番外編2 ~17人目の魔法少女 part2~
日本へとやって来た。
飛行機にも船にも乗らずに……私はどちらも、今まで乗った事がなく、一度くらいは乗ってみたいと思っていたのだけれど、乗る事無く海を渡ってしまっていた。
特殊な転移ゲート、という物を使ったらしいのだが、あまりにも、あっと言う間に到着してしまったので、本当に日本に来たのか、いまいち信用できない。
たしかに、夜中から夕方に変わったので、時差はあるのだろうし、周りの建物や人種も違うので、もしかしたら本当に、日本に来ているのかもしれない。
でも、周囲の人々が話しているのは英語だし、私自身英語しか喋れない。
そのあたりの理由で、私は本当に日本に来ているのか疑わしくなっている。
実は、大規模なドッキリ企画なのかと思ってしまう……まぁ私をドッキリにかけて、誰が楽しむのかよくわからないのだけれど。
それはともかく、言語が通じ合えるのは、魔法の力だと妖精さんは言っていた。
こんなあっさりと言語の統一化ができるなんて、魔法の凄さを実感した気がする……後で神様にバベられたりしないだろうか?
「それじゃあ、1日分の宿泊費と食費として1万円渡しておくよ。毎日、これくらいの時間になったら、都度経費を渡しにくるから……変身さえしていてくれれば、魔力を辿って来れるから、この時間帯……夕方くらいには常に変身しておいてほしいんだ」
妖精さんから業務連絡が語られる。
「渡す金額は、成果によっては上下する事もあるから気を付けて欲しいんだ。毎日何もしないでいると減る事になる……まぁ少しでも、魔王と戦うための魔力研磨に時間を使ってくれていれば減る事はないだろうから安心してほしい」
「え?……すぐに魔王と戦わなくて……いいの?」
日本に滞在するのは、魔王を探し出して戦うまでの期間だけだと思っていた。
「魔力操作も慣れてないうちに魔王に挑んでも倒せるわけないじゃないか……ここには魔族っていう、いい実戦相手もいるから、魔王に挑むのはキミ自身の魔力を高めてからにしてほしい」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
魔力を持って戦う力を得たからって、いきなり魔王を倒せるんだったら、もう既に魔王は討たれているだろう……でも、何か思ってたのとちょっと違う……
「えっと……じゃあ……魔王の居場所を突き止めたりするのは……やっていいの?」
「居場所も何も……別にどこかに隠れ住んでるわけじゃなくて、魔王、普通の一般家庭に住んでるよ……むしろ、僕の今のメイン任務が『魔王の監視』だから、魔王と同居しているようなものだからね……だから、キミが魔王と戦えるレベルになったら紹介するから、それまでしっかりと魔力を磨いておいてほしいんだ」
思っていたのと『ちょっと違う』どころか『だいぶ違って』いた……イメージ!?魔王のイメージが台無しだよ!?
「ああ、それと……コレもキミに渡しておくよ」
そう言って差し出してくる妖精さんの手には、何やらカードのような物が握られていた。
「……コレは?」
「キミの、特別永住者証明書さ。もちろん偽造だけどね。身分証明が必要な時はコレを出すといいよ……それと、お金を使ったら、可能な限り領収書をもらってほしいんだ。キミに渡すお金は、いちおうは経費扱いだからね」
……大丈夫なのかな私?変な組織に騙されてたりしてないよね?
『魔法』とか『魔王』って単語以外にファンタジー要素が皆無なんだけど?
ともかく私は、その日、偽造品で身分を証明してホテルをチェックインして、領収書をもらって宿泊したのだった。
そして、翌日から私は本格的に魔法の特訓を開始した。
特訓とは言っても、ただ変身して色々と試しているだけなのだけれど……
ただ、試した結果、色々とわかった事もいくつかあった。
一番重要なのは『ずっと変身していられない』という事だ。
変身し続けていると疲れるのだ。肉体的ではなく、精神的に、である。
これは慣れなのかもしれないが、長時間変身していると『変身解除して楽になりたい』という思考になってしまう。
たぶん、その変身解除欲求も我慢していれば、もっと長く変身していられるのだろうけど、私はそんなに我慢強くないので、変身解除欲求には素直に従っている。
あと、我慢してると、何か身体に悪そうな気もするので……自分の身体はとことん甘やかす主義だから、私。
そして、わかった事で、もう一つ……『私は意外と強い!』という事である。
サーチ魔法で、周囲100㎞圏内を見てみた結果、ほとんどの反応が私の魔力以下だった。
私と同等くらいが4つ。そして私以上の魔力反応は1つだった。
妖精さんの話では、「魔王は変身しなくても強い魔力を持っているけど、変身すると手を付けられない魔力量になる」との事だったので、私がサーチした魔力反応のどれかが魔王なのだろう。
一番強い魔力反応が魔王のようにも思えるけれど、そんな単純だとも思えない。
というか、変身するとさらに魔力が跳ね上がるのに、変身前から私以上の魔力を持たれてしまっていると心が折れそうなので「魔王であってほしくない!」という願望でもあるのかもしれない。
でも、あの一番強い魔力反応が『魔王ではない』とした場合、『あのレベルの魔力があっても魔王を倒せない』という事でもあるので、何とも複雑な心境になってしまう。
あ~!ダメダメ!ごちゃごちゃ考えるのはもう止めよう!私は500億ドルのために、とにかく強くなればいいだけなんだから!
「お嬢さん。ちょっといいかな?」
突然声をかけられる。
時刻は夕方、その日の生活費を妖精さんに貰おうと、変身して立っていたところだった。
人通りの無い路地で、緑髪した異国の少女が一人立っているのは、そんなに不審だったのだろうか?
私は、念のため、身分証明書をしまっている位置を手で確認しながら、ゆっくりと振り返る。
「キミ、けっこう強い魔力持ってるみたいだけど、強化石使い?人間災害について何か知ってる?それとも関係者かな?」
言葉の意味がわからない……もしかして神様にバベられた?




