ様に命令されて、私を倒すためにリリーちゃんを魔法少女にしたものの、懸賞金ごとその命令も取り消されたから、用無しになったリリーちゃんを帰国させようって流れになってるけど、当のリリーちゃんはそれを嫌がってる、って感じかな?
金で釣って日本まで連れて来といて、事が済んだら「とっとと帰れ」とかゴミクズ思考だな浮遊狐。
「オイオイ……いきなり『帰れ!』は酷いんじゃねぇか?」
さすがにリリーちゃんが可哀想なので助け舟を出す。
「仕方ないじゃないか。懸賞金と命令が取り消されたから、日本での生活費も出せなくなったんだ……それとも、ユミが金銭面で彼女を援助してくれるのかい?」
「お願いユミ……ママも日本に呼ぶから……私達の生活の面倒……みてほしい」
なるほどなるほど。そういう流れになるのか……
「くにへ かえるんだな。おまえにも かぞくがいるだろう」
「何で……急に片言になったの……ユミ?」
うん、どうやらリリーちゃんにこの元ネタは通じなかったようだ……
いや、そんな事はどうでもいいか……
とりあえず、日本でニート生活したいだけの極潰しを養うほど、私の懐は温かくない。
「まぁ何だ……そういう事は私じゃなくて、そこにいるオッサンに交渉してみてくれ」
私はそう言いながら、先程から、私の勉強机の椅子に、偉そうに腰掛けて漫画を読んでいるオッサン……レイの方を指差す。
何でコイツがここにいるかというと、やんごとなき理由がある。
コイツ、この世界に来たのはいいが、深夜すぎてどこのホテルにも泊まれず、最終的には「エリカ、僕を泊めてくれないか?」とか言い出した上に、絵梨佳も絵梨佳で「仕方ないよね。困ってる時はお互い様だもんね」とか善人オーラ全開な発言をする始末。
そこで、絵梨佳の貞操の危機を救うため、私の所で強制的に引き取って今に至るわけである。
あ、もちろん就寝中に問題起こされないように、呼吸はできるヴァージョンの拘束魔法を使用してから眠りについた。
真夜中に「クソ!?何だこの複雑な術式は!?解呪できん!?」とか、常にブツブツ聞こえてはきたけれど、それはあえて無視した。
「オッサンとは失礼だな人間災害。僕はまだ30代だぞ」
花の女子高生からしてみれば、30代はオッサンだよ……ってか、30代で13歳の絵梨佳を口説こうとすんなよ!?やっぱロリコンじゃねぇかよ!
「あの……私……何でもするから……お金……頂戴」
おいおいリリーちゃん……誰彼構わず『何でもする』とか言うのは止めておけって。
「身の程をわきまえろ劣等種。我々の秘匿転移ゲートを使って帰国させてやるだけでも、ありがたいと思え」
そしてコイツはコイツで、相変わらずの自国民族中心主義っぷりだなオイ。
ってかリリーちゃんもけっこう美人だと思うんだけど、絵梨佳は良くてリリーちゃんがダメな理由は何なんだよ?
「ユミ……ユミに『自分を売り込めば、短時間で大金が手に入る』って聞いてたのに……ダメだったよ……」
リリーちゃん……私が言った冗談をまだ引きづってたのかよ……
「ユミ……キミってヤツは……」
「人間災害に認定されるだけはあるな……やはりエリカと違って姉の方はクズだな」
おい!?用済みのリリーちゃんをポイ捨てしようとしてるテメェ等にだけは言われたくないぞ!
よし!だったら私が、テメェ等と違って、薄情じゃないところを見せてやろうじゃねぇか!
「ちょっと待ってろよテメェ等。私は、やる時はやるってとこを見せてやるよ」
馬鹿共に一言放ってから、私はおもむろに携帯を取り出す。
電話をかける先は、もちろんヴィグル。
ん?それって結局ヴィグル頼りじゃないかって?
何が悪い!!
そして、すぐに電話に出たヴィグルへと、私は事情を説明する。
「……ってわけで、リリーちゃんを魔王軍に雇おうと思うんだけどいいよな?」
『いえ、人員は間に合っているので、これ以上はけっこうです』
え?まさかの拒否?
