第二十四話 反魔法合戦
真夜中の静かな空間でポチと対峙する。
空気を読んでか、サクラも絵梨佳も、何も言わずに事の成り行きを見守っているようだった。
「エフィに聞いたけど、反魔法の攻略法に気付いたんだって?よくわかったな?」
いきなりやり合うのも無粋かな?と思いポチに話をふってみる。
「数日前に、反魔法が効いている部屋で、捕虜の異世界人に、裕美殿が魔法を放っていただろう?あの部屋では、例え裕美殿でも魔法を放った瞬間にかき消されるハズなのだが、そうはならなかった……そこで『反魔法の効果を反魔法で中和している』という事に気付いたのだ」
ポチも話にのってくる。
にしても、あの時気付いたのか……あそこで魔法使ったのは、ちょっと早計だったかな?
「あとは反魔法を習得すればいいだけだった……反魔法は裕美殿の近くで常に見ていたので原理は何となく理解できていた。とはいえ、習得は困難ではあったが、エフィも習得できたのだ。我に出来ない道理はない」
すげぇ自信だな。
まぁでもポチらしいっちゃポチらしいな。
「……裕美殿はエフィから話を聞いているのであろう?ならば、その事で我を咎める事はせんのか?」
そうだな。私の部下でもあるエフィを襲ったんだ。普通に考えれば、私への反逆行為としか思えないだろうけど……
「どうせ何かしら屁理屈な言い訳でも用意してんだろ?」
「エフィとは、裕美殿とは全然関係ないところで、意見の食い違いで、少々じゃれ合っただけで、裕美殿に反旗を翻した訳ではない、と思ってもらえればよい」
やっぱりスゲェ屁理屈用意してたな……まぁ予想通りな感じだけど。
「あ~何だ……ポチの目的っていうか、何がしたいかってのは、これでもかってくらいには理解したわ」
まぁ最初からわかってはいたけどね。
「話はこの辺にして、お望み通り、さっさとおっぱじめるか……」
私はそう言うと、さっそく、そこそこの魔力を込めた、魔力の矢を放つ。
けっこう前に、エフィの反魔法で消されたやつのよりも数倍の魔力を込めた矢だ。
「っち!?」
「ちょっ!?待って!!?アンタ馬鹿なの!?」
ポチの舌打ちと、サクラの罵声が同時に耳に入ってくる。
まぁそうだわな。
着弾すれば、たぶんこの町が全部吹っ飛ぶだろう。
ポチは避けたところで、この魔法の余波と爆風で、防壁ごと吹っ飛ばされるだろう。
受けても避けても、この町と住民を犠牲に、ポチの今回の暴走はすぐにでも解決する。
それを回避する方法はたった一つ……
ポチは、迫りくる魔力の矢に右手を伸ばし、その魔法をかき消す。
「ふ~ん……右手伸ばして魔法をかき消したって事は、身体全体に反魔法をまとえてるわけじゃねぇんだな?」
この現場に到着した時、ポチが絵梨佳の魔法を消すのに、右手で絵梨佳の手を掴んでるのを見たから、何となくはわかってたけどね……
そりゃあ、私の最高傑作と言ってもいいような魔法を、簡単に完コピされちゃってたら立つ瀬なくなっちゃうしね。
「そ……それを確かめるためだけに、この町消滅させる可能性ある事したの!?やり方なんて、他にいくらでもあるじゃない!?頭おかしいわよ!狂ってんのアンタ!?」
「黙っていろ小娘!……さすがだ。さすがは裕美殿だ!行動に躊躇が無い!いきなりコレは、さすがに予想できなかった!それでこそ我が主と認めた人だ!」
怒り出すサクラと興奮するポチ。
ある意味2人とも鬱陶しいな……まるで私が狂人みたいじゃないか?
そして、魔法少女になって日の浅い絵梨佳は、事態を理解できてないらしく、一人ポカーンとしている。
……魔力は高いんだけど、やっぱ経験が足りてないんだろうな。
「わかったわかった……勝手に興奮するのはとめねぇから、戦いの手も止めんなよな……ってわけで私のターンは終わったから、次はポチが攻撃してこいよ」
私がそう言うと、途端にポチの顔から、興奮した笑みが消える。
「裕美殿……我は、裕美殿との本気の戦いを望んでいる。ゲーム感覚でいるのはやめてもらいたい」
もう完全に戦闘狂のセリフだな。私の制裁に対しての正当防衛、っていう設定はどこ行ったよ?
