番外編4 ~6人目の魔法少女 part3~
私が魔王に敗れてから数年が経った。
特に何もなく、死んだようにひっそりと生きていたような気がする。
高校は隣町の学校に通っていた。
少しでも彼女の事件を知らない人が多い場所を選んだつもりだ。
「家が遠いから」という理由で、部活の勧誘を断る良い口実にもなっており、遠いなりの利点もあった。
何より、他人とあまり関わりたくなかったので、私としてはある意味良い事尽くめなのかもしれない。
ひょんな事から、高校から同じ学校に通っている高塩希美という子が、魔物と戦うために魔法少女に変身するのを目撃し「ああ……今度はあの子が魔王にやられるんだなぁ」とか思った以外は、代わり映えの無い毎日を過ごしていた。
そんな代わり映えの無い日々は、唐突に終わりを告げた。
それは冬休みも終わったすぐの学校帰りの事だった。
人通りの多い場所を避けるようにして帰宅していた私の前に、死んだはずの彼女が現れたのだ。
「そんな……何で……だって……絵梨佳は死んだハズ……」
思わず口から言葉が漏れる。
どうしていいのかもわからずに混乱する。
だって彼女の姿はあの時のまま……まるで今まで時が止まっていただけのように……私の目の前で命を落とした時のままなのだ。
これは幻覚?気付かないうちに誰かから魔法による攻撃を受けた?
いや、でも周りに魔物の姿はない。
だったら何で!!?何で死んだはずの彼女が、あの時と同じ姿で私の前にいるの!?
私は太ももを思いっきりつねってみる。
精神攻撃魔法を受けているのなら、肉体に直接痛みを与えれば、幻覚から覚めるはずだった。
しかし、太ももが千切れるんじゃないかと思うほど力を込めて痛みを与えても、目の前の彼女の姿が消える事はなかった。
どうして!?何で!!?何でっ!!?本当に蘇って来たっていうの!?蘇って私の前に現れるほど、私の事を憎んでいるの!?
「…………真衣……だよね?」
あの頃と同じ声で……もう二度と聞く事はできないと思っていた、私の記憶の中にある彼女の声と同じ声色で名前を呼ばれ、意識が現実へと引き戻される。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……許して絵梨佳……」
もうそれしか言えなかった。
言いながらも私はゆっくりと後ずさりをする。
本当なら、今すぐにでも回れ右して全力でこの場から逃げ出したかった。
ただ、数年ぶりに見る彼女の姿から目を逸らす事ができなかったのだ。
「真衣、落ち着いて。別に私、皆に復讐したいなんて思ってないから」
彼女はそう言いながら、笑顔で近づいて来る。
嘘だ!!!絶対に嘘だ!!
あんな目にあって……苦しくて死を選ぶほどにまで追い詰められていたのに「許す」なんて!
怖い……彼女の笑顔はあまりにも恐ろしかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい!来ないで、こっち来ないで絵梨佳ぁ!!」
私の精神はもう限界だった。
何が何でも、この恐怖から逃げ出したという想いから、叫びながらも、ほぼ無意識に魔法少女へと変身する。
咄嗟に使おうとしたのは、精神攻撃魔法。
今、私の目の前にいる彼女が、本物だろうが偽物だろうが、通常攻撃魔法だと当たり所が悪ければ下手したら死んでしまう恐れもある。なによりも彼女の体を直接傷つけたくなかった。
しかし、ふと考える。
心が耐え切れなくなって死を選ぶ事になった彼女へ精神攻撃魔法を使っていいのだろうか?
この場から逃げ出しいと思うのは、私のただのワガママだ。
そんな私のワガママのために、また彼女の心を傷つけるような魔法を彼女に放つっていうの?私は?
