エピローグ
「えっと……ただいま」
凄く申し訳なさそうな表情をした絵梨佳が、そっと口を開く。
そんな絵梨佳に、大粒の涙を流しながら抱き着く両親。
「おかえり……おかえりなさい絵梨佳!もう……もう二度と私達のもとから勝手にいなくならないでね」
「うん……うん!ごめんなさい!ごめんなさい母さん!」
両親につられるようにして絵梨佳もボロボロと涙をこぼし始める。
まぁ、うん……感動的な再会だって事はわかる。私も蘇生させた時は泣きそうになった。
でもさ、今もう深夜だよ。大声でわんわん泣きながら叫んでると、物凄い近所迷惑になるんじゃないかと私は思うんだけどどうだろうか?
「これでお借りしていたペンダントはきちんと返却いたしました。皆さん、約束通り、絶対に口外しないでくださいね」
感動の再会に水を差さない程度の音量で、いちおうは言っておくべき事をつぶやくヴィグル。
もちろんウチの両親、泣きじゃくってるせいで、まったく耳に入ってないんだけどね。
「ウチの両親に、絵梨佳が蘇生した事バラしてよかったのか?」
たぶん両親は、何喋ってても聞こえてないとふんで、そっとヴィグルに囁く。
「仕方がない事です。どう誤魔化してもあのペンダントを返却できない時点で不信感を拭う事ができませんからね。一度疑惑を持たれると、そうそう払拭できるものではありません……そして、その事が裕美様のアキレス腱になる事だってあるものですよ」
どういう事?
「疑惑が蓄積する事によって、魔王の正体が裕美様だとバレる可能性もある、という事ですよ。御両親が本気で裕美様に疑惑を持ったら、裕美様の普段の生活上、魔王である証拠なんてあっさりと出てきますよ」
理解できてない私の表情を察して、ヴィグルが補足説明を入れてくる。
確かに、両親が私の事コッソリと本気で調べ出したら、色々とヤバイ証拠があるかもな……
秘密の預金通帳だったり、ぬいぐるみのフリをして私の部屋に居座ってる浮遊狐だったり、変身アイテムだったり、交友関係だったり……
うわぁ~ざっと思いつくだけでもそこそこあるな。
まぁ、それを防ぐために、ヴィグルが機密情報の一部を公開したんだろうしな。
それに、ウチの両親意外とマジメだから『絶対に言うな!』と約束した事は口外しないだろうし、何より絵梨佳を世間から隠さないと一緒に住めなくなる、とヴィグルに言われてるから、また昔のように絵梨佳と一緒にいたいだろうから、死んでも約束を守るだろう。
ちなみに、ヴィグルがウチの両親に説明したのはこんな感じである……
魔王が死者蘇生の魔法の実験を始めた。そのうえで、どの程度の部位から再生可能かどうかも実験したい、と言い出した。
とはいえ、いくら魔王といえども、墓をあばくのは憚れるし、霊安室や葬儀場から出来立て死体を持ってくるのは遺族への配慮に欠けると考えた。
そこでヴィグルに実験の素体探しを命令。
その命令を受けて、この家にあるペンダントの事を思い出し、私に事情を説明し、何とかペンダントを借りられないか懇願し許可を得て、ペンダントを魔王に渡した。
……咄嗟に思いついた嘘なのに、私が両親についた嘘を補完させるあたり、さすがはヴィグルと言いたくなる。
まぁそんなこんなで、魔王による死者蘇生の魔法実験は、予想以上の成果を出して成功。
しかし、魔王が死者蘇生までできる事が世間に公表されてしまうと、永遠の命を欲しがる俗物が魔王に媚びを売りたくて魔王軍に群がって来る事が予想できる。
魔王軍としても、それは望むところではないし、魔王もそんな連中に崇められるのは正直勘弁願いたいところである。
そこで魔王直々に、この件に関して箝口令がしかれた。
ただ、絵梨佳を蘇生させる事によってペンダントは消失してしまっている。
それを持ち主にどう説明すればいいかを魔王に質問してみたところ、持ち主は関係者とみなして、他言無用が守れるなら現状を説明してもよい、という判断が出た。
それどころか、絵梨佳の存在を世間に晒さなければ、一緒に生活する許可も出た。ただし、絵梨佳の存在が世間に知られた時点で、魔王の手によって、絵梨佳の存在そのものを無かった事にされるので注意が必要だ。
と、まぁザックリとこんな感じでウチの両親に説明し、他言無用の約束を取り付けたため、絵梨佳を魔王軍本部へ取りに戻って持ち帰ってきて今に至るわけである。
まぁ絵梨佳の存在が世間にバレたところで、私が絵梨佳を殺す事はないので、ヴィグルなりのウチの両親に対する厳重注意、というか本気度を上げるための方便なのだろう。
たぶんバレたらバレたで、その時何かしらの対応方法とかちゃんと考えてくれるだろう。
いや、ヴィグルの事だ、もう既にその時の対応方法とか考えてあるのかもしれない。
「ありがとう……ありがとうヴィグルさん……またこうして絵梨佳の手を握ったり、声を聞いたりできるようになるなんて夢にも思っていなかったよ」
いつの間にか両親2人がヴィグルのもとにお礼を言いに近づいてきていた。
まぁそりゃあ普通に生活してれば、死んだ人間が蘇るなんて夢にも思わないわな、何をわかりきった事言ってんだウチの両親。ボケが始まったか?