「断られているじゃないか。さっきの大口は何だったんだ人間災害?よく恥ずかしげもなく言えたな?」
即、外野からの野次が飛んでくる。
とりあえずお前は黙ってろ!
「ちょ……ちょっと待てヴィグル!?お前いつも忙しそうにしてたじゃん!?人手が足りてないんじゃないのかよ!?」
私は、ヴィグルが忙しすぎて死にかけているのを毎度目撃している。
それって仕事量と人員のバランスが悪いからじゃないのかよ!?
『足りていないのは、私やエフィさんのような立場の人員です。管理職の仕事をできる人でしたらいつでも大歓迎ですよ……例えば、裕美様とか?』
「いや……えっと……スマン、無理」
そういう話になると、何も言い返す事ができない。
『ご心配には及びませんよ裕美様。私も、ただ言ってみただけで、裕美様の返答は予想済みです』
つまり、馬鹿にされたという事かな?
「その意見は同感だな。人間災害は行動や言動が単純すぎて予測が容易で、実につまらん人間だ」
だから黙れよ、外野のおっさん!
『しかし、彼女が、魔王軍に入る意思があるというなら、一つ提案できる事はありますよ』
間髪入れずにヴィグルは話し出す。
『彼女、お住まいはイギリスなのですよね?イギリスにも、魔王軍から戦力の派遣はしておりますが、なにぶん給料とは別で、出張費や生活費を派遣魔族に支払っているのですよ……』
あ~……そういえば、各国に魔族派遣してたんだったな。
何?ソイツ等に、給料の他にも諸費用払ってたの?
『派遣員と同等以上の戦力があるのでしたら、現地住民を採用した方が、魔王軍の懐事情としてもありがたいのですが、どうでしょうか?……とりあえずの給料は月5,000ポンド程になりますが……』
「ユミ……今までありがとう……帰ったら手紙書くね……」
リリーちゃん変わり身早ぇな!?
来る時も金に釣られたけど、帰りまで金に釣られるとか、それでいいのか!?
『了承……という事でいいのですかね?では、そのように手続きしておきましょう』
ヴィグルはそう言うと通話を切る。
「金で釣るなんて、リリーを帰すためとはいえ、なんて非人道的な事をするんだいキミ達は!?」
黙れ浮遊狐!テメェにだけは言われたくねぇよ。
「ヴィグル……というのは、あの野蛮民族共を束ねてる奴か?中々な切れ者みたいだな……それに比べて人間災害……イキっていたわりに、お前は結局何もしてないではないか?」
うるせぇ!そこツッコむな!空気読め!
「いいんだよ!ヴィグルは私の側近なんだから、ヴィグルの功績は私の功績でもあるんだよ!」
言ってて、どっかのガキ大将感がしないでもないけど、そこは気付かなかった事にしよう……
「……それと、耳障り悪ぃから、私の事を『人間災害』とかいうダサい名で呼ばないでくれ」
とりあえずツッコミが入る前に、別の話題へと変えておく事にする。
「本名呼び捨てもテメェに言われるのはムカつくから、私の事は『魔王様』とか『魔王少女』とかって呼んでくれ」
そう、この世界での私の通称とも言うべき……
「『魔王少女』も随分とダサいと思うんだが?」
何か私の人生根本から否定された気分なんだけど!?
まぁいいか……こんな奴に否定されようが、私は私だ。
これからも、ただ『魔王少女』としての人生を歩んでいくだけなのだから……
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
とりあえずは、これで完結となります。
毎度の事にはなりますが、そのうち続きを思いついたら、連載を再会するかもしれませんが、なにぶん私の不出来な脳の気まぐれに左右されるので、確約はできません……
いつになるかはわかりませんが、もし再開していたら、その時もよろしくして頂けると幸いです。
それと、こちらも毎度の事なのですが、そのうち第五部でのキャラ紹介イラストページも投稿したいと思っております。
遅筆なので、いつになるかはわかりませんが、落書き絵でよければ、気が向いたら見ていただけると嬉しいです。
…と言っても、新規で描くのはリリーちゃんとレイ様くらい?




