第五話 戦う絵梨佳ちゃん
大馬鹿をおちょくるようにピョンピョン跳ねながら、絵梨佳の状況に意識の半分は持っていくよう、適度に集中する。
「おいおい落ち着けって。あのブス女、お前の姉ちゃんなのか?似てねぇから気付かなかったよ……姉ちゃんの事ブスって言われて怒ってんのか?」
何やらバカが絵梨佳に話しかけているみたいだな?
にしても、人の事を「ブスブス」言い続けんのやめてほしいんだが……そりゃあ自分が超美人だとは、正直思ってないけど、言うほどブスでもないだろ!……ない、よね?
「だったら謝ってやるから、いったん落ち着けよ、な?俺達にとっても、この状況は想定外なんだ。争うつもりはなかったんだよ!……な?お互い無駄な魔力は使わねぇ方がいいだろ?」
自分から仕掛けといて何言ってんだ、このバカは?
ああ、もしかしてアレか?
最初は、魔力持ってるのが私だけってのを確認して、変身して魔力上がった状態になれば、二人がかりで楽勝!とか思ってたけど、実は絵梨佳も魔力持ちで、かつ予想以上に高い魔力持ってたから、この状態での2対2はちょっとヤバイ?ってなって、できるだけ穏便に済まそうとしてんのか?
……控えめに言って、クソだな。
「何だ、その、ブス女の事ブスって言って悪かった!」
謝る気ねぇだろ!?ってか本人謝ってるつもりなのか!?そこまでのバカなのか!!?
「そんなわけで、話しあ、ぶっっ!!!?」
喋ってる途中、バカの足元にあったマンホールが凄まじい勢いで飛び出し、バカのあごへとヒットする。
「お姉ちゃんはブスじゃない……お姉ちゃんはブスじゃない……お姉ちゃんはブスじゃない……」
壊れたカセットテープのように、ひたすら同じ言葉を吐き続ける絵梨佳……目が怖ぇな。
そんな絵梨佳の足元から伸びる魔力の束が、マンホールと繋がっていた。
なるほど、ああやって魔力で繋いで操ってる感じか。
しかも、ちょっとやそっとじゃ防げないように、繋いだマンホールを魔力でコーティングしてるな……ただのマンホールの直撃くらいなら防壁はれば、どうって事ないだろうけど、アレはちょっと痛いだろうな。
「っのクソガキ!!何しや、がっっっ!!?」
すぐさま体勢を戻し、絵梨佳へと文句を言おうとしたバカの背中に、今度は根本からへし折れた道路標識が飛んで来る。
もちろん絵梨佳の魔力コーティング済みである。
……でも絵梨佳さん、それ器物破損じゃね?
「っち!」
すぐさま体勢を立て直し、バカは一つ舌打ちをする。
既に自分の周りを、絵梨佳が魔力コーティングした物体で取り囲まれてる事に気が付いたのだろう。
そこには、マンホール、道路標識の他にも、折れた木の枝や、砕かれたアスファルト片や塀の一部、無数の大き目な石が浮いている。
「調子乗んなよクソガキぃっ!!!」
バカが甲高い声で叫びながら、反撃と言わんばかりに、私に放ったのと同じような魔力弾を放つ。
威力は、魔力が上がった分増しているようにも見える。
しかし……
バカが魔力弾を放った方角は、絵梨佳がいる方角とはまったく別の位置だった。
もちろん、その魔力弾は絵梨佳へと着弾する事なく、全然関係ない壁を破壊する。
「なっ!!?幻覚魔法か!!?」
全然関係ない場所へ攻撃を向けたバカが、突然叫ぶ。
魔力の流れをよく見てみると、微力ながらバカにまとわりついている別の魔力が存在していた。
「ああ、真衣ちゃんのサポートか!」
カラクリに気が付き、思わず口に出す。
何もしないで突っ立てるように見えた真衣ちゃんが、ちゃっかりと、絵梨佳に攻撃が行かないように、バカに絵梨佳の幻覚を見せてたのね……なるほど、バカには全然関係ない位置に絵梨佳がいるように見えてたって事か。
そして、そんなバカの隙を見逃す事無く、絵梨佳は魔力の束で繋いでいる物体を一斉にバカへと投擲する。
「っぐ!?っう!!?……っが!!?」
防壁はって、歯を食いしばっているようだが、時折うめき声を上げる。
結構痛いんだろうな……
攻撃しながらも、絵梨佳はバカの方へと走り出す。
直接攻撃で追撃して、一気に決めるつもりか?