「私はただの取次役にすぎませんよ。お礼でしたら魔王様に直接伝えてあげてください」
心配すんな。隣で聞いてたから、しっかり伝わってるから安心しろ。
「もちろん魔王様には感謝しても感謝しきれない……それでも、こうして絵梨佳と引き合わせてくれたヴィグルさんにも同じくらい感謝しているんだ」
何か予想外なところで魔王信者増やしてるような気がするけど大丈夫か?まぁウチの両親に限って、変な新興宗教に引っかかるような事はないと思いたいんだけど……
両親の謝辞が長くなりそうだったので、気付かれないようにそっとヴィグルの隣から離れる。
「ねぇお姉ちゃん……」
その途端、両親から解放されて絵梨佳に声をかけられる。
「魔王さんの正体がお姉ちゃんだって事、父さんと母さんに教えてないの?」
そうだよね、そこ気になるよね。
魔王が目の前にいるのに、その魔王無視して、隣にいるヴィグルに魔王に対するお礼を伝えてれば不思議に思うよね。
「そりゃあ、その方がおもしろ……じゃない!私が魔王だなんて知ったら両親に変な心配かけるだろ?だから黙ってるんだよ。絵梨佳も魔王の正体バラしたりするなよ」
「そっか……やっぱりお姉ちゃんは家族想いで優しいね……」
うん、別に私にどんな印象持とうが、とりあえず黙っててくれるならどうでもいいや。
「そういえば、お姉ちゃんが魔法少女に変身した姿が魔王さんなんだよね?」
どうしたんだ絵梨佳は?何を唐突にわかりきった事を言い出してんだ?
「魔法少女っていえば『正義の味方』って感じだけど、魔王っていうと『悪役』だよね?」
凄まじい固定観念だな絵梨佳……
「お姉ちゃんは『魔法少女』?『魔王』?どっちが正しい姿なの?」
随分と哲学的な質問だな。
ってかどっちも私なんだからどっちだっていいんじゃね?
「そうだなぁ……どっちもそうだし、どっちも違うかもな」
哲学的な質問には哲学的に返してあげたものの、絵梨佳はよくわからなさそうな表情になっている。
この哲学的な返答は絵梨佳には少し難しかったかな?
というか、こんな事で哲学哲学言ってたら、哲学者に怒られそうだな。
「まぁアレだ。私は『魔王少女』ってやつだ」
魔法少女でも魔王でもない、新しい存在が私だという事を絵梨佳にわかりやすく伝えておく。
「う~ん……結局どっちなのお姉ちゃん?」
思いっきり首をひねる絵梨佳。
うん、どうやら絵梨佳には少し難しかったようだ。
ドヤ顔で『魔王少女』言った私が恥ずかしいんだけどどうすりゃいい?
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
続きを思いついたらまた再開するかもしれませんが、とりあえずはいったんここでお終いです。
今回の第四部は、いつもよりバトル少な目なつもりで書いてみました。
バトル部分と日常部分、どちらの方が需要多いのかもよくわからなかったので、少し実験的な意味で書いてはみたので、色々と今後の参考にできればと思っております。
それでは、また忘れた頃にでもコッソリとイラストを描いて、キャラ紹介ページを追加すると思いますが、気長に待っていただければと思います。
まぁ私のラクガキイラストを待っている方がそんなにいるとは思えませんが、気が付いたら見ていただければありがたいです。




