第十四話 異世界人取扱法
「んでヴィグル?こんな場所で何やってんだ?」
チンピラ兄ちゃんにやられて、倒れるように座り込んでいるヴィグルに声をかける。
「いやはや少し油断しておりました……」
ゆっくりと立ち上がるヴィグル。
多少の傷はおっていたのだろうが、既にその傷は完治しているようだった。魔族の自然治癒能力、意外と侮れないな。
「最近は色々と忙しいのですよ……異世界人の御遺体処理は、魔王軍管轄で何とかしなくてはならなくなってしまったので、そのあたりの業務処理マニュアルを作成しなくてはならないのに、ソレをする前に次々と御遺体が増えるので、全て私が何とかしなくてはならなくなっている現状なんですよ」
あ~……異世界人関連も、魔族関連項目として扱われるようになったのか。
そりゃあそうか。魔法が関わったら、この世界の行政機関じゃ手に負えないもんな。
異世界人に関しては、まだ世間一般的には知れ渡ってないだろうけど、国のお偉いさんにはヴィグルを通して話が伝わってるだろうから、その流れで打合せが行われて、そんな感じに処理方法が決められてたって事なのかな?
「そういや、異世界人の扱いに関しては、どんな風に決められてんだ?見た目的に一般人と同じ?それとも魔力持ってるから魔族と同等?」
異世界人も見た目はただの人間だけど、魔王がヤったって事で殺人罪とかにはならないだろう、くらいの感覚で、私は動いてたけど、どう扱われるかによっては色々と面倒臭い事になりそうだな。
私でもいちおうは、変身してても世間の目ってのは気にはしている。
「異世界人は、危険度で言えば魔族以上ですし、この世界での戸籍はありませんからね……扱いは魔族に近い感じですかね?……なので、裕美様やノゾミさんのようにうっかり殺害してしまったとしても、魔族同士の内輪もめと同じように罪にはなりません」
ああ……見た目は人だけど、扱いは魔族と同じってわけか。名誉魔族みたいな感じかな?
……って、ん!?ちょっと待て!?今ヴィグルのやつ、一つ変な単語を言わなかったか?
「ヴィグル……今、裕美様と『ノゾミさん』、とか言わなかったか?」
私の場合は、このチンピラ兄ちゃんで3人目だから、ヤったっていう自覚はしてる。
でも待て?ノゾミちゃん!?
「聞いていませんか?そもそもで、この異世界人騒動の始まりは、ノゾミさんからきた連絡で発覚したんですよ」
聞いてません!!?
「『魔力持った不審人物をヤっちゃったんスけど、魔族の関係者ッスか?どうすりゃいいッスか?』って電話を頂いたので対処したのが最初ですね……二人組に襲われたらしいですが、もう一人は逃げたとおっしゃってました。ただ、逃げた異世界人は片手を吹き飛ばしたから見つけやすいだろう、とも言ってましたね」
待て!?ちょっと待て!?何か色々と繋がりそうで、いまいち繋がらないぞ!?
「えっと……ちょっと確認させてくれ……私と絵梨佳、あとついでで真衣ちゃんが異世界人にケンカ売られた時には、ヴィグルは既に、不審な異世界人が来てるって知ってたのか?」
何の報告も受けてないのは気のせいか!?
「知ってましたよ。ですから魔王軍本部にお呼び出ししたじゃないですか?幸さんと美咲さんに、対処法を説明した後で裕美様に報告しようとしたのに『ケーキが無いから』という理由で、帰ってしまったじゃないですか」
あん時かよ!!?帰ったよ!確かに帰ったけど、私あの時は関係ないと思って帰ったんだよ!?私に用事があったんなら、帰るの止めろよ!まるで私が、ケーキ食べられなかったから話も聞かずにいじけて帰った、みたいな言い方やめろよ!?
「待て!ちょっと待て!だったらせめて後日改めて報告するとかあるだろ!?」
そう!あの日から数日たってるんだ!改めて報告する時間くらいあったハズだ!
「裕美様、異世界人の後処理がどれだけ大変か知っていますか?……まずポチさんが作った残留魔力を測定する道具で、身元不明御遺体の魔力核の有無を検査したうえで、ちょっとした遺留品から、戸籍を照会して、この世界の住人じゃない証明を行ったうえでの報告書作成と、異世界人認定書を魔王軍印で役所に提出、各関係省庁にも同じ書類を発行して初めて遺体処理に取り掛かるんですよ……」
そんなん知るか!?そんなのはヴィグルがこの国のお偉いさんと会談して、勝手に決めた事だろが!私関係無いもん!!
「その顔は『私は知らん!』って顔ですね……いいですか裕美様、現行法を維持したまま、そこに魔法関連を加えていくというのは、それなりの仕組み作りと手続きというものは必要なんですよ」
何でバレた!?っていうか、何で私、母親が小さい子に言い聞かせる、みたいな説教されてるんだよ!?
「で、でも、たかが書類数枚作るくらいで報告時間すら取れなくなるなんて……」
「まだ施行されたばかりで、テンプレ文も用意できてないんですよ……それを私一人で手探りで行っているような状態だったんですよ……」
あ、ヴィグルの表情……これ私に本気で説教しようとしている時のやつだ……
「ノゾミさんの一件すら処理が終わっていないのに……私の苦労も知らずに、御遺体を2体追加させた人がいたんですよ……しかも私の目の前で、今しがた3体目も作成していたんですが……誰がやったかご存じですか?」
私以外に誰がいるんだよ!?そんな嫌味言いたくなるくらいにストレス溜まってんのかよ!?
「こんな現場放っておいて、後程私に蘇生魔法かけてくれるだけでよかったのに、何でいつもはやらないような人助けなんてしてるんですか?まだ山積みになってる私の仕事量を何で増やすんですか?新手の嫌がらせですか!?」
うわぁ……こりゃあ相当ストレス溜まってんなぁ……
ってか、ヴィグル助けに登場した時に、私に向かって言ってた言葉って、皮肉だとか、まだ余裕があった、とかじゃなくて本心だったのかよ!?
「え、っと……ヴィグル、何かスマン……」
とりあえずヴィグルがノイローゼになる前に、何となく謝っておく事にした。




