第二十話 裕美様攻略作戦
「ほら、早くしないと10分たっちまうぞ。10分間は反魔法使わないでいてやるから……それでも何もしないでボーっと突っ立てるつもりか?」
とりあえず早く済ませたいので煽ってみる。
その瞬間だった。
待っていたかのように、遠距離攻撃が得意な美咲とサクラが同時に動く。
美咲は魔力の矢、サクラは真空波みたいな魔法。まぁ簡単にいえばいつものヤツだ。とはいえ使った魔法はいつものヤツだが、いつもよりかは強めに魔力がこもっているようだった。
けっこうガチだなコイツ等……
たぶん、私が油断している状態だったら、自動防壁破って軽くだが私にダメージ与える程度の威力はあるだろう。
さすがは変身前の私と同程度の魔力持ってる2人の全力攻撃だとほめてやりたいところだが、生憎と来るのがわかってる攻撃なので、しっかりと着弾予定ポイントのガードを固めさせてもらう。
しっかりとガードは固めているにも関わらず、2人の魔法が当たった場所に軽い衝撃が伝わる。
ダメージはまったくないけど、ガードしなかったらたぶん痛かったぞコレ!?どんだけガチなんだよコイツ等?私じゃなかったら下手したら死人が出るレベルの攻撃だぞオイ。
そして、私に着弾する事で威力が分散された攻撃の余波が地面へと向かい、校庭の砂を巻き上げるように砂煙をあげる。
目くらまし?ここまで考えての攻撃なのか?
一瞬考え込むが、そんな思考する時間すら与えてはもらえないのか、急に体が重くなったような感覚に陥る。
ああ、こりゃノゾミちゃんあたりが重力魔法使ったな。
反魔法抜きの自動防壁だけで受けると、こんな感じでちょっと体が重く感じるのか……
ともかく、コレは足止めのつもりか?動かないでいてやるって言ったのに信用ないな私。
さて、目くらましと足止めがきたって事は、次が本命か?
消去法で考えれば、次に動くのは幸か?
幸による全力の直接攻撃を私にぶち当てようって事か?
目くらましは、攻撃がどこに来るかわからなくするためなのだろう。少しでもガードポイントがズレれば、幸の全魔力を込めた直接攻撃なら、かすり傷くらいは与えられるだろう、とか考えたか?
「そんな思い通りに事が運ぶと思うなよ……」
小さくつぶやき、そっと目を閉じてサーチ魔法に意識を集中させる。
周辺にいる魔力持ちの動きが手に取るようにわかる。
私はゆっくりと、右手を顔の位置に、左手を脇腹の位置に動かして、攻撃してくる2人に備える。
所定の位置に手を移動した瞬間に、両手に衝撃がはしる。
私への直接攻撃を行ったせいで、立ち上っていた砂煙は四散し見晴らしがよくなる。
「魔力量少ないのに無茶すんなぁノゾミちゃん……全力の重力魔法維持しながら全力で殴りかかってくるとは思わなかったぞ」
「そりゃあちょっとくらい無茶しないと裕美さん攻略はできないッスからね……一人一回ずつ攻撃していけば、最後の一発は幸さんだけに意識を集中するんじゃないかってふんだんスけど……通用しなかったみたいッスね」
砂煙の晴れたその場では、右手でノゾミちゃんの攻撃を防ぎ、左手で幸の攻撃を防ぐ私の姿があらわになる。
「前から皆でこっそりと考えていた『裕美様攻略作戦』だったんですけど……こうまであっさりと防がれると自信なくしますね」
何だよオイ!?私の事仲間外れにして、なんちゅう物騒なモン考えてやがったんだよコイツ等!?
ってか、打合せする時間なんてなかったのに、何でこんなに息ぴったりに行動してんのかと思ったら、そういうカラクリだったのかよ!?
泣くぞ私!
「馬鹿かお前等?ちょっとやそっと考えただけで簡単に攻略されたら魔王なんてやってねぇっての」
離れた位置にいる連中にも聞こえる音量で勝ち誇ってみる。
「ちょっとやそっと……って、これでも時間かけて結構真剣に考えてたのよ?それを簡単に攻略したアンタがバケモンなのよ!?」
うん、勝ち誇ってみただけはあるな。煽り耐性低いサクラは良い感じにイラついてるな。ざまぁサクラ!
「まぁ攻略っていっても、どうやってかすり傷くらいは付けられるかってお題目で考えた作戦だしな……しかも反魔法が無い状態での」
なるほど、じゃあ今回のは、まさにそれを試す絶好のチャンスだったわけか。
まぁ普通に考えて、そんな好条件そうそうに無いしな。裏を返せば、反魔法があると、これだけの実力者をそろえてもかすり傷一つつけられないって事か……うん、チートすぎんな私。
あ、そういや「動かないでいてやる」って言ったのに、重力魔法での足止めが入ったのは、前々からの打合せがあったからなのか。
とはいえ、一人一回の攻撃を匂わせて、最後に2人同時攻撃するためには、足止めも連携に含めないとダメだから変えようがなかったのか。
「さて、まだ時間は余ってるけど、これで終わりかお前等?」
これ以上の連携は無いと踏んで、軽く余裕を見せてみる。
「簡単に言うッスね……さっきの連携が通じなかった時点で、ダメージ与えるのはほぼ絶望的なんスけど……いや、裕美さんの事ッスから、わかってて煽ってる感じッスね?」
さすがはノゾミちゃん。私の思考をよくわかってる。
「まったくだらしねぇなお前等……じゃあさらにオマケして、お前等の勝利条件を『私にダメージを与える』から『私をこの場から一歩でも動かす』に変更してやろうか?」
私がそう言った瞬間、私の肩にそっと手が置かれる。
視線を向けると、そこにはいつの間にか絵梨佳が立っていた。いつの間に?
攻撃受けてる最中にサーチした時は、美咲やサクラの近くに立っていた気配があったから、話してる最中に移動してきてたのか……馬鹿4人組を煽る事に夢中になっていたせいで、まったく気付かなかった。
まぁ幸やノゾミちゃんが私の名前呼んでたのは、私にだけ聞こえる音量だったから、たぶん聞かれていないだろうけど……
「あんまり私達の事をあまく見ないで……お姉ちゃん……」
ってバレてんじゃん!!?




