第二十五話 携帯契約
絵梨佳は別に携帯電話を持っていなかったわけではない。
……そう、生前は。
当時、中学入学のお祝い、という名目で親からスマホを買ってもらっていた。
ただソレは、絵梨佳の死と共に、絵梨佳の物ではなくなった。
今では、そのスマホは、私のオカンの物になっていた。
絵梨佳の形見として使い始めていたのだが、今ではもう4年以上使用しているため、充電もすぐ切れるし、たまにフリーズするしで、正直もう寿命だと思うのだが、いつまで使い続ける気だよ?と本気で言いたくなるような状態になっている。
まぁそんな、元・絵梨佳のスマホの現状は置いといて、そんな感じな理由で、現在携帯等は持ちあわせていないのである。
そして、蘇生した絵梨佳の戸籍は既に消失しているため、身分を証明する書類等が一切存在しないため、新たに絵梨佳名義で契約する事ができなくなっていた。
うん、そこまでは現状把握できたわけなんだけど……
「絵梨佳!大丈夫!?私が見てない所でイジメられたりしてない!?ケガとかしてない!?」
今、私の目の前で、絵梨佳の体をまさぐってる真衣ちゃんの存在にちょっとした疑問を持っている。
「なぁノゾミちゃん……何で真衣ちゃん呼んだんだ?」
私の隣で、私と同じように半分呆れたような表情になっているノゾミちゃんへとそっと話しかける。
「いや、呼んでねぇッス……『妹さん携帯持ってないって言ってるから、代わりに武本の番号を妹さんに教えといてもいいッスか?』って電話したら『今、絵梨佳そこにいるのね!?すぐ行く!!』って言葉だけ残して問答無用で電話切られたんスよ」
会話が成り立ってねぇなソレ……会話のキャッチボールって大事だぞ真衣ちゃん。
何だろう?ノゾミちゃんが投げたボールをキャッチしたのはいいけど、投げかえさずに、そのままノゾミちゃんの隣にいる絵梨佳のところまでボール手渡しに行ったような感じか?
「武本の家って隣町のハズなんスけどね……電話切ってから5分で来たッスよアイツ……」
「ああ……だから変身した状態なのか。必死すぎだろ真衣ちゃん……」
そして、こんなに近くで行われている、私とノゾミちゃんの会話は、真衣ちゃんの耳にはまったく届いてないようだった。
「絵梨佳の事好きすぎだろ真衣ちゃん……蘇生してからの初体面の時とか、もっとよそよそしくなかったか?何があったんだよ?」
「武本から話聞いた感じだと、何か色々と吹っ切れたみたいッスよ……心のタガが外れた人間はホント厄介ッス……それが、今まで抑えてた物がデカければデカい分だけ比例して面倒臭くなるッスね」
実感がこもってるなノゾミちゃん……
確かに、絵梨佳の事になると、こんなテンションになる真衣ちゃんの相手を、学校にいる間ずっとしてたら「武本がウザいッス」とかも言いたくもなるわな。
「せっかく、また絵梨佳と友達になれたのに、好きな時に連絡がとれないのは少し寂しいな……」
「携帯とか何も持ってなくてゴメンね真衣……でもほら、こうやって誰かを通して間接的になら連絡とれるんだから元気出そう、ね?」
絵梨佳と真衣ちゃんの方へと目をやると、涙目になっている真衣ちゃんを絵梨佳が慰めているようだった。
だから、そんな程度の事で泣くなよ真衣ちゃん。
ってかよくよく聞くとさっきから、この2人、同じような会話を無限ループさせてね?
「そんな風にグチグチ言ってベソかいてるくらいなら、武本がもう一台携帯契約して、それを妹さんにあげればいいじゃねッスか?」
身の無い会話を永遠としている2人にしびれを切らすかのように、ノゾミちゃんが会話に参加し始める。
うん、確かにそれで問題解決だな。
「う……あ……でも、私バイトとか親から禁止されてて……」
急にテンションが下がり出す真衣ちゃん。
「私の携帯料金も両親が払ってるし……絵梨佳に携帯買ってあげるほどの財力なくて……」
あ~……何か昔、言ってる事は違うけど、こんな風に言い訳して仕事しようとしなかった魔族を説教ついでにボコボコにした事思い出したなぁ……
いや、さすがに真衣ちゃんにはやらないよ。真衣ちゃん魔王軍でもないし。ただ何となく思い出しちゃったってだけの事なんだけどね。
「親のすねかじりッスか?情けねぇッスね……妹さんがそんなに大事なら、禁止されてようと何だろうと、もっと積極的に行動すべきなんじゃねッスか?」
おお、私が言わなくてもノゾミちゃんが言ったか。
でも、親のすねかじりが情けないって、それノゾミちゃんが言うか!?
いや、ノゾミちゃんはいちおう働いてはいるのか?いやいや、働いてるっていってもそれは家の手伝いだよな?店で接客の手伝いした時って給料発生してんの?ってか、それは給料に分類していいのか?お小遣いの上乗せ程度の事なのか?
やめよう……ノゾミちゃんちのお小遣い事情を考えたところで、私には一銭の得もない。考えるだけ時間の無駄だ。
「そ……そうだよね……絵梨佳のためだもんね……体を売ってでも何とかするべきだよね……」
何かブツブツ言いながら、間違った方向に進んで行こうとしている真衣ちゃん。
体までは売らなくていいと思うぞ、はやまるな真衣ちゃん。
「待って真衣!私の為にそこまでしなくていいから!ね?」
暴走しそうになっている真衣ちゃんを絵梨佳が止める。
まぁ普通に止めるわな……
「金がない武本じゃどうにもならないって事ッスよね?だったら金のある裕美さんが携帯買ってやればいいんじゃねぇッスか?いちおうは妹さんの姉なんスから」
何故私に矛先を向ける!?あと『いちおう』じゃなくて、ちゃんと正真正銘絵梨佳の姉だからな。
まぁ携帯くらいなら買ってやってもいいんだけど……
何というか……私が魔王だって事はもちろん、ちゃっかり収入も得ているって事を両親は知らない。
つまり、うちの両親からしてみたら、私はバイトも何もしていない、勉強もせずにフラフラ遊び歩いている普通の女子高生なわけでして……
うん、かくいう私も『親のすねかじり』状態なんだよね。
そんなわけで私の携帯料金は親が支払いしている。
まぁ何だ……つまるところ、自分が使ってる携帯の料金は親が払ってるのに、自分が使わないセカンド携帯の料金を払う事にちょっとした抵抗があるというか……
「大丈夫!大丈夫だよ希美さん。お姉ちゃんには負担かけさせたくないし……携帯が無くても何とかなるような別の方法考えよ?ね?何かいい方法あるかなお姉ちゃん?」
困った時の姉頼り。頼りにされたら応えるのが姉ってもんだろ!
「ヴィグルにでも言って、魔王軍用で契約してる携帯一台貰えばいいんじゃね?」
そして私は、困った時のヴィグル頼り。
まぁ皆して「ナイスアイディア!」みたいな顔になってるし、問題はないだろ。うん。
法人用携帯を私用化しても、私が社長みたいなもんだから問題ないだろ!……問題ない、よな?
 




