第二十七話 レベル差
「さて……色々と仕切りなおすか」
そもそもで、私がここに来た理由は、魔法の説明会ではなく、ポチの暴走を止めるためなのだ。
せっかく気分がノッてきたのに、サクラに止められたせいで、また魔法の説明会になってしまったから、さっきまでのテンションに戻すのが難しそうではあるけれど……
とにかく気分を切り替えよう!
ええと?どこまで言ったんだっけか?
そうそう……初めてポチと戦った時、変身する直前にポチに言った「地獄を見せてやる!」っていうセリフの再現をしたところまでだったな。
何だろう?改めて、冷静に振り返ってみると、すげぇ恥ずかしくなってきたんだけど……
中二病の黒歴史ってこんな感じなのかな?
いや、でもさ、発言して数分後に黒歴史化して恥ずかしくなる、ってギネス記録狙えるくらいの最短時間なんじゃね?
……あ、うん、どうでもいいよね、そんな事。
「もう、こっから先、説明求められても無視するから、そのへんよく覚えとけよ」
念のため釘はさしておく。
説明したらしたで、ドン引きされるし、戦闘中断させられる度に私のテンションも下がっていく。
さっき、良い感じにノッたテンションも、あと一度でも止められたら維持できそうにない。むしろ私が恥ずかしい気分になってくる。
「つうわけでポチ。こっからは『ゲーム』じゃなくて、普通に『戦って』やる。さっきみたいに、反撃できるならターンとか関係なく、私に隙があるならいくらでも反撃してきていいぞ……できるなら、な」
多少強引ではあるが、さっきまでの空気に戻す。
ただ、観客してる2人が2人とも『空気読めない子』だから、いつ、この空気もぶっ壊されるかわからないのが不安ではある。
頼むから、少しは察してくれよ……
「普通に、か……できるのであれば、裕美殿の全力を味わいたいのだがな」
「それはお前次第だよ……言ったろ?『できるならな』って。全力を出さざるを得ない状況になれば、いくらでも出してやるよ」
まぁぶっちゃけて言えば、疲れる事はしたくない。
全力出さなくても勝てるなら、それで十分だ。
「マラソンの世界王者が、園児とマラソン勝負するようなもんだ……歩くんじゃなくて、ちゃんと走ってやるって言ってるんだから、それで妥協しとけよ」
「その過信が命取りになるぞ裕美殿。先程、その園児に突き飛ばされて、転んでいた世界王者の言葉とは思えんな」
すげぇなポチ……煽り言葉に、よく即席で煽り返せるな。
これも、幸との普段のやり取りの賜物ってやつなのか?
でもなポチ。
私の言葉が煽りっぽく聞こえたかもしれないけど、私は事実を喋っただけなんだよ。
私は変身した状態で、マジメに戦った事がない。
舐めプで遊ぶか、ゲームをするか、それくらいしかやっていない。
私の力を予想したんだろうけど、実力を見誤ったなポチ。
私が、普通に戦うって事が、どういう事なのか理解してないだろ?
「まぁ私の言葉を、どう受け取るかは自由だけどな。ただ、最後にコレだけは言っといてやる……こっから先、お前のターンは来ない。ここからは、ずっと私のターンだ!」
そう言うと同時に、ポチへと突進する。
魔力で超ブーストした踏み切り。初速でも音速を軽く超えている。仮に視認できたとしても、反応はできないだろう。
そして、その勢いのまま、ポチの右手を直接殴って消し飛ばす。
ポチの反魔法?
もちろん相殺している。
ミルフィーユ上等!