「どう戦うかは私の自由だろ?それに、昔言ったろ?この姿で戦う時は、私も少しは楽しみたいんだ。あっさりと終わったらつまんねぇだろ?まぁでもアレだ……あの時みたいに、名前すら知らないような関係じゃないわけだから、サービスとして、私が本気を出してもいいような攻撃してきたなら考えてやってもいいぞ」
「その言葉……忘れないでもらおう!裕美殿!!」
これまた途端に、やる気になったポチは、凄まじい速さで私との差を詰めてくる。
魔力が上がってる事もあってか、今までの比じゃないくらいに速い。
その速さのまま、渾身の右ストレートで私の顔面を狙ってくる。
右手に反魔法を纏ってるあたり、本気で私を殺しにきてるな。
私はポチの攻撃を棒立ちの状態で受ける。
なるほどね……エフィがやられたのはコレか。
ポチのやつ、お互いの反魔法が相殺で消えたタイミング……刹那ともいえるような瞬間に、コブシに魔力を込めてやがる。
エフィは、反魔法が消えて無防備になった左手を殴り飛ばされて、一発で使い物にならなくされたって感じかな?
まぁ、それでエフィは何とかできたのかもしれないけどね……
「恥を忍んで尋ねたい。反魔法を相殺した手応えは確かにあった……何故、我の攻撃は通じてないのだ?」
反魔法は、他の魔法と違って、魔力の大小は関係ない。
一般的な魔法では、魔力を込めれば込めるほど、強力な効果を発揮する。弓矢の魔法を、普段美咲が使う場合と、さっき私が放った威力の差の様に、単純な魔法でも、魔力の込め方一つで威力は変わってくるものである。
しかし、反魔力に関してはそんな事は絶対にない。
反魔法は、あくまでも『魔法を打ち消す魔法』であって、そこに威力の大小は存在しない。
つまるところ「私の方が魔力高いから、より強い反魔法使えるから、ポチの反魔法じゃ相殺しきれてないんだよ~」みたいな事は絶対に無いのだ。
反魔法同士がぶつかり合えば、例え私が使う反魔法でも、相殺して消えるのだ。
そして、反魔法を纏っている以上は、他の魔法は消される。
だからこそエフィは、反魔法が消えて、防壁魔法のない無防備な状態で、魔力付きの攻撃をくらって、かなりのダメージを受けたのだろう。
「裕美殿は魔法に関してはズバ抜けて凄まじいが、反射神経に関しては人並みなハズ……反魔法が消えてから、我が攻撃をあてるまでの、極々僅かな瞬間に防壁を張れるほどの反応速度を、今まで隠していたとも思えん……」
だろうね。
当然の疑問……反魔法扱っているからこそ……反魔法の特性をよくわかっているからこその疑問。そして、普段の私を見知っていればこそ、浮かんでくる疑問でもある。もちろん私は、超人並な反射神経は持ち合わせていない。
でも、答えは至って簡単なんだ……
「私の防壁は消えてねぇんだよ……何つうの?防壁にギリギリ触れないような感じで、それを覆うような?えっと……感覚でやってるから説明が面倒臭ぇな。身体を守る『防壁』っていうシーツを被って、その上にさらに『反魔法』っていうシーツを被る?みたいな感じか?」
どうやってやったらいいか?って聞かれたら「何となく感覚で」としか答えられない事の説明ってしにくいな。
「とにかく……反魔法を消しても、その下には防壁が残ってるってわけよ。んで反魔法が消えてから瞬時に込められる程度の魔力じゃ、私の防壁はビクともしねぇってわけ。特に変身した状態の防壁は、な」
変身前なら、少しは効果あるかもしれないけどね。
「凄まじい……そこまで緻密な魔力操作を、いとも簡単に……より一層、裕美殿の、見えない底を見たくなったぞ」
驚愕しながらも、嬉しそうな表情をするポチ。
ビビるならもっと普通にビビれよ。何で喜んでんの?実は超絶なマゾなのかポチ?
「……ミルクレープか何かかよ?」
そして、私の説明をちゃっかり聞いていたサクラがボソッとつぶやく。
そういう事言うのやめろよ!?カッコよくきめたのが台無しだよ!?
空気読めよサクラ!




