第二話 帰宅途中
幸と美咲の付き添いで魔王軍本部に来たものの、二人が仕事を始めてしまえば、私は途端に暇になり、特にやる事もないので帰宅する事した。
ケーキ屋にでも寄り道しようかとも思ったのだが、買って帰ったら何かに負けたような気がするのでやめた。
……いや、まぁ実際にじゃんけんで負けてはいるんだけど、それはそれだ。
ともかく、ケーキに限らず、何か食べ物を買って帰る気が毛頭なくなったので、寄り道する事なく自宅へと歩を進める事にしていた。
「あれ?お姉ちゃん?お姉ちゃんも今帰りなの?」
途中、ふと声をかけられたため、そちらに視線を向けてみると、そこには絵梨佳と真衣ちゃんがいた。
「あ、ど……どうも」
若干怯えたような表情をしつつ、「何で余計なヤツに声かけたの!?」みたいな事を、絵梨佳に対して目で訴えている真衣ちゃん。
まだ私にビビッてるのか?ちょっと殺された事くらい軽く水に流してもいいんじゃね?
……うん、いや、わかってる!わかってるよ!『軽く』は流せないよね?でも美咲くらい吹っ切れないと、この先大変だと思うよ。
特に、今後も絵梨佳との付き合いを続けたいなら、私って存在は常に付きまとうようなもんだし。
「こんな所で遊んでるって事は、絵梨佳は魔王軍での仕事はもう終わったって事か?」
美咲と幸が呼び出されてたって事は、もしかして絵梨佳の仕事終わりに合わせての交代勤務みたいな感じなのか?
「えっと……実は私、魔王軍で仕事らしい仕事はしてないんだ……」
絵梨佳からの重大発表。
どういうこっちゃ!?
「は?ポチやエフィ達異世界人と同じような扱いにして、魔王軍で働いてるんじゃなかったのか?」
私が聞いていたのは、戸籍上死んだ事になってる絵梨佳では、学校に通う事も、普通に仕事する事もできないだろうから、って事で魔王軍で面倒見てる、みたいな感じだったのだけれど……違うのか?
「あのね……ヴィグルさんが『魔王軍で働くためには、それ相応の知識が必要です。ですのでアナタに最初に与える仕事はごく簡単な事のみ……せめて義務教育で得られる知識を身に着けてください』って言って、専属で家庭教師を雇ってくれたの」
マジかよ!?ヴィグルのやつ、何いい人ぶってんだ?
「それでね『年相応に遊ぶ事も知見を広げるためには必要です』って言って、中学生が普通に下校するくらいの時間には魔王軍本部から帰宅させてもらってるんだ」
何じゃそりゃ!?そういうのは金持ちイケメン経営者じゃなきゃ言っちゃいけないセリフだろ!?悪魔みたいな顔面してるヴィグルが口にしていいセリフじゃないだろ!?
「あ、でもヴィグルさんにはお姉ちゃんには言わないでくれって言われてるから、私から聞いたって事は内緒にしといてね」
よし、ヴィグルの良い弱味を握れたぞ。
「わかった。コレをネタにして、後でヴィグルを脅迫しておくから安心していいぞ」
「や……やめて!?お姉ちゃん!お願いだから黙ってて!!」
絵梨佳のこの口調、けっこうガチな感じだな。
これはヴィグルの弱味だけじゃなくて、絵梨佳の弱味の握れた感じだろうか?……まぁ絵梨佳の弱味握っても使い道ないんだけどな。
「それはともかく……そんな理由で真衣ちゃんと一緒に遊んでたって事か。とりあえず経緯は理解したわ」
「ほら、私、一回死んじゃってるから……事情がわかってて私と一緒にいてくれるの真衣くらいしかいないんだ……真衣、優しいから」
そんな絵梨佳の言葉を聞いて、真衣ちゃんは若干目を潤ませながら、無言で絵梨佳を抱きしめる。
「ちょ……ちょっと、どうしたの真衣?」
絵梨佳はいきなり抱きしめられて混乱気味だが、真衣ちゃんの気持ちはわからんでもない……絵梨佳、たまに抱きしめたくなるよな。
「と、ともかく……私達そろそろ帰ろうかと思ってたところだったんだ。よかったらお姉ちゃんも一緒に帰らない?」
一緒に帰ろうも何も、帰るべき家が同じなんだから、絵梨佳達が帰宅するんだったら、帰宅途中の私とは必然的に一緒になるだろ?仮にここで「嫌だ!」って言ったとしても。
「まぁ私も今日はどこにも寄って行くつもりはないから、一緒に帰っても……」
「あれあれ?キミ達もう帰っちゃうの?」
絵梨佳に返答をしている途中、よくわからん声に遮られる。
「よかったら俺等と一緒にちょっとお話してかない?」
声のした方へと視線を向けると、そこには馬鹿っぽい男の二人組が立っていた。
見た目的には、私と同年代?もしくはちょっと上くらいだろうか?髪は美咲並みのド金髪でチャラチャラした服装だ。
「んだよお前等?私達は帰るって言ってんだろうが……道あけろよ」
相手にしたくないような連中だったので、適当にあしらっておく。
……にしてもナンパか?
私、こんな馬鹿っぽい連中に好かれるような容姿はしてないハズなんだが?むしろ「目つきが怖い」と言って嫌厭されるタイプなんだけどな?
じゃあ標的は真衣ちゃん?
いや、真衣ちゃんも私と似たり寄ったりだろ?もう『ザ・普通』を絵に描いたような容姿の真衣ちゃんも、こんな連中とは縁遠いとは思う。
って事は……絵梨佳が標的?
うん、確かに絵梨佳は可愛いと思うよ、うん!
でもさ、絵梨佳見た目中学生だよ?それを私より年上っぽい連中がナンパって……
ヤバイ!!コイツ等マジもんの変態さんじゃん!!?
こういう場合、まずは周りに助けを求めるべきなのかもしれないが、生憎とココは人通りの少ない路地。現在視界に入る人影は、私達以外に無し!
どうする?普通にボコっておくか?
その時、ふと真衣ちゃんへと視線を向けると、おそらく私と同じ結論に達したのだろう。ちゃっかりと変身した姿になっていた。
って早まるな真衣ちゃん!絵梨佳に危害を加えそうな連中だけど、魔力こみで殴ったらさすがに過剰防衛だ!
「ほら二人とも帰るぞ!」
私は、絵梨佳と真衣ちゃんの背中を押すようにして、帰路につくようにして歩きだす。
頼むチャラ男二人組!死にたくなかったら、このまま私達を素通りさせろ!
「っつ!!?」
二人組の脇を通り抜けた所で、突然後頭部にデコピンされた程度の痛みが走る。
「ハハっ!マジかよ!けっこう本気で魔力弾打ち込んだぞ俺」
「完全不意打ちだったのに、よく防壁はれたな。褒めてやんぜ」
は?魔法!?
すぐさまサーチ魔法を発動してみたところ、コイツ等二人とも魔力持ちだった。
どういう事だよ!?見た目現代人だけど、実は異世界人!?いや、でも異世界からの空間転移情報は報告されてないぞ!?
じゃあ私達と同じように変身してる?いや、でも『魔法少女』って浮遊狐が言ってたように、変身できるのって女だけなんじゃねぇの!?実は男も対象だった?
ヤバイ!頭混乱してきた!何がどうなってんだコレ!!?




