第二十三話 魔王ファンクラブ員激怒
今回行ったこのゲーム。負けたからといって、何かしらのペナルティが課せられたり罰ゲームがあったりするわけでもない。
つまるところ、結局何のためにやったの?ってな感じである。
まぁ当初の目的としては、絵梨佳発案での魔王退治ではあったものの、なんやかんやで私との実力差がありすぎて、ただのハンデ付きゲームと成り下がったのが原因だったのかもしれない。
ついでに言うと、絵梨佳の考え方も変わってきていて、どう着地していいのかわからないような状態で全員が流れに身を任せたのも大きな要因なのだろう。
とはいえ、私は認めてないが、そのゲームで私が負けた事になったってのがまずかったのだろう……
「ねぇ裕美さん、今井さん……何か今日美咲がウザいんだけど、何アレ?」
ゲームを行った翌日の昼休み。心底ウンザリしたような表情でミキちゃんがやって来る。
「あー……えっと、昨日、物凄いハンデ付きの闘い?というかゲームみたいな事を魔王様とやったんですけど……それに勝ったんで、はしゃいじゃってるんだと思いますよ……たぶん」
私が、説明するもの面倒臭いような雰囲気を出していたところ、幸が代わりにミキちゃんへと説明する。
「そういえば昨日の放課後、校庭の隅の方に集まって何かやってたわねアンタ等。どうせ、ろくなことじゃないだろうと思って無視して帰ったけど……あの後、魔王様が来たんだったら私も残ってればよかったなぁ」
まぁたしかに、ろくなことやってないわな。
ってか魔王様来てやってた事は大魔法合戦だよ?そんな場面に出くわしてミキちゃん何するつもりだったんだよ!?
「それで?美咲が魔王様に勝ったっていうゲームってどんなルールのゲームだったの?」
自分が負けた事になってるゲームの説明なんてしたくもないので、幸へと「説明してやれ」的な視線を送る。
「棒立ち状態の魔王様を6人がかりで全力で総攻撃して10分以内に一歩でも魔王様を動かせたら勝ち、って内容のゲームでした」
「はぁ?何それ?」
幸の説明を聞いてあきれ顔をするミキちゃん。
まぁその説明だけ聞くと、完全に集団リンチ被害にあってるだけだもんな私。
「それほどまでのハンデがないと対等になれないとか……改めて魔王様の凄さを実感しただけなんだけどソレ?……で?美咲の攻撃で魔王様が一歩動いたから、あの子あんなに調子乗ってるの?」
「あ、いえ……美咲さんの攻撃じゃ魔王様微動だにしてなかったですよ。魔王様を動かしたのは決死の覚悟で特攻した真衣さん、という方です。美咲さんは、ただたんに対魔王様チームの一員だったってだけです」
ああ、うん……確かにそうだ。そうなんだけど……それをそのまま伝えると、美咲が単なる痛い子みたいに思われちゃうんじゃないか?
いや、美咲が痛い子ってのは別に間違ってはいないんだろうけどさぁ……ほら?ちょっと可哀想じゃね?
案の定ミキちゃんは驚愕の表情を浮かべている。
「え?何?何であの子、ソレであそこまでドヤ顔できるの?……いや、うん。バカだとは思ってたけど、まさかここまでバカだったの!?」
今頃気付いたのかミキちゃん。
「あ、美咲さんがニヤニヤしながらレイナさんに話しかけ始めましたよ」
「あの感じ……私に話しかけてきた時と同じ匂いがするわ」
「あ!レイナさん美咲さんの頬を平手打ちしましたよ!?」
「しまった!私も一発叩いておけばよかった……ってか美咲のやつ叩かれたのに、まだニヤニヤしてるし!?気持ち悪っ!!」
「レイナさんもこっち向かってきてますね」
何やら実況中継している幸とミキちゃん。
美咲のやつも、私に勝った事にしてトラウマ克服してきているのは良い事なのかもしれないけど、限度ってモノがあるだろ?ミキちゃんの言った通り、マジでちょっと気持ち悪いぞ。
「何なのもう!裕美ちゃん幸ちゃん!美咲ちゃんが妙にムカつくんだけどアレ何!?」
第二の被害者であるレイナが、ミキちゃんと同じような事言いながらやって来る。
「説明が面倒臭いから詳しい事はミキちゃんにでも聞いてくれ……で?レイナは何言われたんだ?」
とりあえず、美咲が何を言って周りから反感かってるのかを質問してみる。
「『あれぇ?レイナも魔王ファンクラブ入ってるんだっけ?そろそろ魔王じゃなくてアタシのファンクラブも立ち上げた方がいいんじゃね?』とか意味不明な事言って馬鹿にされた……」
ああ、そりゃウザいわ。
「私も同じ事言われたわ。私達は魔王様が素敵だからファンクラブ入ってるってのに、何で美咲のファンクラブなんて入らなきゃならないのよ?ホント馬鹿なんじゃないの?」
やめろよミキちゃん。素敵とか言われたら照れるじゃん。
「ねぇ?何で裕美ちゃんがニヤニヤしてるの?」
おっといかんいかん。うっかり顔に出ちゃってたわ。
「まぁ何だ……功績上げたのは美咲じゃないって部分をついて、後でへこませといてやるから、少しだけ我慢しといてくれ」
誤魔化すために、適当に解決策をあげておく。
「それにしても、魔王様をゲームで負かしたっていうその……真衣ちゃん?だっけ?その子ってそんなに強いの?」
「そう!そこなんです!私が謎だと思っている事は!真衣さんの実力は、正直言って私達よりだいぶ下なんです!私達が連携とってまで攻撃加えても魔王様は一切動かなかったのに、真衣さんの攻撃を避けようとして動いたんですよ!?」
ミキちゃんが投げかけた質問に、幸が食い気味に反応する。
「えっと……避けなきゃダメージ受けそうな魔法だ、って魔王様が直感した……とか?」
幸の剣幕に若干引きながらミキちゃんが答える。
「そんな事はないです!あの程度の魔力量しかこもってない攻撃なんて、どんな魔法効果だったとしても、魔王様の防壁を突破できないですから」
「へぇ~やっぱ魔王様カッコいいね」
幸の力説に、的外れな反応を示すレイナ。たぶん幸の言ってる事をあまり理解できてない感じなんだろうな。
そりゃ魔力云々とか言われても、一般人には理解不能だろう。
「その辺どうなんですか?裕美様!」
って私に話振るなよ!?魔王だってバレたらどうすんだよ!?
「さあな……私はその時はその場にいなかったし、魔王じゃないからわからんよ」
幸は納得しないだろうが、とりあえずこの場は適当な発言をして誤魔化しておく。
とはいえ、私も何で動いたのかわからないってのが本音だ。
幸の言った通り、アレがどんな攻撃だったとしても、間違いなく自動防壁で防げただろう。
でも、何故かあの時は、避けなきゃマズイって思考になった。
真衣ちゃんの気迫が、私にそうさせたのか……とにかく、真衣ちゃんの攻撃を避けようとして、私が一歩動いたのは事実なのだ。
その辺、後で真衣ちゃんに聞いてみるかな?
問題は、私が「ちょっと教えろよ」と言って真衣ちゃんに迫った時、真衣ちゃんが泣きだしてまともに喋れない状態にならないかが心配だな……
まぁ大丈夫かな?私が思ったほど怖くないってのは、最近一緒にいる事で理解してくれてるだろうし……理解して、くれてるよね?