「うるせぇ!!さっきから何なんだよ!!!」
そして突然叫びだして、うしろを振り返るバカ。
前方から絵梨佳が迫っているにもかかわらず、である。
うん、今度は幻聴ね……真衣ちゃんのサポート意外とえげつないんじゃね?
そんな隙だらけになったバカの肩に向かって、絵梨佳は掌底を叩き込む。
絵梨佳の手の平が当たった肩が凍り付いたかと思うと、その部分を起点にして氷が広がっていき、一瞬にしてバカは氷漬けになった。
アレは氷の中に閉じ込めた感じか?バカの魔力反応は消えていないので、あんな状態でもしっかりと生きてるんだな……
にしても、殺さずにしっかりと生け捕りにするとは……やるな絵梨佳。
まぁ真衣ちゃんのサポート効果もでかかったかもしれんけど。
おっと、感心してる場合じゃない……事後処理はきちんとやってやらないと、お姉ちゃんとしての立場がなくなるな。
『おいヴィグル!聞こえるか?今から不審人物を一匹ソッチに送るから、厳重に拘束しとけ!あとで私が拷問する!ついでに言うと、反論は認めない!黙ってブツを受け取れ!』
ヴィグルへと一方的な念話を飛ばし、すぐさま氷漬けになったバカの前に飛んで行く。
「座標は魔王軍本部の……ヴィグルがどこにいるか、大体の位置しかわかんねぇから、魔王軍本部内だったらどこでもいいか……とにかく飛んでけや!!」
氷漬けのバカに触れ、単体での転移魔法を発動させる。
「さて……一人になったけど、どうすんだ?」
私をずっと追いかけていた大馬鹿へと振り返りながら質問を飛ばす。
「……マジかよ?」
あまりに予想外の展開だったのか、冷や汗をたらして動揺する大馬鹿。
「ち、違うんだよ!アイツが勝手にお前等にケンカ売っただけで、俺は争うつもりなんて無かったんだよ!……そ、そうだ!お前『強化石』使って変身してたろ?だから『人間災害』について何か知ってたら教えて欲しいと思ってただけなんだ!マジで!!」
「……人間災害?」
何か良くない単語が、大馬鹿の口から飛び出したなオイ……
「そうそう!!本来の俺達の標的はソイツなんだ!お前等じゃねえ!俺達はソイツを始末しに来たんだ!な?だから謝るから見逃してくれよ!」
人間災害を始末、ねぇ……
何が狙いか知らねぇけど、その程度の魔力で、よくそんなでかい口叩けるな。
まぁ何だ……拷問して色々と聞きだすヤツは、もう確保してあるから、コイツはいいかな?
「お前等、人間災害を倒しに来たのか?どこにいるか教えてやろうか?」
「マジかよ!教えてくれよ!」
私の質問に大馬鹿は即答する。
なので、私は望み通り目の前で変身する。
「ココにいるよ」
その瞬間、大馬鹿は目を大きく見開く。
「ハ……ハハハ……マジかよ……何だよその魔力?……こんなのをどうしろってんだよ!バカじゃねぇの!?倒せるとか言ったヤツ誰だよ!?死ねよ!いや、死ぬの俺か!!?ヒァハハハハハっ!!」
あ、壊れたかな?
殺そうかとも思ってたけど、どうすっかなコイツ?
 