今まで彼女に対する罪悪感から『彼女への償いは私が死ぬ事だろう』とか、何度か思う事はあったのに、いざ本当に彼女が目の前に現れたらこのざまだ。
人間というのは勝手なものだと思う。『死人に口なし』ではないが、死んだ人間が実際に目の前に現れる事はないとわかったうえで、『故人がそう望むなら~』とか勝手な言い分を自分で考えて、実行する気もない事を、故人のせいにして実行しないのだ。
「変身しろ絵梨佳!」
色々と考えている私の耳に、彼女の隣にいた子が叫ぶ。
それに呼応するようにして、彼女の姿が変化して魔法少女の姿へとなる。
「えっ!!?」
自然と驚きの声が私の口から飛び出る。
もちろん、彼女が変身した事にも驚きはあった。
しかし、それよりも……
彼女の隣にいる子の声には聞き覚えがあった……私の心に、忘れられない恐怖を植え付けたその声を忘れるわけがない……
魔王!!?
何で?何で彼女と一緒にいるの?何でまた私の前に現れたの?
ダメだ!!魔王に精神攻撃魔法は効かない!
もう彼女の姿が見えてはいなかった。
私は咄嗟に魔法を通常攻撃魔法へと切り替えて放つ。
しかし私の魔法は彼女に弾かれ、そして近づいて来ていた彼女に頭を鷲掴みされる。
「いやぁぁ!?何っコレ!?何で?何で!!?」
鷲掴みされた瞬間から魔力が言う事を聞かなくなってしまい、私は不様な叫びをあげる。
魔力が無くなったわけではない。私の体内には今まで通りに魔力が存在しているのがわかる。しかし、今まで私の意思で動かせた魔力が、私の意思にまったく反応してくれなくなってしまったのだ。
目の前に魔王がいるのに、魔力が扱えない。
魔力が扱えなければ、防壁を貼る事も、脚力強化して逃げ回る事もできない。
そして、彼女に掴まれているせいで、普通に逃げ出す事もできない。
彼女の手から逃げ出そうと、必死になって手足を振り回してみても、まったく抜け出す事ができなかった。
死ぬ……このままじゃ私……また魔王に殺される……嫌だ……またあんな苦痛を味わうのは……
「いやあぁぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!!助けて……助けてぇ!」
永遠と自分の体が腐り落ちていくあの苦痛……その時の痛みが蘇ってきて、なりふり構わずに叫びだす。
「落ち着いて真衣……私のお願いを聞いてくれたら、いくらでも助けてあげるから……ね?」
「な、何でもする!私……何でもするから!!お願いだから助けて!!」
彼女の言葉に、何も考えずに即答する。
とにかく死にたくなかった。
私は本当に意地汚い人間だ。
彼女への行いを考えれば、死んだ方がいい罪を犯したとわかっていても……それでも生にしがみつこうと必死になっている。
私は生きて……
「私達、魔王さんに戦いを挑もうとしているの……それに協力してくれるなら助けてあげてもいいよ」
……え?
今、彼女はいったい何を言ったのだろうか?
だって……魔王は……彼女の隣に……
「ま……まお、う?」
ふと視線を向けると、魔王と思われる少女と目が合う。
「あ……あ、う……ううぅ……」
その少女は、感情のこもっていない目で私を見ている。
私は……私は…………
「いやあああああぁぁぁぁぁーーーー!!!?」
もう叫ぶしかできなかった。
私はまた死ぬのだろうか……?
……ちなみに、この二人と一緒に何故かこの後、同じ高校に通う同級生の希美の家に、夕ご飯食べに行くハメになってしまい、希美含めて4人でテーブルを囲む事になったのだが、生きた心地がまったくしなかったせいか、あまり会話内容を覚えていなかった。
魔王が彼女の姉だという事は判明したので、百歩譲って彼女はいいとして……
何で希美は、魔王と一緒にいられるの!?怖くないの!?しかも何かため口だし!!?
何かもう……色々とわけがわからない状況に巻き込まれてしまったのかもしれない……
 




