第二十五話 ゲーム?戦闘?
「さぁ、魔法の説明は終わりだ。さっさと戦いの続きするぞ」
長々と話していたら、時間かかってしょうがないので、この話題に関しては打ち切っておく。
っていうよりも、もう深夜も深夜。普段でも、もうさすがに寝ている時間なのだ。いくら、明日休みだからといっても、そろそろ本気で帰って寝たいので、色々と巻きで行きたい、というのが本音だ。
「ってわけでポチ。お前の攻撃はコレで終わりか?何だったら、もっと色々やってきてもいいぞ。お前が望んだ戦闘なんだ。悔いは残さないようにしとけ」
こうやって、攻撃のたびに会話してるのを『戦闘』って分類していいのかはわからんけど……まぁ、私にとってはゲーム感覚だ、って最初に言っといたから別にいいかな?
「気遣いは無用だ。効果が無かったとはいえ、一撃は一撃だ。次は裕美殿のターンでかまわん」
律儀なヤツだなぁ……ってか、このゲーム感覚の戦闘、不満そうだったのに、それでいいのかよ!?
まぁポチがいいなら、それでいいか。
それはともかく、どうやってポチを攻撃しようかな?
反魔法使われると決定打が無い、とかそういう訳じゃないんだけど、何と言うか、どう魅せたら楽しいだろうか?というかカッコよく見えるだろうか?
……あ!相手がやってきた攻撃を瞬時にコピーして返す、とかカッコいいんじゃね?
よし、んじゃあ早速、さっきポチがやった攻撃方法試してみるか。
えっと……反魔法が相殺された瞬間に、魔力込めて寸勁っぽい感じでやればいいんだよな?
魔法でも何でもない、武術技術は、ただの女子高生レベルな私に、出来るかわからんけど……まぁ普通に考えて無理だろうけど、試すくらいはやってみてもいいだろう。
「よし!じゃあいくぞ。覚悟しろポチ!」
私は、反魔法を纏っているであろうポチの右手へ殴りかかる。
しかし、その攻撃は、振り上げたポチの右足の脛に防がれる。そして反魔法が相殺される感覚……もしかしてポチのやつ、右足でも反魔法使えんの?
おっと……無駄な事考えてる暇はない。
ポチが右足で反魔法使えようが使えまいがどっちでもいい。とにかく、反魔法が相殺されたのなら、やる事に変わりはない。
すぐに、コブシに魔力を込めて……
「とったぞ!裕美殿っ!!」
突然のポチの声と共に、頬に衝撃がはしる。
色々と考えながら行動していたとはいえ、別にモタモタしていたわけではない。
ただ、私の、そんな一瞬の隙をつくようにして、ポチは私にカウンターを仕掛けてきたのだった。
いやぁ~……身体全体で反魔法纏えるってのも考え物かもしれないな。
普通に考えれば、反魔法なんて使えるヤツはそうそういないから、相殺される事を前提とはしてないんだけどね。
そんなわけで、私の場合、反魔法が相殺されると、身体全体を覆っていた反魔法が消えてしまう。
対してポチは、右手と右足でしか反魔法扱えないのもあってか、どちらも独立して展開できていたのだろう……片方が消えても、もう片方は残っていたのだ。
そして、そんな『反魔法が残った右手』によって、私は攻撃を受けたのだ。
私の反魔法は消えた状態で……さらに、ポチの反魔法によって、自動防壁を消されてしまった状態で……
消されたとしても、反魔法はすぐに張りなおす事もできる。
しかし、それには、思考して行動するまでの、わずかな……本当に極わずかな時間が存在する。
ポチには、その一瞬を突かれたのだ。
上手いなポチのヤツ……その一瞬の隙をつくために、最初っからカウンターに狙いを定めてたんだろうな。
だからこそ、私のゲーム感覚の戦い方に合わせたフリして、私に攻撃の手番を譲ったんだな……ここぞとばかりにカウンター狙いやすい、おふざけのような攻撃を私がしてくるってふんで……
そんなわけで、反魔法も自動防壁も失った状態で、ポチによって頬を全力でぶん殴られた私は、その勢いのままに、吹っ飛ばされて地面に倒れこむ。
「え?うそ……お姉ちゃん?……お姉ちゃん!!?」
「嘘でしょ?……アイツが、ヤガミなんかに……」
絵梨佳の叫び声と、サクラのつぶやきが聞こえる。
二人とも、目の前で信じられない事が起きたような声を出している。
ポチの攻撃は、反魔法を纏っていたせいで、魔力も何もこもっていない、通常の打撃ではあったものの、人をぶん殴る魔法を得意としており、普段から身体鍛えている戦闘狂な成人男性の一撃であり、対して私は、魔力は飛びぬけて強いが、反魔法や防壁が無ければ、ただの女子高生と何ら変わらない身体である。
そう……防壁が無ければ……
ついでに言うと、魔力付きじゃないポチの攻撃でも、防壁無しで喰らうと、どれくらいのダメージがくるかっていうのは、サクラがゲロ吐いて実証してくれている。
「我を甘く見過ぎたな裕美殿。裕美殿の恐ろしさは、驚異的な魔力量と、驚異的なまでの魔力操作技術だ……ソレを剥いでしまえば、裕美殿といえど、その辺の小娘と変わらなかった、という事だ」
高説垂れ流しながら、倒れている私へと近づいてくるポチ。
「我の勝ちだ裕美殿。我の言う通り、最初から本気を出さなかった己を恨むがいい……フ、フフフ……」
「「フハハハハハハ!!」」
笑い声がハモる。
一人はポチ。そして、もう一人の笑い声は、もちろん私だ。
笑いながら勢いよく起き上がる。
そんな私に、信じられない物を見る目を向けてくるポチ。
一瞬にして笑い声が止まっていた。
「いいぞ!いいぞポチ!!変身前の私に初めてダメージ与えたのもお前だったよな?最高だよポチ!お前はいつも私の期待以上の事をしてくれる!」
久しぶりに『言ってみたいセリフ』を言える喜びで、無駄にテンションが上がる。
「私の反魔法と自動防壁を突破するヤツが出てくるとは思わなかったぞ!褒美として全力を出して相手してやろう!」
コレだよコレ!
無敵のラスボスの攻略法がわかって、勝てる!と思った瞬間の、更にその先があるって展開。
普通に、魔王として戦闘してると、絶対に言う機会ないだろうと思ってたのに、まさかそんな機会があるとは夢にも思っていなかった。
「覚悟しろポチ……地獄を見せてやる!」
 




