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魔王少女  作者: mizuyuri
第四部
129/252

番外編3 ~6人目の魔法少女 part2~

 彼女の死というのは衝撃的だった。

 ……少なくとも私にとっては。


 表立って彼女をイジメていた数人は、彼女の死を知って笑っていた。


 「この程度で死ぬとかダッサ!」とか「どうせ死ぬんだったらもっと早く死んでればよかったのに」とかいう会話を笑いながら教室で喋っている連中を見て吐き気がした。


 コイツ等には、自分が人を殺したんだっていう自覚はあるのだろうか?人の命を何だと思っているのだろうか?

 ……いや、それを言ったら、彼女が自殺する現場にいたのに止めなかった私も同罪だ。そもそもで、彼女へのイジメを始めるキッカケを作ったのは私なのだ。罪の重さで言えば、コイツ等よりも罪は重いのかもしれない。


 私は……せめて私だけは、一生この罪を背負って生きていこう。そう思った。


 そして彼女の死から1年弱。

 予想もしなかった事が起こった。

 異世界から魔物がやってきたのだ。

 なすすべもなく魔物達によって蹂躙される人類の軍。そのニュースが流れた時、私はこのまま、この魔物達によって殺されるんだと思った。

 もちろん、魔物達から見て『その他大勢』に分類される私が、約70億分の1の確率でピンポイントで狙われる事など無い、というのは理解はしていたが、それでも私が抱える罪悪感は、私がそう思うだけの重さがあった。


 しかし、ふたを開けてみれば、私が殺されるどころか、人類が虐殺される事はなかった。

 魔物達に無条件降伏したのがよかったのか、無駄な血が流れる事もなく、いつも通り……というと少し語弊があるかもしれないが、生活圏に魔物達が入り込んできた事を除けば、概ねいつも通りな生活が戻っていた。


 そんないつも通りな生活をしていた私の前に、ある日突然、キューブなんちゃらと名乗る空飛ぶ狐のような物体が現れた。

 その狐は、魔王を倒すために魔法少女になって欲しい、と言ってきた。


 魔王を倒す?核兵器ですら無力化していた魔王を?私が?馬鹿馬鹿しい。いくら魔法の力を手に入れたって、私ごときが魔王を倒せるとは思えない。


 断ろう……そう思ったが、その時ふとした考えがよぎった。


 私なんて……魔王に挑んで殺されてもいいんじゃないだろうか?


 どうせこのまま罪悪感を抱きながら生き続けなくてはいけないだ……だからといって、彼女のように自殺する勇気すらない。

 だったら、世界を平和にするために死ぬ、というのも悪くはないと思えた。

 あの世で、彼女に自慢できる事が1つくらいあってもいいのではないだろうか?


 悩んだ末、私は、不審な狐のような物体の話を受けた。

 その日から、魔法少女として、魔物達との壮大な闘いの日々が始まる……事はなかった。


 私の初めて使う魔法は、魔物相手ではなく、人間へと向けられた。


 私が得意とした魔法は、目に見えて派手に相手を攻撃するような魔法ではなく、幻覚や幻聴、幻痛を相手に与える、等といった見えないところで精神を攻撃する魔法だった。もちろん、肉体的にダメージを与えるような基本的な魔法が使えなかったわけではないが、あくまでも得意なのは精神攻撃系の魔法だったのだ。


 ただ、それを理解した瞬間。真っ先に私の標的となったのは、彼女をイジメていた主犯格の連中……彼女の死を前にして、平気で笑っていたクソみたいな連中だった。


 そいつらは、毎日欠かさずに夜遊びしているのか、いつも寝不足な状態で学校に来ては、授業中に居眠りをしていた。

 私は、そうやって居眠りをしている連中にこっそりと魔法をかけ、寝ている間に見ている夢を悪夢へと変えた。

 こういう時、一番後ろの席というのは便利だ。教師が板書している隙に、一瞬だけ変身して魔法を使ってしまえば、誰にも気付かれる事なく事が済む。


 私が見せた悪夢は、自殺した彼女がゾンビのように起き上がり首を絞めに来る、というモノだった。

 自分達が彼女にした事に対して、少しは罪悪感を持つようにと思って、毎回その悪夢を見せていたのだが、予想以上に効果があったようで、数日後には全員が、泣きながら叫びだすようになった。

 口々に「もうヤダ!もうヤダよぉ!!」とか「寝かせて!お願いだから普通に寝かせてよ!!」とか言いながら授業中に暴れ出した時は、少しスッキリした。

 もちろん、すぐに病院に運ばれて、翌日から連中が学校に来る事はなかった。


 少しは彼女への罪悪感を忘れるな!という気持ちでやったのだが、正直ここまでの精神状態になるとは思っていなかったので、やった当人ではあるけれどちょっと引いた。


 そんな事件の後での魔物達との戦いだったのだが、何ともあっけない戦いが続いた。

 不意打ちで精神にダメージを与えた後での、追いうちの通常攻撃魔法。大抵はその一連の動作で勝てた。


 もしかして私って強い?魔王にも勝てちゃう?

