第十六話 謝罪
「悪かったッス!!」
店内にノゾミちゃんの謝罪の言葉が響き渡る。
「あん時は、本当に頭に血が上ってたっていうんスか?2人とも魔力持ちだったんで、てっきり仲間かと思ったんスよ!」
何でリリーちゃんが、ノゾミちゃんに命乞いしてるのかを説明し、その時の事を詳細に教えてあげたところ、ノゾミちゃんによる謝罪と言い訳タイムと相成ったわけである。
「希美……ちょっと力を手に入れたからっていって、すぐ暴力で解決しようとするのよくないわよ。その力を使いすぎて、一度痛い目見たの忘れたの?……それに、昔、何で魔族の事を憎んでたのか覚えてないの?」
そして、客がいない店内で話していたため、がっつりと会話内容を聞いていたノゾミちゃんの母親によるマジ説教も実施されていたのである。
でもおばちゃん……再生魔法使ったせいで、魔力切れ起こして消滅しちゃったのは、ある意味で別のノゾミちゃんだから、今いるノゾミちゃんは、一度痛い目見たの『忘れた』ではなく、『知らない』ってのが正解なのかもしれないよ。
あ、ちなみに『ノゾミちゃん消滅事件』について、ノゾミちゃんの両親には真実を話してはいない。
ノゾミちゃんから「両親を心配させたくないから誤魔化してほしい」って要望があったから、というのもあるけれど、今のノゾミちゃんは、本体から分離しただけといっても、ある意味で本物のノゾミちゃんとは違う存在といえなくもない。
そんな事を聞かされたら、ノゾミちゃんの両親はどう感じるか?今のノゾミちゃんを見て、どういう感情を抱くのか?その辺の反応が読めなかったので、真実を伝えてはいなかった。
ノゾミちゃんの両親に話したのは、『普段使い慣れていない強力な魔法を使ったせいで魔力が暴走した結果、異空間に引っ張られて、魔王に発見されるまで異世界をさ迷っていた』ってな感じで、それっぽい事を適当に並べた嘘を説明している。
まぁ世の中には、知らない方が幸せに過ごせる事もあるって事だね。
「片手無いのが、どれだけ辛い事か、希美自身が一番よくわかってる事でしょ?」
「……返す言葉がねぇッス……」
そんなわけで、母親による説教が続いているのだった。
「そうだぞ。暴力はよくないぞ。そういうとこだぞノゾミちゃん」
とりあえず、放置されているのは癪なので、おばちゃんの援護射撃と言わんばかりに、ノゾミちゃんへの説教に加わってみる。
「どの口がソレをほざくんスか!?暴力云々に関しては、裕美さんにだけは言われたくねぇッス」
だよね。私も言ってて「これ絶対ツッコミ入るぞ」って思ってた。
「リリーちゃんだっけ?ごめんね。うちの子が酷い事しちゃって……」
そんな私の発言は相手にする事なく、おばちゃんはリリーちゃんへの謝罪を続けている。
私に付き合っていると話がこじれて長くなる、って事をわかっているあたり、おばちゃんも私の扱い方慣れてきたんだなぁ……
「えっと……手、治ったし……殺されたりしないなら……それでいい……」
殺されなければいい、って……どんだけリリーちゃんの心にトラウマ植え付けたんだよノゾミちゃん。
「ありがとねぇ……こんなのがお詫びになるかわからないけど、ウチの料理、お金はいらないから好きなだけ食べて行ってね」
リリーちゃんに許され、店にちょこちょこ客が入って来た事もあり、おばちゃんはそれだけ言って厨房へと戻っていく。
「いや、ホント悪かったッス!それに、これ以上リリーさんに危害を加えようとは思ってないんで、その辺は安心していいッス」
おばちゃんがいなくなって、改めてリリーちゃんに謝罪するノゾミちゃん。
「殺されたりしないなら……それでいい……御飯も無料で食べられるみたいだし……」
現金だなリリーちゃん……ってか殺されかけたのに、その程度で許しちゃっていいのか?
「それにしても……魔法少女って事は、毎度の事ながら裕美さんを倒しに来たんスよね?私以上にゲスい裕美さんと戦うつもりッスか?」
『私以上にゲスい裕美さん』って何だよオイ!?サイコパスノゾミンに言われたくないぞ。
「元々はそのつもりだった……でも……ユミとは戦いたくないから……懸賞金は諦めて……旅行来たつもりで……もう少し日本を堪能して……帰ろうと思ってる」
適当だなぁリリーちゃん……まぁ交通費無料な上に、魔力を強くする自主練してれば日給1万出るんだから美味しいわな。
私をどうこうするって目標が無くなったなら、金もらって観光してるようなもんだしな。
「そういえば、裕美さんにかけられた懸賞金っていくらなんスか?」
おうっと!?ノゾミちゃん、ソレ聞いちゃう?
「……日本円だと……5兆円くらい?……だと思う」
「……………………」
リリーちゃん馬鹿正直に答えちゃうんだ……んでノゾミちゃん、何で黙るよ!?
「裕美さん……私、頑張って蘇生魔法習得するんで、いっぺん死んでみないッスか?」
ノゾミちゃん、目がマジだな……
金の魔力恐るべしだな。人の心を狂わせるのにマジもんの魔法の力は必要ないってのを改めて実感したような気がするぞ。
「それはいい考えね。コイツは一回くらい死んでみた方がいいのよ」
突然後ろから第三者の声が聞こえてくる。
ってかこの声、聞き覚えがあるぞ……いつの間に店に入ってきたんだよ?
「あれ?サクラさん。一人で来るなんて珍しいッスね」
私が返事をするよりも先に、ノゾミちゃんが反応する。
「ちょっとコイツに……まぁ正確にはコイツの妹に用事があったんだけど、家に行ってもまだ帰ってきてなくて、探そうにもあの子変身しないと魔力持ってなくてサーチに引っかからなくて……だからわかりやすくサーチにかかってくれるコイツに会いに来たのよ」
何だよソノ「別にアンタに会いたかったわけじゃないんだからね!」みたいなツンデレ言い訳?
別に私にデレてるわけじゃないんだから、変なニュアンスで喋るのやめろよ。
にしても家に絵梨佳いなかったのか……って事はまた真衣ちゃんと遊んでんのかな?
……で?だからといって、何でサクラは私のところに来てんだよ?
「絵梨佳、魔王軍支給のスマホ持ってるハズだぞ……連絡したのか?」
「…………あ」
その反応からすると、ガチで忘れてたのかよコイツ!?
魔王軍としてコイツ雇ってて本当に大丈夫か!?




