第十八話 天然リリーちゃん
日常において、学校生活というのは、そこまで代わり映えなどしないと思っている。
だからこそ学校行事というのは印象に残りやすいわけで、毎日イベントが起こったら、それはそれで印象が薄くなるだろう。
何が言いたいのかというと、学校生活というのは、何も無い日常を楽しむものであって、毎度毎度特別なイベントが発生する事は望まれてはいないのである。
「ねぇユミ……お金……貸してほしい」
だからこそ、昼休みに、金髪美少女が学校まで私を訪ねてやって来る、なんて特殊すぎるイベントの発生など、私はまったくもって望んではいないのである。
ええと……まずはどこからツッコミ入れるべきだろうか?
問答無用で部外者が校舎内に入ってきてる事?何故か私に金借りに来てる事?それとも、美咲がリリーちゃんを案内してきた事?
「あ、裕美さんがまた幼女はべらしてる!」
「え?またですか?裕美様、ほどほどにしておかないと、そのうち本気で刺されますよ」
目ざとくリリーちゃんを見つけたミキちゃんと幸が何か喋りながらやってくる。
呼んでねぇよ!帰れ!!
「とりあえず馬鹿共は無視して、どうしたよリリーちゃん?浮遊狐から支援打ち切られたのか?」
金を借りるために、私を頼ってくるってなると、考えられる理由はこんなもんしかないだろう。
「ううん……生活費は……変わらず貰ってる…………それとは別に、日本の漫画面白いから……買って帰りたいな……って」
ただの娯楽費が欲しいだけかよ!!?
「いや、ちょっと待て!?浮遊狐の翻訳魔法って文字には効果ないんじゃなかったのかよ!?日本に売ってる漫画なんて全部日本語表記だぞ?買って帰っても読めないだろ!?」
ノゾミちゃんちのメニュー表すら読めない人間が、漫画なんて読めないだろ!?そんなモン買っても意味ないんじゃね?
「私の喉と鼓膜に、妙な魔力反応があったの……それ解析したら、それが翻訳魔法だったから……同じ効果の魔法を眼球にかけてみたら……日本語読めた」
随分とレベル高ぇ事してんなリリーちゃん……
そういや浮遊狐が、今まで制限があって勧誘できなかった、海外での才能ある人物の第一号がリリーちゃんなんだから、それくらいの芸当もできるのか。
「私の国でも……翻訳された本が発売される事はあるけど……日本だと翻訳より早く原本読めるから……気になる漫画は全部欲しい」
けっこうガチ目なオタクだなリリーちゃん。
そういや、翻訳待たずに最新話を読むために日本語を覚えようとする外人が多いって話を聞いた事があるような気がするな……リリーちゃんもそのタイプの人間か。
「リリーちゃん……漫喫行け!」
とりあえず最適解だけは伝えておく事にする。
「なぁ裕美。この子誰?」
リリーちゃんとの会話が途切れるスキを狙うようにして美咲が口を開く。
リリーちゃんをここまで案内してきたヤツが何を言ってんだ?知らないのに不審人物連れてくんなよ!?
「いやさ、その辺の廊下フラフラしながら『この辺に……ユミの魔力反応があった……どこにいるか知ってる?』って言うから、ここまで案内してきたんだけどさ」
私の表情を見て、何を考えてるのかなんとなく予想できたのか、今更状況説明をはじめる美咲。
遅ぇよ!!
「魔力云々とか平気で言うって事は、何かヤベェやつだろ?裕美が嫌がる系な?だから何も聞かずにつれて来たんだよ」
「聞かずにつれてくんなよ!!?バカかお前は!?」
あ、美咲バカだったわ……
「だってほら、聞いたら巻き込まれそうじゃん。アタシは一歩引いたところで裕美が困るの見てたいから」
知ってたけど、とんだクソアマだな美咲。
「リリーちゃんは、わた……魔王を倒すために海外からわざわざやって来た、新しい魔法少女だ」
学校にいる事を忘れて、思わず『私を』とか言いそうになったけど、慌てて『魔王を』と言い換える。
危なかった……やっぱバカを相手してるとペース乱されるな。
まぁともかく、美咲にリリーちゃんを紹介する事で『知り合い』レベルにはなっただろうから、一人だけ『我関せず』は通用しなくしておく。
「魔王様を倒そうとしてるって事は……つまるところ敵って事ね」
「敵ですね」
そして黙って話を聞いていたミキちゃんと幸が、ここぞとばかりに反応してくる。
頼むからお前等永遠に黙ってろ!話がややこしくなる。
「もう……魔王討伐は諦めた…………『魔王』なんて言われてるけど……いい人だって……わかったから……私、ユミ好きになった」
うおおい!!?『魔王』で話始めたなら最後まで『魔王』で通せよ!?何、最後に『ユミ』とか言っちゃってんのこの子!!?
「ま……魔王様の良さがわかったって事は、この子良い子ですね!」
「そうね良い子ね……でも裕美さんを好きになるのは、人格を疑われるからやめた方がいいわよ」
ナイスフォローだ幸!
咄嗟の一言のおかげで、とりあえずはミキちゃんからツッコミが入るのは避けられたようだ。
……でもミキちゃん、私を何だと思ってるの?人格否定するレベルなのか私!?
「私……ユミの事褒めたよ……だからお金頂戴」
ってリリーちゃん、金貰うために私の事煽てただけかよ!?人間不信になるぞ私!?
というかリリーちゃん、漫喫行けって言った私の言動ちゃんと聞いてた?
いや、それよりも、最初は「お金貸して」だったのが「お金頂戴」になってね?
ここはキチンと、私はお金やらんぞ!ってのを言っておいたほうがいいな……
「リリーちゃん、私にお金せびるよりも、その辺にいる金持ってそうなオッサン捕まえて、自分を売り込めば、短時間で大金が手に入るぞ」
なぁに、天井のシミを数えてる間に終わるよ……グヘへへ
「そうなの?……教えてくれてありがとう……やっぱりユミ……良い人」
……え?アレ?何でリリーちゃん目から鱗みたいな顔して教室から出て行こうとしてるの?お姉さんツッコミ待ちなんだけど?
「裕美様……今のはちょっとフォローできないですよ」
「最低ね……裕美さん」
「とんでもなくゲスいな裕美」
違う方向から罵声を浴びせられる。
チクショウ!言い訳できねぇ!!
「待てリリーちゃん!金やるからお姉さんと寝よう……じゃなくて!!早まるな!!もっと自分を大切にしろ!!」
急いでリリーちゃんを引き留める。
天然なのかこの子は!?何か色々と心配になってきたぞオイ!
 