 そんな風に調子に乗っているタイミングで、ある日突然、私の前に魔王が現れた。

 私と同年代くらいの見た目をした少女に、少し面食らったが、私は焦る事なく、いつもの必勝パターンである精神攻撃魔法を、距離を取りながら魔王へと放つ。


 精神攻撃を受けると、例え一瞬であっても、少しは動きを止めるものである。

 しかし、私へとゆっくり近づいて来る魔王の動きは刹那の間すら止まる事はなかった。


 魔法が外れた?いや……精神攻撃魔法を避ける事なんてできるの?


 何度精神攻撃魔法を魔王へと放っても効果はまったくなかった。


 何で?何で効かないの!?

 私のなかで焦りが大きくなっていく。


 その時、私の事をジッと見たまま、魔王の歩みが止まった。

 やっと私の魔法が効いた!そう思ったのと同時に、左手に耐え切れない程の痛みが走る。


「うっっ!!?」


 思わず声が漏れる。

 それと同時に左手へと視線を向ける。


「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!?」


 ほぼ無意識に叫び声を上げてしまった。


 私の左手は肘から先が無くなっていたのだ。

 それも、ただ斬られたとかそういうのではない。

 皮膚も肉も腐って地面に落ちているのだ。

 腐り落ちた腕からは、骨が見えていた。

 

 左手の腐りは止まる事なく、どんどん侵食していく。

 ついには肩まで腐り落ち、同時に左腕の骨も一緒に地面に落ちる。


「うああぁぁっ!!ああああぁぁぁ!!!?」


 叫び声を止める事ができない。

 というよりも、叫んでいないと意識が保てない。


 痛い!痛い!!いたいいたいいたいイタイイタイイタイ!!!!


 頬の肉も腐り落ち、ついには叫び声すら上げられなくなる。

 そして、意識が飛びそうになった瞬間、突然痛みが無くなる。


「……え?」


 左手で頬を触る。

 ある……左手も頬も……今のは幻覚?でも、アノ痛みは現実だったしか思えない。


 痛みを確認すように、右手で左腕をそっと触る。


「うああああああぁぁぁぁ!!!?」


 その瞬間、今度は右手に激痛が走る。

 左腕に触れた右手が腐り落ちていた。右手は手首から先が無くなっている。

 再びやってくる激痛。

 そして、意識が無くなりそうになった瞬間、現実に引き戻される。


 後はそれの繰り返しだった。


 何度その痛みを体験しただろうか?

 私にとっては無限にも思える時間だった。


 幻覚だ!これは幻覚なんだ!!

 必死にそう自分に言い聞かせてみても何も変化はない。


 幻覚の痛みではなく、現実の痛みを与えれば、この無限に続く地獄は終わるのだろうか?

 とはいっても、現実の痛みを与えるために、頬をつねったりする手は真っ先に腐り落ちてしまう……


 仕方なく私は、自らの舌をかみちぎった。

 ……苦しい。呼吸ができない……声が……出ない…………


 …………

 ……


 次に目を開けた私の目の前には魔王の顔があった。

 いつの間にか私は倒れていたようで、地面の冷たさが背中にあった。


「お前さぁ……舌噛んで自殺するとか馬鹿か?」


 魔王から声をかけられる。


 自殺?私が?

 彼女への罪悪感を抱きつつも自殺する勇気すらなかった私が?


「その呆けた感じからすると、もう戦う気力はなさそうだな?……それとも、もっと激しい痛みを伴う幻覚が見たいか?」


 魔王の言葉に、咄嗟に首を横に振る。

 さっきまでの痛みですら、精神的に限界になっていた私が、アレ以上の苦痛に耐えられるわけがない。


「そうか……だったら、もう私達魔王軍にケンカ売るのは止めるんだな。浮遊狐に何言われたか知らねぇけど、自殺願望があるわけじゃねぇだろ?」


 正直、自殺願望はある。

 ただ、さっきは永遠に続く激痛から逃げるために、ほぼ無意識に自殺していたのかもしれないが、きちんと意識がある状態で、自殺をする勇気は皆無だ。


「ついでに言っとくと、私は自殺するって行為が死ぬほど嫌いだから、さっきみたいに自殺しやがったら、また蘇生させて、死ぬよりヒドイ目にあわせるから肝に免じておけよ」


 魔王はそれだけ言うと、そのままどこかへと姿を消していた。


 一人取り残された私は、その場で涙を流していた。


 自殺する勇気もなく、魔王(他人)に殺してもらう事もできなかった。

 彼女には、死んで詫びる事も、あの世に会いに逝って謝罪する事すらできない。

 ……いや、死んでも私が逝くのは地獄だ。天国にいる彼女に会える事はないのだろう。


 誰もいない空間に、私の嗚咽する声だけが静かに響いていた。


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