第十一話 説教タイム
魔王軍本部で一仕事終え帰宅する。
ちなみに、美咲と幸は、魔王軍本部に来たついで、という事でエフィに捕まって雑用をやらされていたので放置してきている。
「たっだいま~~!」
変身アイテムの微弱な魔力が家にあったので、絵梨佳が既に帰宅しているのがわかっていたため、普段は言わない帰宅の挨拶を大声で叫ぶ。
「ユミ、今日も寄り道かい?まぁいつもよりは早いから良しとするよ……ともかく、少し話したい事があるからコッチに来てくれないかい?」
そして、何故か浮遊狐に出迎えられる。
玄関をよく見ると、絵梨佳の靴はまだそこには置かれていなかった。
んん?どういうこっちゃ?絵梨佳、今日変身アイテム不携帯でもしたのか?
だとしたら大声で叫んだ私、滅茶苦茶恥ずかしいじゃん!?ってか、元気よく浮遊狐に挨拶してたって事になるんじゃね!?勘弁してくれよ……
ともかく、何やら浮遊狐が話したい事があるっぽかったので、浮遊狐が飛んで行ったリビングへと足を運ぶ。
「……誰?」
リビングに置かれているソファーに、浮遊狐の他に、見た事ない女の子が座っていた。
目を奪われるような、キレイな金髪に青い瞳。ただ、それ以上の目を引くのは、痛々しく右腕に巻かれた包帯だった。
見た目こんなだけど、魔力を持ってないみたいだから素なのか?外人?
……ってか、サーチ魔法でよく見ると、服のポケットから微弱な魔力反応があるな。って事は、変身アイテム持ってたのはコイツか……正体は魔法少女なのか?
う~ん……一人で色々考えても全然わからん!
そんな金髪少女は、私の姿を見た途端に、少し戸惑っているようにも見えた。
ホントどういうこっちゃ!?状況がさっぱりつかめん!
「ユミ!新人潰しはいい加減やめてくれって昔言わなかったかい!?」
私がリビングに入って来たのを見て、浮遊狐が突然叫びだす。
いや、いきなり何言ってんだ?この畜生は?
「そりゃあキミに黙って、新しい魔法少女を勧誘してきたのは悪いとは思っているよ……でも、ソレもこの前伝えただろ?僕はレイ様の命令には逆らえないんだ!」
レイ様?ああ……この前言ってた、浮遊狐を作った上に、私に懸賞金かけた迷惑野郎の事か。
「文句があるなら僕に直接言ってくれればいいだろう!?彼女に当たり散らすのはやめてくれ!」
え~と?何だ?ちょっと整理してみよう……
とりあえず、この金髪っ子は、その何とか様ってヤツに命令されて浮遊狐が勧誘してきた魔法少女である、と。
で、何故か私がボコった事になってる。って事でいいんだよな?
まぁでも、そもそも、この金髪少女が魔法少女になった理由って、私を倒すためだよな?でもやり返された、と……
「それって何か問題あんのか?」
殺そうと思って襲い掛かったら、逆に殺されかけたから怒り出すとか舐めてんのか?
「問題?あるに決まってるじゃないか!!正直やり返されるのは仕方がないとは思っているよ!でも、やり返すにも限度があるだろ!初心者相手に右手首を吹き飛ばしてそのまま、とかあまりに酷いじゃないか!!」
ああ、やり返された事に怒ってるんじゃなくて、やり返し過ぎた事に怒ってんのね……
言われてみれば、この子の、包帯巻いてある右手をよく見ると、手首から先の形は無いかもしれない。
確かに初心者に対しては過剰防衛すぎるかもしれない、しれないけど……やったの私じゃねぇから知らねぇし!!
いや、待て!?ちょっと待て私!!『右手』?『吹っ飛ばした』?何か最近、そんなワードに聞き覚えがなかったか?え~と……
『いきなり声かけられたんスよ『何で変身もしてないのに魔力持ってるんだ?人間災害の関係者か?』って……』
『何も言わずに右腕吹っ飛ばしてやったら、泣きながら帰って行ったッス』
ああああ~~~~!!?思い出したぁぁ!!って事は犯人ノゾミちゃんじゃんかよ!?私とんだ濡れ衣だよオイ!
「待て!ちょっと落ち着けUMA!冷静になって聞けよ。犯人、私じゃないぞ」
とりあえず、この濡れ衣だけははらしておかないと、私の名誉に関わる。
「白々しい嘘はやめるんだユミ!リリーから『変身してないのに魔力を持っている人にやられた』っていう証言はとってるんだ!」
ああ……その証言で、ノゾミちゃんが犯人って線がより濃厚になったな。
んで、今回の新人魔法少女の名前はリリーちゃん、っと。
「あの……違う。この人じゃない……」
エキサイティングしている浮遊狐に、今まで黙っていたリリーちゃんが一言かける。
その瞬間固まる浮遊狐。
まぁともかく、これで私の濡れ衣もはれるだろう。
たぶんリリーちゃんも、言うタイミングを見計らってたんだろうな……私の姿を見た時、戸惑った表情をしてたのはこういう事だったんだな。
おそらく浮遊狐あたりに「キミの事をこんなにした犯人を説教してあげるよ!」とか聞かされてたのに、現れたのが全然関係ない、見たこともない私だったから、かなり混乱したんだろうな。
「え……リリー……ユミにやられたんじゃ……ないのかい?」
今度は浮遊狐が混乱し始めたのか?忙しい連中だな。
「だから落ち着けって言ったろUMA……冷静になって考えろ?私以外にも、もう一人いるだろ?変身してないのに魔力持ってる女子高生魔法少女」
もちろん、見た目アレな幸は除外して……
「ノゾミぃぃ~~~~!!!?」
やっと思い当たったのか、浮遊狐の咆哮がリビングにこだまする。
「やっぱり……やっぱり、性格に難がある子は、いくら才能があっても魔法少女にしちゃダメだったんだ……」
何やらぼやいてるけど、それってノゾミちゃんだけじゃなくて、私の事もディスってね?