自動防壁の上に、速度に耐えるための二重防壁。その上には、攻撃のための魔力をまとい、さらにその上には、反魔法を相殺するための反魔法。
それらを、魔法同士が反発し合わないような、微妙なバランスで重ねて纏った状態で、ポチを殴りつけている。
こうする事により、相殺でお互いの反魔法が消えて、姿を現すのは……
ポチは無防備は生身の肉体。そして私は、魔力のこもったコブシ。
まぁ、攻撃用の魔力をまとわなくても、あの速度でなら、殴りつけるだけで十分だったかもしれないけれど、そこはオマケみたいなもんだ。
そして同じ要領で、ポチの右足も蹴り飛ばす。
「ぐっ……!!?」
右手・右足を失って、初めてうめき声を漏らすポチ。
ただ、さすがはポチである。
バランス崩れて倒れながらも、左足に魔力を込めて、私を蹴りつけてくる。
私は、その左足が届く前に、それに重力魔法をかける。
いつものように「死なない程度に」とか、考慮する事のない、手加減無しの重力魔法。
それを『左足』という一点にのみ集中する。
ポチの左足は、自らの意思に反するように、地に沈み、防壁ごと押し潰す。
もちろん、そこで終わりにする私ではない。
残った左手にも攻撃を仕掛ける。
一瞬、どう攻撃するか悩んだものの、観客にサクラもいるし、シンプルに風魔法を使ってみる。
サクラが使うと、軽い切り傷程度で済む物も、私が使うと御覧の通り、刹那の瞬間になます切りになります。
そんなわけで、瞬きする間にダルマと化すポチ。
これで終わりかと思ったものの、ポチは最後の悪足掻きかのように、腹筋する要領で飛び上がり、頭に魔力を込めて頭突きをしてくる。
いや、確かに、最初に戦った時、両手・両足使えなくなっても「まだやれるよな?」みたいな煽り文句は言った気がするけど、実際にやられると鬱陶しいな……っていうか、ちょっと引くわ!?
私は、弾丸の様に私へと向かってくるポチの頭をガッチリと片手でキャッチする。
「5秒も持たなかったな……これで満足かポチ?」
実際は何秒だったんだろう?コレで、実は5秒以上かかってたら恥ずかしいんだけど……
まぁ、そういう事には敏感にツッコミを入れてくるサクラが黙ってるって事は、問題ないんだろう。
ふと観客の方へと視線を向けてみると、2人とも口を半開きにして絶句していた。
ってか、2人とも、もしかしてドン引きしてる?
まぁ、よくわからんけど、口開きっぱなしにしてると、サクラよだれ垂れ流れるから気を付けろよ。
「かりそめの力に頼ってまで魔力を底上げしたが、まだ届かなかったようだ」
おっと、ポチが何か言い始めたぞ!?
観客に視線を送ってる場合じゃないな。何か言っとかないとな……
「かりそめがどうの、ってのは別にいいんじゃねえの?私だって変身してるわけだしな。あと、私が『普通に戦った』って事は、普通に『敵』として認識したわけで、今まで、この域に達したヤツは誰もいなかったんだ。そこは誇っていいぞ」
「ふっ……あわよくば裕美殿を倒せるのではないかと考えていたい自分が恥ずかしいな……だが、裕美殿と『戦えた』というのであれば、今はソレで満足だ」
うん、ひとまず満足したなら良かった。
たまにはガス抜きも必要だしな。
これで今後は、また、よっぽどな事が無ければ裏切らないだろう。
「まぁともかく何だ……再生魔法より蘇生魔法の方が楽だから、いったん殺すけど、どう死にたい?」
「そうだな……前回と同じように、一思いにやってもらえるとありがたい」
ええ~……前回と同じとか面白くなくない?
あ、別にポチのリクエストを聞く必要もないのか。
「ポチのおかげで、私も楽しめたから、素直に要望を聞いてやりたいところだけどな……魔王軍を一度裏切ってる事になってる手前、他の連中に示しがつかねぇんだ。観客にも被害者いるしな……悪いけど、少し我慢してくれ」
そして、有無を言わさず、ポチの魔力回路に少量の反魔法を流し込む。大量に流し込むと、下手したら蘇生魔法を弾いてしまう恐れがあるので、あくまでも、ポチが魔法を制御できなくなる程度に、である。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
ポチの断末魔と、大量の血が漏れる。
ポチは、さっきまで、強化された魔力を活かして、血止めしたうえで、痛覚を魔法で遮断していた。
それを、反魔法でかき消したのだ。
私が手を離す事で、血だまりへと沈んでいくポチ。
一部始終を見ていて、相変わらず、口半開きでドン引きしている観客2人。
「サクラよだれ……」
「垂れてない!!!」
ツッコミ早ぇよ!?最後まで言わせろよ!?
 




